第48話 訓練施設
前回のあらすじ:
第46話 都市が移動を開始した。
第47話 ダンジョンの外では道づくり開始
移動ルート近くに魔物の塔が発見される
「あれ?
入れないね」
訓練施設の対魔物戦ゲートに入ろうとしたユウキだが、入ろうとしても何故か入る事が出来ない。
「ほんとね」
「ダメですね」
ユウキ同様にタマキとサクラも試すが、結果は同じである。
「おかしいわねぇ。私達も無理ね。
この期間の使用許可もとってあるし、他に誰も使ってないのは確かなのにねぇ」
スミレやクラン黄昏のメンバー2人も試すが、やはり入る事が出来ない。
使用状況を示すランプも、今は消灯したままだ。
ユウキたちは今、訓練施設『初級コース』完了者を増やそうと6人PTを組んでいる。
これはミッションや中級エリア等の調査員として動くには3人がまだ未熟であり、魔物討伐だけでは解決できない問題に直面する可能性があるからだ。
再び訓練施設をクリアする必要があるため、ユウキたち3人は特殊部隊:霞としての装備で身を隠している。
スミレとしては、3人には学生生活を楽しんで欲しいという思いがある。知識も思いも願いもなく、自分達にしかできないなどという使命感のようなものにとらわれて欲しくはないのだ。何かを決断するにせよ、社会を知り、じっくりと自分を見つめ終えた後に決断してほしいと思っている。
そのための第一歩として、スミレたちのPTでも調査位はできるという道を作ろうとしているのだが、一歩目から想定外の状況が発生している。
「考えられる可能性はいくつかあるわね。例えば……」
スミレはすぐに予想できる可能性をいくつか口にする。
1.一度訓練施設をクリアした場合、その人は同じ訓練施設を使用できない。
レイドボスという前例がある。同じ場所で同じ方法で出現させたレイドボスは、一度倒していると戦闘に参加できない事が分かっている。
この場合は他のダンジョンの訓練施設であれば使用可能となる。
2.一度訓練施設『初級コース』をクリアした場合、その人は同じ施設で訓練施設『初級コース』を使用できない。
1と似たような状況であるが、訓練施設という単位ではなくコース単位で制限されている可能性がある。この場合はやはり他のダンジョンであれば使用可能であり、ユウキたち3人だけであれば小山ダンジョンの訓練施設ゲートに入る事も可能となる。
今は『初級コース』に入れない人と『初級コース』にしか入れない人がPTを組んでいるため使用できないという状況だ。
3.一度訓練施設『初級コース』をクリアした場合、その人は訓練施設『初級コース』を使用できない。
一見2と同じようにみえるが、この制限の場合は小山ダンジョン以外でも訓練施設『初級コース』を使用できないことになる。
4.訓練施設の完了状況が異なる人同士でPTを組んでいる場合は使用できない。
訓練施設の制限ではなくPTメンバーの制限。『初級コース2回目以降』になるメンバーと『初級コース1回目』になるメンバーで一緒に入れない可能性。
PT活動が基本となるのであれば、そのPTで突破できなければ意味がない。そのため既に突破している者の力を借りて突破するという行為が出来ない可能性がある。ここはあくまで訓練施設なのだから。
この場合は小山ダンジョン以外のダンジョンでも一緒に使用することができない可能性が高い。
5.訓練施設に同じ人は1週間に一度しか入れない。この制限が『初級コース』を完了できなかった者向けの制限であり、完了した人が再使用するにはもっと長い時間が必要となる。
使用制限は今までの経験から1週間だとされているだけで、過去に完了した者などいなかった。そのためユウキたちには別の制限がかかっている可能性がある。
この場合でも小山ダンジョン以外のダンジョンであれば使用可能であり、小山ダンジョンでもいつか使用可能になるかもしれない。
「今試せるのは、俺たち3人だけで入ってみることですかね?
俺達だけでも入れなければ1か5、入れても『初級コース』に行けなければ2か3、『初級コース』に行ければ4ですよね」
スミレの推測を聞いたユウキが、現時点で状況を絞り込む方法を確認する。
「そうね。入れなかったら東京ダンジョンに行ってから再挑戦よ」
少なくとも現時点でユウキたち3人以外のメンバーが訓練施設を使用できない状況は考えにくい。原因は、ユウキたちが他の人と違う状況になっているからという推測だ。
「入れたら『初級コース』に行ってみて、行けたら素材回収してきて頂戴。『初級コース』に行けず『中級コース』にしか行けなかったら、クリアはしないでね。
その場合は貴方たちの6人固定PTメンバーが出来てからにするべきだわ」
ユウキたちであれば、現時点で『中級コース』であろうと突破できる可能性が高いとスミレは考えている。
しかしスミレが知る限り、他の人では初級の突破すら目途が立たない状況なのだ。そこへ中級も自力で突破して追いつけというのはさらなる無茶というものである。
「入れたわね」
「ゲートが二つありますよ」
ユウキたち3人だけのPTで試すと、あっさりとゲートの中へ入る事が出来た。
入った先には訓練施設で使用する装備が用意されている部屋である。前回来た時に見た先に進むゲートは一つだけであったが、今は二つ用意されている。
「初級と中級って書いてあるよ。多分どっちも行けるんだろうなぁ」
「そうなんでしょうね。しかもこの状況、中級へ行く場合も同じ木製装備で挑めってことよね」
「あ、そういう事になるのか。
普通にクリアするのって大変そうだよね」
「多分根本的に何かがあるんでしょうね。
私達の知らない何かが」
話しながらも訓練装備に着替える3人。既にこの後の予定も決まっている。
先ずは初級に行く事が出来るかどうかの確認だ。
「普通に行けたね」
「そうね。スミレさん予測の4かしら」
「まだ予想外という可能性もありますし、東京ダンジョンでも再び試すのではないでしょうか」
「そうね。
さっさと片づけましょ」
そうして先に進む3人。
今は控室にスミレたちを待たせているので、ユウキの魔石回収と<魔化>での移動短縮をはじめから使用している。
「訓練施設『初級コース』として改めて考えると、ゲートごとに迷宮タイプと洞窟タイプが交互に来ることも、あの不思議な落とし穴も訓練っていう事なんだろうね」
初めの緑ゲートの中では、床も壁も天井も全て平面で構成されており、罠の類は全くない。次の黄色ゲート内は床、壁、天井がごつごつしたむき出しの岩肌で出来ている洞窟タイプだ。ここも同じように罠は全くない。
オレンジゲート内は再び迷宮タイプだが、深さが50cm程度の落ちても大したことのない不思議な落とし穴が存在している。
前回訪れた時には不思議だったが、訓練施設『初級コース』と確定した今では落とし穴というものが存在するという訓練なのだろうと理解することができる。
「私達は<魔化>ですり抜けているけど、赤と黒には何かないのかしら」
前回通常移動したのはオレンジゲート内の途中まで。それ以降は<魔化>でショートカットしてしまっている。
「うーん。あ、なんか飛び出す矢があるね。赤は矢の罠があるというお知らせかな」
再び赤ゲート内を移動しながら罠を探すユウキ。当然の様に魔石と魔物は回収しながらである。前回は魔石と魔物以外は気にしていなかったので、罠には気が付いていなかった。
「黒は……罠がない?
いや、天井が落ちるのか」
黒ゲート内で罠の兆候を探るユウキは天井の一部が迷宮自体から切り離されていることに気が付いた。そして一度気が付くと、他の事も同様に見えてくる。
「横の壁も迷宮から独立している部分があるから、道が狭くなってくる罠もありそう。スイッチは見当たらないから、何か別に感知する仕組みがあるのかな」
「私達のPTだと私の転移や<魔化>があるからいいけど、普通の人ってそこも難しそうね」
「報告することが増えましたね」
とはいえ情報があって困る事ではない。
そもそも戦力的にもたどり着くのが困難なのだ。
検討する時間は十分にあるだろう。
「戻りました」
初級コースをクリアした3人は、スミレたちの待つ控室へとまっすぐに移動した。
「おかえりなさい。どうだったの?」
「前回同様『初級コース』に行く事が出来ました」
「……そう。
この方法で中級の調査員を育成する計画は、無理そうねぇ」
そしてユウキは新たに気が付いた罠についても報告する。
ユウキの報告に悩むスミレ。
「やっぱり私達で調査します?」
そこへタマキが出来る事を提案する。
「貴方たちはまず学校よ。少なくとも現時点で何が判明していて何が判明していないかも分からない状況の貴方たちだけが入っても、調査としてはあまり進まないわ。
中に入れるかどうかのテストは重要だけどね。
ただ、入れたとしてもダンジョンのスタンピードを抑え込むには人手が必要だし、そもそも入れないダンジョンは一つだけではないの。
やっぱり初級コースを突破する方法を考える必要があるのよね……」
何かいい方法はないかしら……と悩み続けるスミレだった。




