第104話 選択する人々
前回のあらすじ:
クリスマス編3話終了
メインストーリー側は江戸ダンジョンについての初情報を発表。
――12月31日。
1年の最後を締めくくるこの日、クリスマスにビッグニュースを提供した江戸学園ダンジョンについての年越し討論会が開催されていた。
TV局主催の討論会であり、ダンジョン運営側として出演するのは中泉環境大臣の他はダンジョン探索協会の会長である。
ダンジョンが登場してから200年余り。多くの技術が失われ、また逆に多くの新技術も生み出されてきた。TVというものはその中でも衰退と発展の両方を経験している物と言える。
ダンジョンの中では基本的に、地球で元々使用していた通信機器は役に立たない。正確には通信が特定の場所を超えられない現象と、電波の届く距離が非常に短い現象が発生していた。
この原因については今回江戸学園ダンジョンの完全制覇により設定項目として開放された部分で判明した。エリアをまたいでの情報の移動や長距離通信自体に制限がかかっていたのである。ダンジョンシステムに関わるものを除いて。
そのため<念話>のスキルやユウキたちのミッション開放によるPT会話などダンジョンシステムに関わるものは問題なく使えたが、地球の科学技術で用意された通信機器などはダンジョン内では役に立たなかったのだ。
とはいえエリア内のかなり狭い範囲では通信に問題はなく、また有線でエリアを超える事でも通信は可能だ。都市の外に設備を維持することは難しくとも、都市の中で有線にて通信を維持することは可能である。
実際にTV放送用の送信アンテナは都市内の各地に建ち、そしてそのそれぞれが有線で接続されている。各家では受信用のアンテナを使用したTV機器で放送内容を見る形である。
もちろん動力源は魔石エネルギーであり、機器自体もダンジョン内資源で構成されている。映像再生用のダンジョン産魔道具を研究して作られた物であり、機器としては200年の間に進化したと言えるだろう。
その一方で放送という部分では完全に退化していた。当然のことながら別の都市へ向けての放送などはできるはずも無く、基本的には撮影した録画データを輸送して別の都市でも再生する形だ。撮影用機器や情報保存機器もダンジョン産魔道具を研究して作られているため、機材自体は高性能になってはいるのだけれど。
「さて、このように発表された江戸学園ダンジョンについてなのですが……」
番組内では12月25日に放送された江戸学園ダンジョンの内容が再度放送され、司会の女性が予定内容を進行させていく。
当然討論の形なのでダンジョン運営側以外にも人が居り、コメンテーターや政治家、一般参加者等も多数討論者として呼ばれている。
「よろしいですかな」
「はい、全ては国民の為党の木村先生」
司会の女性がこれまでの内容をおさらいしたところで、参加者の政治家が討論会の火蓋を切り落とす。
「先ず今回突然発表された江戸学園ダンジョンについてですが、ある日いきなり計画された内容だと聞いています。これほどの大きな問題に関して国民に何も説明されずに進めたこと事態が問題なのではないでしょうか」
切りだした木村は初期のダンジョン討伐報告会議には参加していない、いわばそこまで上にはいない政治家である。もちろんその後国会で審議されて予算も通っているのだから、全く知らない訳ではないのだが。
「はい、ご指摘ありがとうございます」
それに対して中泉環境大臣が回答する。
「ある日突然、というのはその通りですね。私達もある日突然報告を受けたのですよ。
ダンジョンにはダンジョンボスという存在がいて、倒すとダンジョンを管理できるようになるという事を。これに関しては会長さんの方が詳しいでしょう」
そう言って回答を変わるという視線を投げる。
「そうじゃな。実際に報告をあげたのはワシらじゃからのう。
それに関しての質問があるなら儂から回答することになるが、答えられることは少ない」
報告した事実だけを示し、再び視線を交差させる。
「とはいえあくまで報告です。ダンジョンの歴史に、研究に新たな出来事が加わるだけで我々日本国及び日本国民に何か影響があるわけでもありません。
今回交渉が一段落したことで正式に発表することが出て来たという事です」
「それはおかしい!
ダンジョンを管理できるという時点で国民に示し、その活用法については国民に問うべき内容のはずだ」
木村は声を張り上げる。
当然政治家としてのパフォーマンスではあるが、活用法に異議があるというのは本心である。今のままでは戦闘訓練を希望しない者に対して何もメリットを提供できないからだ。
「それはわたくしもそう思います。今回の江戸学園ダンジョンの計画自体は素晴らしいものであると一国民として考えていますが、何故用途を限定する必要があるのでしょうか?
無限の大地と言われる程広大な大地があるのですから、安全な定住先としても利用できないのですか?」
こちらは単純に一般参加の女性だ。ムーブコア内は安全であるとはいえ、いくら広くてもやはり都市内だ。都市の外を安全に自由に移動してみたいという欲求はある。
「それに関してですが、まずひとつ勘違いされていることがあります。
我々日本政府や防衛軍など、国として、組織としてダンジョンを攻略などできてはいません。ですので我々はどれだけ計画を立てたところで、現状ではダンジョン攻略などできないのですよ」
中泉はあっさりと宣言する。
「それは詭弁だ。実際にダンジョンを攻略して管理にまで至っている」
「ええ。ですのでそれは、我々が攻略したダンジョンではありません。
あくまで特定の条件を元に提供して頂いているにすぎません。ダンジョン内で手に入れた物は誰の物かは当然ご存知ですね。
そして国有ダンジョン内以外のダンジョン内は、我々日本国のものではないという事も」
とはいえ中泉もすでユウキたちと会話をした今では分かっている。
本気で頼めば急ぎでもない限りダンジョンを用意してもらう事は出来るだろうと。基本的にお人好しであり、余りにも欲が無い。むろん対価として出せる程度のものであれば自分たちで手に入れられるからという事があるのだろうけれど。
しかし今それをやってしまうと際限が無くなるのは目に見えている。そして提供してもらったところでいずれ全てなくなるのだ。
ダンジョンボスの攻撃を体感した今では、中泉にも良く分かる。あれは簡単に倒せる存在ではない。訓練用ダンジョンで死に物狂いで訓練し、新たな何かなど根本的な部分の変化でもないと厳しい状況だ。
そのため中泉の中では全てが消え去る前提で動くべきだという意見はより強固なものへと変わっている。
「そして今回提案して交渉した内容が、我々自身で攻略できるように訓練することができるダンジョンとして利用するという事でした。
何時の日か日本という国として、組織としてダンジョンを攻略し、国としてどう活用するかを国民全体で考えられるようにと」
中泉はカメラの方を向かってしっかりと説明する。討論という形をとっているが、あくまで中泉にとっては宣伝だ。多くの者に状況を理解してもらい、誰かが何かをつかむ確率を少しでも上げたいところである。
「提供してもらったという事だけどさ、ダンジョン内って広いじゃない?
さっき彼女も言ってたけどさ、別に訓練だけで利用する必要はないと俺は思うんだよね。それにダンジョンの外の映像もあったでしょ。整備されてるんだから活用方法が見つかったってことだよね。
その辺のことはまだ発表されてないじゃない?
視聴者はそういうことも聞きたいと思うんだよね」
コメンテーターの男性が慣れた調子で軽く話を進める。聞きたいことは色々とあるが、事前にNGとなっている項目もある。
特にどうやってダンジョンボスを倒したかという部分は完全に秘密だ。これに関しては放送した時点で将来の芽を潰す可能性があると出演者全てに警告がなされている。
「その部分に関しては、いくつかの前提つきで新たな使用法が検討される可能性はあるでしょう。
まず一番に認識して頂きたい事があります。
それは現在江戸学園ダンジョン及びその周りの安全な地球上の土地は、一時的に使えるだけという事に変わりはありません。とはいえ恐らく100年近くは使える可能性が高いでしょう。
ですがその頃には再び魔物の世界となり、安全な場所ではなくなります」
カメラの方を向いて説明する。
特にこの部分を知らない場合、何故活用しないのかという疑問が残ってしまうからだ。
未だに既存ダンジョンも管理したいという者が居るので釘をさす必要がある。
「ですので活用するとしても、期間限定での活用となります。どれだけ開発しようが、現状のままでは全てが無くなります。ダンジョンボスというのはそれほど強力な存在です」
カメラから視線を切り、出演者の表情も一度見まわす。
「ですので、土地を販売したり、何かしらの権利のような期間に縛りが無い物は活用できないと思われます。いつ無くなるか分からない上で期間限定の何か、このような使用方法が限度であると考えます。
ですので先ほどありました定住の話は厳しいと思います。どうしても子や孫へと生活の場を残したくなりますし、相続したくなりますから。
そしてこれが、国有ダンジョンを管理できない原因でもあります。現状のままでダンジョンボスを討伐してもらった場合、200年かけて開発したこの東京ダンジョンは、100年後には無に返る可能性が高いのです」
そこで会話を区切り一息、そして……。
「そのため現在は無くても困らないダンジョンという形で運用していくしかないと考えます。未来の子供達の為にも、今まで200年かけて築き上げたダンジョン内の生活基盤を失う訳にはいきません」
そうはっきりと宣言するのであった……。
とはいえそう簡単に引き下がれないのが政治家というものである。個人としては納得できる部分があれども、有権者の中にはそれでは納得しない者もいる。そういう者達に向けてのアピールをするのも仕事の内だ。
「なるほど、現状特定用途のために借りているような状態であることも、そして使えなくなっても困らない運用でなければならないことも分かりました。
ですがあくまで江戸学園ダンジョンは訓練用ダンジョン。訓練を目的とすれば立ち入りも中での生活も可能という認識でよろしいですか?」
一見木村はダンジョンに入る条件を確認しているように見えるが、目的を訓練としてしまえば入れるのではないかという意味でもある。元々訓練に訪れる為のダンジョンであるため、目的を達成した後ダンジョンから出ること自体に制限はない。
訓練後にダンジョンボスが出現しているダンジョンへ戦闘に行く事も考慮されていれば、訓練が合わずに東京ダンジョンへと戻る可能性も想定されている。
「その通りです。とはいえ訓練のレベルは『自ら危険な魔物に立ち向かい、何度も死に戻りをしながらも戦い続ける勇敢な心を持つ者』という江戸学園ダンジョンならではのレベルの訓練を求める者となりますが。
他のダンジョンで出来るレベルの訓練であれば、わざわざ特殊なダンジョンである意味などありません。定期的に魔物を狩って納品していただくという行動で示していただく必要もあります」
そして25日には紹介していなかった情報も公開する。
ダンジョン探索協会は江戸学園ダンジョン内では特別なランク制を導入する。これは通常高ランクほど安くなる税金を、江戸学園ダンジョン内に限り高くするというものだ。
そしてギルドカードも江戸学園ダンジョン内専用の別カードを用意し、全ての人はFランクから始まる。当然ランクが高いほど税金は高くとも色々と優遇を受けられるようになる。
これは高ランク帯の一流クランメンバーたちは、既にあまりお金を必要としていないという事情がある。とはいえ訓練では魔物を倒すことになり、更に納品もしてもらう事によって訓練をしているという事も確認するのだから納品物は増える。
そこでその利益の一部を使って環境整備にあてようというのだ。
多くの一流クランはEPを買い取ってもらったために金が余っている。訓練用ダンジョンを用意してもらった分で還元することに異存はない。
そしてその使用先として、学生たちの学費が無料になるという使われ方も喜ばれた。
特にローカルシーカーの一部は学校を出ていない者もおり、この際に知識をつけ直す事もできるからだ。社会人入学も対象となっているため、再びダンジョンシーカーを目指す事が出来るというメリットがある。
座学に関しては映像授業の実施が既に決まっており、学生の受け入れ人数自体に制限はない予定だ。建物など資材があればすぐに作り出せるのだから。
「特に訓練に意欲のある学生であれば、大きなお金をかけずに学業も訓練もすることができます」
もちろん中での仕事を手伝うアルバイトをすることもできれば、魔物との戦闘一筋という生活もできる。特に低ランクの者と組んで高ランクの者が戦闘をする事にもメリットを用意している。
これにより弱い者を強い者が自然と引き上げる流れもできるのだ。制度として様々な物を用意している。
「ただし、あくまで『自ら危険な魔物に立ち向かい、何度も死に戻りをしながらも戦い続ける勇敢な心を持つ者』という覚悟だけはしてください。
その心の準備さえあれば、他には何もいりません」
もちろん中泉とて木村の言っている意味は分かる。訓練と称して遊びに来ることができるという意味だ。
これ自体は一時利用としての見学のようなものであり、体験自体は悪いものでもないと考えている。言葉や映像だけでは分からない部分もあるのだから。
そして遊びのつもりで訓練もせず長期間居座る者には……。
未だ発表していない、ダンジョン管理システムの各種イベントでおもてなしをする予定なのであった。
*****
――3月1日。
共通学科試験も終わり合格発表を迎えたこの日、ユウキたち3人はトオルとマキの2人も含めた5人で結果を見に来ていた。
「なんか大晦日以降、受験勉強が気楽になったよな」
トオルがまだ結果を見ていないにもかかわらず、緊張感の無い口調で話し出す。
実際心構えさえあればいいという事は、試験を重視していないともいえることだ。
「でも向こうでどの場所にある学校にするかの優先順位に関わるじゃない。
選択肢は多い方が良いわよ」
その言葉にタマキが応える。
基本的に5人共江戸学園ダンジョンへ向かう予定なのだ。元々はユウキたちも基本的に合格するよう言われていたが、完全制覇の状況が全てを変えた。
人数制限をする意味が薄れたのである。
とはいえ全ての人が江戸学園ダンジョンを目指すわけでもない。
江戸学園ダンジョン内の学校では、素質の表示は行われるもののクラス分けには適用されない。
本気でダンジョンシーカーを目指す者はともかく、ただ単にエリート同士の交友関係を広げたい富裕層にとっては既存学校のダンジョン科で素質の高い者同士で交友を広げた方が都合がいいのだ。
元々卒業したら戦いとは関係のない生活を送る予定であり、実際には死なないとはいえ死ぬ覚悟をして迄魔物と戦う必要もない。
そして富裕層でなくとも家業を継ぐ予定の者達は、基本的に地元に残る者が多い。あえて魔物と戦う必要などないからだ。
いくら学費が無料と言えど、目指す未来に向けて歩く道は違うのである。
「どうだった?」
全員が結果の封筒を受け取り、それぞれ自分の結果を目にしている。
「563点」
「なんで俺より上なんだよ」
聞いたのはトオルなのだが、思ったよりも高いユウキの点数に思わず突っ込む。
ユウキが答えた点数は6教科の合計点である。国語、数学、理科、社会、ダンジョン学基礎に魔法学基礎。各100点満点で合計600点満点だ。
授業で習っていないはずのユウキが習っているはずのトオルよりも点数が上というのは確かに驚く部分である。
「ダンジョン学と魔法学はタマキとサクラちゃんに勉強を教えてもらったし、基本的に教科書に載っている範囲だったし」
「教科書に載ってるだけで点数が取れるなら授業はいらん」
「私も560点だから負けたわね」
「548点です。ユウキさん凄いですね」
「いやいや、私なんて530点よ。3人とも凄いわ」
タマキとサクラもユウキに負けたというが、マキからすれば3人共が自分より上である。
「……512点……」
「……どんまい」
「ユウキよりは上だと思ってたのに」
「だから勉強は普通に得意だって知ってるでしょ」
「それでも納得がいかん」
とはいえ全員十分に高得点である。
学科試験時に江戸学園ダンジョンへの入学予定と申請済みなので、後は現地で進学先となる学校の位置を選ぶだけだ。
「どんな風になっているのか楽しみだね」
トオルとマキが江戸学園ダンジョンに進むと決めたことにより、ユウキたちは2人に自分たちの事を説明済みだ。もちろん他言無用と伝えた上で。
素質の事は心配されたが、アレンジスキルの内容を聞いて驚きに変わったものである。
とはいえレイド等を含めたミッションの分離を考えるとトオルたちにべったりという訳にもいかないのだけれど、理由さえ説明しておけばそういう事もあると理解してもらえる友人は貴重である。
「タマキちゃん達は中の事何か知ってるの?」
「映像の事以上の事は知らないのよね」
ユウキたちの名字は既に3人とも並野である。そのためマキはユウキ君、タマキちゃん、サクラちゃんと呼んでいるのだ。そしてユウキとタマキはマキの事をマキちゃんと呼び、サクラはマキさんと呼んでいる。
もちろんトオルはユウキたちの結婚を聞いて最初は驚き、しばらくはニヤニヤして最後はおめでとうと素直に伝えた。まだ中学生であり、余り実感がない状態だけれど。その横でマキは羨ましそうな視線を向けてトオルにアピールしていたのが印象的だ。
「江戸ダンジョン向けのバスが出ているみたいだし、混まない内に向かいましょ」
既に結果を受け取った人の一部はバス停に向かってい動いている。
元々点数の結果に関わらず、江戸学園ダンジョンへと向かう者の行動は変わらないのだ。
既にマキは家族に出発の挨拶を済ませており、トオルは住んでいた部屋を引き払い済みだ。
ユウキたちもスミレたちには既に伝えてあるが、むしろスミレたちの方が早く移動済みともいえる。
完全に移り住んだわけではないけれど現地でたまに訓練をしており、内容は秘密だけどかなり面白いわよと好評だ。新しく登場した魔物施設を気に入っているのである。
こうしてユウキたち3人は新たなメンバー2人を連れて進んでいく。
まだ見ぬ江戸学園ダンジョンへと向けて……。
これにて第4章『素質至上主義と江戸学園ダンジョン』編完結です
同時に第一部『入学前』編も完結となります。
特殊な状況となる主人公たちの入学前と世界観についての第一部でしたが、結構長くなりました。
ここまでの評価などをしていただけると作者がかなり喜びます。




