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第34話 非戦闘系スキル

前回のあらすじ:

レイドボスの話を聞きました。

ユウキ、タマキ、サクラの3人はシルバーシーカーになるようです。

「最後に貴方達のスキルについてね。先ずはタマキちゃん。

 転移系のスキルは珍しいと言えば珍しいけれど、他にも持っている人は居るわよ」



 スミレは具体例として<遠視>スキルのアレンジや<念話>スキルのアレンジの事を説明する。見える場所へと移動するアレンジや、念話の相手の場所へと移動するアレンジ。

 使い方によって一長一短があるが、それぞれとても便利なスキルである。



「だから便利ではあるけど、そこまで警戒しなくても大丈夫よ。フリーでいると勧誘される可能性は高いけど、既にクランに入っていると言えば普通はあきらめるわ」



 タマキはそれを聞いて肩の力をぬく。



「そうなんですね」


「そうなの。でもアレンジスキルを取得していない人に伝わるのは勿体ないから、誰にでも話していい内容ではない点は注意してね。

 ギルドや審問官、後は国所属の調査員。この関係者以外にはあえて話す必要はないわ」


「分かりました」


「続いてユウキ君。

 <収納>のアレンジスキルについても珍しくはあるけど、やっぱり居ない訳ではないわ。ただ、<収納>スキルで魔物を倒すアレンジは初めて聞いたわね。

 聞くのは時間停止、追加容量、触れずに収納位かしら」


「触れずに収納で、魔石の回収ってできないんですか?」


「直接聞いたわけではないけど、箱の中身だけを収納するという事すら聞いたことが無いから無理だと思うわ。

 多分ユウキ君のは、領域と部分出納の組み合わせで可能になっている事だと思うの。領域という内容さえ初めて聞いた話だし、似たようなアレンジでも微妙に違うのよね。

 だからユウキ君のスキルに関しては、攻撃している事さえ分からなければあまり注目されることは無いわ」


「そうなんですか?

 自分で言うのも何ですが、<収納>はかなり便利なアレンジだと思うんですけど」


「そうね。便利な事もあって、人類は昔、アレンジスキルに関してミスをしているのよ」



 人類が過去にミスをしたアレンジスキルの筆頭が<収納>のスキル。

 時間停止と追加容量のアレンジが初めて登場した時、皆がこのアレンジを欲しがってしまった。

 狩った魔物の素材を新鮮なまま持ち帰りやすくなるのだから、当然と言えば当然だろう。


 当時はまだ、アレンジスキルの取得に関して判明していることは少なかった。しかし、アレンジスキルとして<収納>をとった者が、通常スキルとしての<収納>を取得しない事に気が付いた。

 そして一つの仮説が出来上がる。通常スキルとアレンジスキルで同じものを取得することは出来ないのではないか、と。

 その結果、魔物との戦いをやめアレンジスキルの取得まで待つ人が増えることになった。


 当然魔物素材の流通が少なくなり、魔物の討伐が少ない事でスタンピードが発生した。

 さらに人々が魔物を倒すことによって得られる成長も、何年もの間止まってしまった。

 そして今ならわかるように、そんなことを願ってしまった当時の人達はだれも<収納>のアレンジスキルをとることはできなかったのだ。



 一度出回った情報を忘れ去ることなど難しい。


 魔物の討伐はアレンジスキルを取得してから。

 このような風潮が出来てしまい、既にアレンジスキルを獲得している者に続く戦力強化が出来なくなった。


 そうこうしているうちに、人類は地表での生活を放棄。

 ダンジョンの中での生活において、魔物と戦わないなどという余裕は無い。

 政府は、子供の内から魔物との戦いを経験させるという今の方針を決める。

 そしてアレンジスキルを取得するまで魔物との戦いをやめるという事を防ぐために、中学生の段階で<収納>迄取らせることとした。

 これは全ての人が<収納>を使用できることにより、移動や住居における空間効率のメリットを考えた結果でもあった。


 この状況を当たり前のものとして続けること数十年。

 やっと人々の間から、アレンジスキルとしての<収納>を目指すという風潮は消え去り、皮肉なことにそのことによってアレンジスキルとして偶然<収納>を取得する者が表れ始めたのだった。


 その頃になってようやく研究者の仮説が出来上がる。

 アレンジスキルというのは、具体的にアレンジ内容を考えているスキルは取得できないのではないか、と。



「高校まで<収納>スキルの取得を遅らせれば、可能性は出ませんか?」



 スミレの話を聞いたユウキは疑問点を指摘する。



「そうね、ユウキ君ほどの可能性があるならそれも手なんだけど、難しいのよ。制度を変えるには理由が必要で、<収納>を理由にするとまた情報が広がってしまうかもしれない。

 それを子供たちの耳から完全に切り離すのは難しいの」



 今でも家族のサポートなどで、小学生になる前に先に基本スキルを取得したりすることにより、アレンジスキルとして<収納>を目指す家庭はある。

 それでも可能性は当然低い上に、何のためにやらせているかを子供に説明することもできない。

 しかし子供達に直接話が届いてしまうという事は、それすら潰してしまうという事になる。


 スミレの説明を聞き、ユウキは確かに<収納>のアレンジなんていう事を全く考えていなかった環境だったことを理解した。





「最後はユウキ君のスキルで魔物を倒した際の戦闘経験の話ね。

 これには別のスキルだけれど、前例があるわよ」



 スミレが心当たりのある内容とは、<収納>と同じく非戦闘系スキルの<解体>と<伐採>の記録だ。

 本来<解体>は死んでいる魔物にしか効果が無いが、生きている魔物に効果があるようにアレンジした者が居た。

 そして<伐採>に関しては魔物ではない植物や伐採ポイントと呼ばれる不思議な場所に対してしか効果が無いが、魔物である植物に対して効果があるようにアレンジした者が居た。

 ただしどちらも、自分の攻撃力で倒せる魔物である場合にしか成功しなかったのだが。


 これらのスキルを使用して倒せる魔物を倒していた者達が、同じく戦闘経験を得られていないという結論に至ったのだ。

 当然これには研究者も注目し、『非戦闘系スキルをアレンジして魔物を倒したとしても、戦闘という認識がされないのではないか』という仮説を示したのだった。


 スミレの話は一般常識ではなく、あくまで研究論文の仮説である。ユウキやタマキ、サクラがこれらを知らないのは当然であり、スミレですら知識欲の一環としてみたことがあるという程度だ。



「つまり、<収納>が『非戦闘系スキル』だから戦闘扱いにならないという事ですか?」



 しかし前例を聞いたユウキがそう思ってしまうのも仕方のない事だろう。



「そこは分からないわ。あくまで研究者が言っている仮説よ。それにこの話の<解体>や<伐採>は魔物を全て素材にするスキルだけど、ユウキ君の<収納>は一部だけを切り取れるのよね。その場合は変わるのかもしれないわ」



 仮説はあくまで仮説であり、絶対に合っているとは限らない。実際は個別に確かめてみるより他はないのだった。







「あら。ほんとに光って消えるのね」



 色々な話を聞き、狩ったオークの納品を終えた3人は、スミレを連れて再び狂乱の塔の20Fへと訪れている。


 オークの納品量についても驚いたスミレだが、念のためにクランで納品という形で処理をすすめた。

 大量の納品ゆえにいつも専用の場所で納品する形となっているユウキとタマキ。この状況を聞いたスミレは、いつかギルド関係者以外にも見られる可能性を危惧し、クランで狩った魔物を納品しに来た子供達というミスリードをさせるためにクラン所属のPTカードを別に作成したのだ。



「光はただの偽装ですが、これならそれらしく見えますよね」


「そうね。聞いていなかったら確かに魔法だと思うわね。

 ただ……タマキちゃんはあそこまで行くとびっくりね」


「オークを一閃ですね」


「サクラちゃんの踊りも加算してないのに。どう見ても称号の効果だよね」



 3人が見ている先では、タマキがオークを次々と倒していた。



「俺の収納容量もどれだけ大きくなったのか分からないくらい成長していたし、知覚できる領域もすでに訳分からない範囲になっているんだよね」



 ユウキは狂乱の塔から出た後、知覚で周りを探ってはいなかった。

 そのため、範囲の変化を認識していなかったのだ。オークを納品する時になってやっと収納の空き容量の割合がおかしいことに気がついた。

 そして狂乱の塔の20Fへときて周囲を収納の知覚で確認すると、20Fの迷宮部を全て把握できた上に周囲に空洞は無く、物質によって埋められた空間が広がっていることまで分かってしまった。



「あ、またトレインかな?」



 ユウキは既に自動迎撃は止めている。

 タマキが1発で倒せるのであれば、ユウキがわざわざ倒して戦闘経験を減らす意味がないからだ。最初にタマキの成長を見る時に間引いた以外では、ただ見守っているだけである。


 サクラを囲んだ時のような大量のオークではないが、10個の魔石の反応が何かを追いかけるようにして動いている。しかも今、自分達がいる場所へと向って。



「10体のオークがこっちにくるみたい」


「ユウキ、先頭は分かる?」



 前回は何かを追いかけていそうという事しか分からなかったユウキ。今回は追いかける必要が無いため知覚で状況を確認する。



「オークと同じような形をしているけど、魔石の反応が無いから人間かな?」



 ユウキが悩んでいる間にもオークの集団はどんどん近づいてくる。



「来たわね。でも、先頭もオークに見えるわよ」



 そしてオークの集団は迷わず4人の元へと向って来たのだった。

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