第47話 (第3章プロローグ)地球上
今回は第3章の導入部です
地球上の様子が少しわかります。
主人公たちは次の話から登場予定です。
小山ダンジョン内で各都市が移動を開始する頃、ダンジョンの外でも移動のための準備が着々と進められていた。
発達の遅い所属ダンジョンとはいえ、小山ダンジョンの中には200万人を超える人々が生活をしている。飛行船などで簡単に輸送できる人数ではない。
「隊長、橋を架け終えました」
防衛軍の兵士の一人が部隊長の元を訪れて報告する。
彼らは日本防衛軍の工作隊に所属しており、現在は東京ダンジョンから小山ダンジョンへと続く道を整備している最中である。
本来の防衛軍にとって、ダンジョン間の移動は飛行装備または飛行船を使用して行うことが基本となる。わざわざ魔物が破壊するのを防ぐ必要がある道路など使用しない。
維持をするだけで大量の兵士が必要になるからだ。
しかし今回の様にダンジョンの独立が絡む場合はそう簡単にはいかない。
転移魔法は、同一ダンジョンの内部同士でしか利用できない。正確にはダンジョンの入り口を超えることができない。転移魔法を使用する際に選ぶ転移先は、既に登録済みの転移魔法陣かつ現在自分がいるダンジョンのものしか選択できないのだ。
そして転移魔法陣の魔道具は、何故かダンジョンの外では起動できない。
転移スキルであればダンジョン外でも使用可能なのだが、タマキの様に自分以外も一緒に転移できる者は稀である。つまり使用可能なスキル所持者の数を揃えることができない。
結局は移動しやすい道を作り、乗り物もしくは徒歩で移動をすることとなる。
徒歩で移動をするのは、主に限定シーカーたちである。
国家ライセンスを取得するまではいかなくとも、十分に鍛えている限定シーカーであれば時速50㎞以上の速度でジョギングすることが可能だ。当然道が整備してあればという前提は付くのだが。
「検査班が確認次第撤収だ。東京ダンジョンへ戻るぞ」
今日は既に2本の橋をかけている。
とはいえ使用しているのは魔法でありスキルであるのだが。
<建築>スキルで橋を作り、さらに強度を上げる固定化の魔法をかけていく。
資源さえあれば建造物を築くことが出来る<建築>スキルだが、使用可能な資源はダンジョン内から運び出された資源に限られる。地球上にある土や石を<建築>スキルで利用することはできない。
そのため今回もダンジョン内から資源を運び込んでいる。
また、大きさや精度によって必要とする魔法力が増えるため、橋などの大型建造物は複数人での合同作業で建築していくのが一般的な作業である。
特に今日架設した2本目の橋は大きい。
200年前は国道4号線と呼ばれていた道路跡。
東京ダンジョンのある上野を出発し、隅田川を超えるために1本架設。さらにその後荒川を越えるために2本目を架設したのだ。
川の流れは200年の間にだいぶ変わっているものの、船で渡すよりは<建築>スキルで橋を架けた方が早いのは確かである。
*****
およそ200年前。
スタンピードによってダンジョンから溢れた魔物は、人間が作り上げた文明を執拗に破壊した。
特に建造物に対する魔物の破壊行動は常軌を逸していた。
ただ破壊しただけではない。何故か廃墟にはならず、土に還るのである。
かつてはコンクリートジャングルと呼ばれていた大都会東京も、今となってはただの大森林地帯と化している。
しかし土に還ったところで、ダンジョンの中のようにいきなり木が現れるわけではない。木が成長するには時間が必要であり、人が歩けば道は踏み固められる。
舗装は最終的に壊されてしまうものの、それでもここに道があったという程度には周りと木々の成長の差はのこっているのである。
*****
「隊長、本部から連絡です。
小山ダンジョンとの間を飛行移動している隊が、予定ルートの近くに魔物の塔を発見したそうです」
魔物の塔。
魔物はスタンピードであふれた後、付近に攻撃対象が居ない場合はその場にとどまる習性がある。
現在予想されている魔物の優先攻撃順位は、1番目が人間。そして2番目が人間の作った建造物である。
動物や植物は、魔物の攻撃対象とはなっていない。
そして一定数の魔物が集まると、攻撃対象が近くに居なくとも一団となって移動を開始する。ある程度の距離を移動すると移動を終え、そこに塔を出現させるのだ。
ダンジョン外では魔物を倒してもダンジョンの中の様に復活することは無い。そして地球上で魔物が自然発生する状況は観測されていない。
しかし魔物の塔は例外である。
塔の中では魔物が発生し続けると考えられている。復活ではなく発生であるため、放置すると数が増えていく。
塔を消すには、塔のボスとなっている魔物を倒す必要がある。
「予定ルートとの間に山などの障害物は?」
魔物が移動するルートは、基本的に移動しやすい場所を選んで進む。飛行移動タイプと地上移動タイプが一団となっている場合、飛行移動タイプ単独で移動するのではなく、地上移動タイプに合わせて移動する。
山を越えるよりは平地を進み、海を越えるのであれば出来るだけ狭い所を通過する。
「無いそうです。
ただ、1km近くは予定道路から外れているらしく、1日で通り過ぎるなら影響は無いかもしれないとのことです」
「『存在力』次第ということか」
魔物は攻撃対象を、基本的には視覚や嗅覚などの五感で見つけると考えられている。そのためある程度離れていれば襲われることは無いはずなのだが、不思議な例外が存在している。
存在力。
ある研究者が仮定した力で、ダンジョンの中から外に出た人間は、ダンジョンから出た瞬間から存在力が大きくなり続ける。そして存在力が大きくなると、遠くにいる魔物にも発見される。一度ダンジョンに入るとリセットされ、再び外に出ると0から大きくなり続ける。そのような力が存在するという仮説だ。
実際にダンジョンからすぐ外に出た位置でキャンプをしていても、日が経つごとに周囲から魔物が次々と押し寄せてくるようになる。
周囲をどれだけ掃討しても、さらに遠くから魔物がやってくる。
これは現在の地球上で人間が暮らす事のできない一番の原因となっている。
地球から魔物を一掃したうえで魔物がダンジョンの外へと出ないようにでもしない限り、解決の見込みはたっていない。仮に日本の地上から魔物を一掃できたとしても、海や大陸からも魔物が押し寄せてくると言われている。
「まぁ、それでも本部から連絡が来たという事は、攻略するのだろう。
軍やシーカーならともかく、鍛えてない人も通るのだから当然と言えば当然だな」
自分達の仕事は、人々が移動するのを助ける為の道づくりである。工作部隊の護衛に戦闘部隊が付いているとはいえ、足手まといとなるのは目に見えている。
「隊長、検査も終わりました。撤収準備できています」
「よし、撤収。
明日壊されていたら、復旧することになるがな」
復旧だけなら楽なことだ。
どうせ全ての場所を守ることなどできはしない。
壊されたという事は魔物が居るという事であり、橋や道路を餌にして魔物を討伐する。
数年ぶりの大移動だが、既に道路づくりは何度も行われている。これらはいつもの事であり、魔物を探し出すよりもおびき出す方が楽なのだ。
こうして架設した橋からすべての部隊が離れ、全員で東京ダンジョンへと帰っていくのだった。
第3章スタートです。




