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第100話 江戸学園ダンジョン

前回のあらすじ:

訓練用ダンジョンを確保。

10段階開放してボスを倒したら完全制覇で、ダンジョンとして出来る事が増えた。

ガイドに素質について聞いたらびっくりした。

 スミレの質問に対するガイドの答えは、これまで信じていた常識に疑問を抱かせるものであった。



「早熟?」


「大器晩成?」


「素質の低い者達にも別の価値が?」



 誰かの呟く声が所々で聞こえるものの、既にガイドの姿はそこに無い。そのため誰も何かを確かめる事などできはしない。求める答えは多くのデータを集めながら検証して初めて得られる結果であり、直ぐに確認できるようなものではないのだから。


 そして疑問を抱くと同時に、現状の延長線上にある強さ以外の何かが出てくる可能性をも感じてしまう。ダンジョンボスの強さを垣間見た面々にとって、それはひとつの希望となるのであった。



 そんな結果の出ないざわめきの時間も長くは続かない。

 手元にデータがあるわけでもなく、また検証するにしても管理室内に居る人だけで計画が決まるわけではないからだ。


 管理室に入っているのはあくまでユウキたちとレイドを組んでいる200人だけであり、その他の護衛などはダンジョン入り口付近で待機している。東京ダンジョンからこの訓練用ダンジョンの管理室内に人を連れ込めるわけでもないのだから、検討するにしてもわざわざ管理室内でする必要はない。

 そしてダンジョン自体の移動を完了させるまでは殿下の時間を頂戴しなければならないのだから、今すべきことは検討する事ではなく計画を進める事である。

 これに気が付いた中泉環境大臣は殿下を促し、本来の予定行動へと軌道修正を行ったのだ。



 サブマスターの設定を済ませてダンジョン設定の一部も変更。更に訓練用ダンジョン設置予定地点へと移動。

 黄昏のダンジョンではサブマスターの設定人数は5人までであったが、今回の訓練用ダンジョンでは10人まで設定可能であった。その為ダンジョンマスターに万が一のことがあった場合の繰上り優先順位が高い1番から3番のサブマスターには皇族がなり、他の7名は実務者などが対応することとなった。


 次々と予定を消化し、訓練用ダンジョン計画を進めていく。検討事項が増えた分、スケジュールは逆に厳しくなっている。

 訓練用ダンジョンに残って設定を続ける人員の他に、東京ダンジョンへと急いで戻り報告や検証する人員もいる。国民への発表計画は既に進行中であり、急いで計画を修正する必要があるのだ。


 特に素質の低い者を取り込む計画は、第一歩の発表時から始めるのが望ましい。

 いつかあのダンジョンボスを討伐できる者達が現れることを願い、参加者たちは先を急ぐ。皇太子殿下の言葉通り、実際に体験をするという事は本質を知る上で効果的な事だったのだ。





 ――12月22日。


 3日後に控えた訓練用ダンジョンの発表に先立ち、プロジェクトチームは様々な対応に追われていた。


 訓練用ダンジョン内部の設定自体は進みつつあり、出来る事が増えた分だけ規模もより大きなものへと推移している。

 当初は現状のダンジョンと同じ1階層の土地の中で、安全エリアと戦闘エリアを用意しながら出来る事を増やしていく予定だった。目的はあくまで戦闘による訓練であるため、戦闘エリアから遠い土地が多くても意味が薄い。

 魔物の分布に合わせて安全エリアに入る人数を調整する必要があったのだ。


 ところが2階層の出現やイベントの主催、更には他の魔物施設の登場により人数制限の意味が薄れてきた。そしてそこへ素質が低い者の可能性という話が加わった。


 こうなると受け入れ側としては受け入れない人をだす必要があるのかという状態となり、急いで環境整備を行っているのである。





 その一方……。



「素質の低い者への戦闘訓練の拡充?

 ばかばかしい。そんな事をするくらいなら素質の高い者を1人でも多く育てた方がいい」


「大器晩成?

 結果を出さないで済む実に都合のいい言葉だな」



 素質の低い者を育てるという分野に関しては、やはり既存の学校で意思を共有するのは難しかった。これはそもそもが育成する労力や環境の問題があり、素質の低い者を育てる分素質の高い者を育てる人数が減るという結果となるからだ。

 そして安全なダンジョンという話には興味を示すものの、ダンジョンボスの脅威レベルを実感していない。素質の低い者を育てて倒せるのなら、素質の高い者を育てた方がさらに早く倒せるだろうというレベルの認識なのである。

 特にこれまでのダンジョンシーカーたちもそれぞれ訓練を行うという事で、その者達が倒すのだろうという一種の安心感すら感じているのである。

 基本的にダンジョンシーカーとなった者達は、素質の高いエリートの中でもさらにその一部の者なのだから。

 霞PTの事は現状秘密であるため、この辺りの心情はある意味仕方のない事と言えるのかもしれないが。



「そうですか……分かりました。

 先ずは我々で育成結果を出し、もしかしたらその後また相談させていただく事があるかもしれません。

 所属学生たちの転校希望者が出ましたらよろしくお願いします」


「頑張りたまえ」



 当然育成として上手く行く等という事を考えた返答が得られるわけではないが、訓練用ダンジョンで開校する学校の紹介としては十分である。

 むしろ素質の高い者だけを育てるから所属する学生への説明を等と言うよりはましであったのかもしれない。何しろ学校側としてはライバルなのだ。

 素質の低い者を連れていかれるのはともかく、素質の高い者は自分たちで育てて結果を残したいと思うのは当然である。


 ダンジョン科のある学校を運営する立場では、いかに多くの優秀な卒業生を出すかが入学希望者を多く集めるポイントのひとつだと考えている。できるだけ素質の高い者を優先して集めるのは当然の行為であり、素質の低い者しか集められないダンジョン科は低ランク学校の象徴ですらあった。

 そのため入学希望の学生や既存学生の立場で考えても、素質の低い者が集まるダンジョン科の学校へ等行きたいと思う者はいないのではないかと甘く考えてしまった。それはランクの低い学校を意味することになるのだからと。





 ――12月25日。


 江戸学園ダンジョンと名付けられた訓練用ダンジョンの情報が初めて一般公開されたこの日、人々はある種の信じられない映像を目にしていた。


 映像は交流都市ウエノから出発し、東京ダンジョンを出て地球上へ。そこは森が広がる大地ではあるが広場や道路が整然と整備されている。

 これまで目にしたことのある情報では、ダンジョンの前は森の中に有る空き地の広場のような画像であった。そこが既にしっかりと整備されているのである。


 道路はかつての国道4号線を再現した経路を進みその後国道1号線へ。到着した先はかつて大手町と呼ばれた地であり、映像の先には大手門。その先はかつて皇居が存在した江戸城の跡地である。

 映像ではナレーターがこれらの情報を解説しており、魔物の世界となっていた地上に再び人の手が入っていくことを実感させた。



 象徴的なダンジョンそのものを江戸城の地にという意見も最初はあったものの、いつか継続的に地上を取り戻した際に皇居の復旧を邪魔してはいけないという意見で見送りとなった。その為実際は少し離れた大手門の外側にダンジョンを設置したのだ。



 そして映像は江戸学園ダンジョンの内部へと続く。

 ダンジョンの内部など、都市の壁から外を見ればいつも見慣れているはずの光景である。しかし江戸学園ダンジョンは、これまで当たり前だと思っていたダンジョン内の光景とは全く異なるものだった。


 先ずは都市にとっては当たり前であるはずの、ムーブコアへ入るという事が無いのだ。

 ダンジョンに入ってもそのまま道が続いており、特に壁も何も無くそのまま街になっている。当たり前のように家があり、きれいな水の流れる川も至る所にある。

 ダンジョン内の自然水は復活する資源であり、いくら使おうがそのうち元の量まで復活しているのだ。ムーブコアの中ではありえない光景である。


 そして都市の一部には飛行船の発着場があり、また空路用のスペースも確保されている。

 映像はそのまま飛行船からの空撮に変化し、江戸学園ダンジョン内の様々な景色を移していく。海辺もあれば山もある。

 しかし何よりも驚きなのは、映像のどこを見ても魔物が居ないのである。



 安全なダンジョン。

 自ら向かわない限り、魔物と出会う事のない理想のダンジョン。


 しかしこの安全なダンジョンは、長くは維持できない。長くても百数十年。

 早ければもっと短いかもしれない。ダンジョンの中は、いつリセットされてもおかしくない。


 そんなナレーションと共に、遠征隊の出発映像が流れる。

 そしてその後、ダンジョンボスが攻撃してくる映像が。

 最初の光の咆哮ブレスを免れた者が撮影していた映像だ。この記録をとるために、撮影者はバラバラな位置に配置しており、一度映像を撮ったら破壊される前に収納することが決められていた。



 この後は江戸学園ダンジョン自体の紹介である。


 最初に強調して語られたのは、このダンジョンでは魔物に殺されたとしてもリザレクションの必要が無く、入り口で自動的に復活可能だという事だ。

 これはダンジョンボス戦と同じようなものだろうと考えていたのとは違い、実はその場でリザレクションを待つという選択も可能であった。

 そして逆に、実際に死ぬ前に自らの意志でダンジョン入り口へと戻ることも。但し装備などをすべて収納して裸になってから戻るようにしないと、装備などがその場に残されてしまうのだが。


 今回ダンジョンボスを倒す力を手に入れたのは偶然であり、現状継続して力を継承できる類のものではない。そして一度攻略したダンジョンでも、攻略後の条件を満たせなくなった段階でリセットされる。

 そのため、このような死ぬことのないダンジョンでダンジョンボスを倒すことができるように訓練を始めると。



 続いて伝えられる江戸学園ダンジョンの利用方法。

 利用可能者は、ふたつの条件のうちのどちらかを満たす必要がある。


 ひとつめは、ダンジョンボスを倒すために魔物を倒すなどして自らを鍛えようとする者であること。定期的に魔物を狩って行動で示す必要があり、これは学生や普段シーカーとして活動しているような者達を想定している。


 ふたつめは、魔物を狩る者達を支える為に国に雇われる者たちである。当然入れるのは雇われている間だけであり、仕事として中に入るという意味である。


 学園の教師や各種施設で働く者なども基本的には後者に含まれるが、前者でも魔物を狩りながら自らが商売をしてはいけないという決まりはない。

 あくまでいつ使えなくなるかもわからない土地を販売、もしくは維持権利付きの賃貸等を行わないというだけで、協力者に一時的な場所を用意しないという訳ではないのだから。



 そして最大の目玉が最後に発表される。


 魔物を倒すなどして自ら鍛えようとする者の素質は一切問わない。

 最初の開放は来年2月以降、利用可能年齢はその年の4月段階で中学校へ入学する者以上。例え中学校の入試で素質により上級学校へ進学できないと判断された者でも利用可能。

 その際は江戸学園ダンジョン内の学校へと入学することになる。但しあくまで自ら魔物を倒して鍛えようとするものであり、教員による安全な引率などが付くわけではないのだが。



 最後に、プロジェクトチームのリーダーである中泉環境大臣の発言で映像は締めくくられていた。



「自ら危険な魔物に立ち向かい、何度も死に戻りをしながらも戦い続ける勇敢な心を持つ者を江戸学園ダンジョンは歓迎します。

 一説によると、素質が低い者ほど実は可能性を秘めているかもしれないという情報があります。大器晩成という情報もあります。素質が低いというだけで諦めるのはまだ早いのです。

 最終的にダンジョンボスを倒せるようになるのは、素質の低い方なのかもしれませんから」



 素質至上主義に正面から立ち向かう形で……。

以上で第4章『素質至上主義と江戸学園ダンジョン』編のメイン部分が終了です。


本当はユウキたちの楽しい話を間に入れる予定でしたが話に締まりがなくなってしまったので順番を入れ替えました。

この後少し時間を遡ってユウキたちの楽しい話が数話続きます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 100話にして、ようやく(学園編に向けての)プロローグが終わったと言う感じだが、ユウキ達はまだ登り始めたばかりですからね、この果てしないシーカー坂を。(オイ [一言] まあ、これまでの実…
[一言] 100話おめでとうございます。 これからも頑張って下さい。
[一言] 国側がここまでワクワクする動きをしてくるのは素晴らしい。 素質の低い者たちを一手に集め、人類の新たな可能性を示してほしいですね。
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