魔法使いはぱぱっと仕事をすませてモフる
森の中で出会った愛らしいリスが「こんにちは」と、挨拶するように鳴いて駆け寄って来る。
そしてリスちゃんとアハハウフフと戯れ遊んで、友達なんかになっちゃったりして。
それはなんとも素敵な田舎生活です。
私の思い描いた理想の暮らしです。
でも現実はほんの少しの差で、地獄絵図でした。
「ぎゃあああぁぁぁぁッ! 食べられるぅぅぅッ!!」
モズリスに捕まったソフィアさんの悲鳴が木霊します。
思っていたのと全然違う。これじゃない。チェンジは何回まで可能でしょうか。
「ソフィアさん、モズリスはほぼ草食だから!!」
「ほぼが無ければなぁぁぁッ! リヴィさん、早く! それよりも早く魔法でやっちゃっちゃちゃちゃッ!!」
お気持ちはわかりますけど、ソフィアさんを抱えられたままでは危険です。
いえ、本当のことを言うとリスちゃんを攻撃したくありません。
だって……可愛いんだもん!
一緒に遊んだりするのが夢だったんだもん!
「そうだ。ソフィアさんあまり動かないで下さいね!」
「ふぅあひああぁぁぁぁ! かじられる! かじられっ! かっじぃらあああぁぁぁぁぁッ!!」
ソフィアさんの震え(超高速)を気に入ったのか、モズリスはソフィアさんを身体に押し当てどこかリラックスしたお顔をされていました。
その時間を有効活用させてもらいます。
髪の毛を一本抜いて地面にそれを埋め、拾った枝で私の名前を書いてら準備完了です。
「創造土魔法ッ!」
地面が盛り上がり、ぐんぐんと目線が高くなります。
あっという間に巨大モズリスを超え木々を超え、上昇が止まる頃にはすっかり巨大モズリスが巨大に見えなくほどの高さになっていました。
「ゴ、ゴォォレムッ!!!!」
そんな高さでもしっかりソフィアさんの声が聞こえるんですが、きっと大声大会があったらぶっちぎり優勝でしょうね。
私が右手を上げると土人形も右手を上げることを確認し、そのままむんずとモズリスを確保。
持ち上げるとモズリスもソフィアさんも、同じように驚いた顔をしていました。
「大丈夫でしたかあ!」
「だ、だだだだだだ――」
え、土人形まで振動し始めてるんですけど。
「――だだだだ大丈夫、ででですッ!!」
「ではそのまま手を伝って肩に! 頭の横に階段を……作ったのでこっちに!」
モズリスをもみもみと優しく揉むと、土人形の指の隙間からソフィアさんが脱出。
恐々と腕を渡りながら頭の上へと無事にお出でになりました。
「もう大丈夫、安心してね」
「は、はい。でも……もう、ちょっとちびっちゃいそうです……」
それは乙女の危機です。
どうやら土人形の高さにも怯えているようなので、
「じゃあえいっ」
土人形の頭ににょきっと椅子を二つ生やして、ソフィアさんに促しつつ私も座りました。
これで安定性もばっちり。土なのでお尻が汚れちゃうのが欠点ですけどね。
「絶対に落とさないから大丈夫」
「……まさか、空で座るだなんて」
まさかのテンションダウン。
モズリスに捕まったことで振り切ってしまったのでしょうか。
「すぐに終わらせるから、ちょっと我慢しててもらえる?」
「……いえ、大丈夫です。ちょっとびっくりしちゃって……私、今土人形に座ってる! 空の上にいる! すごいっ!!」
振り切ったことでか普通のリアクションになったソフィアさんが瞳を輝かして周囲を見下ろします。
喜んでもらえたなら何よりです。
ではではその間に……。
「きゅるる……」
不安げな声を漏らした巨大モズリスを土人形の手で優しくもみもみ、頭を撫でてお腹をつつきます。
「きゅる?」
「怖くないよぉ? ほら、よしよしよし」
土人形越しが残念だけど、夢にまで見た森の中でのリスとの戯れ。
頬は緩みっぱなしです。
「うりうり」
「きゅるるっ」
その時モズリスの目を見て私は確信しました。
想いは伝わり、私たちは分かり合えたのだと。
「ちょっ、リヴィさんモズリスが腕を上がって来てますよ!?」
「いいんです。もう友達だから」
「はっ!? いや友達なんかでわぁぁぁッ!!」
土人形の頭上によじ登ったモズリスは当たり前のようにソフィアさんを掴み、肩に押し当てました。
気に入ったみたいです。
「悪意や敵意はないみたいだから安心して」
「モズリスの肩持ちすぎじゃありませんかね!」
とモズリスの肩に当てられたソフィアさんが訴えるので、モズリスちゃんにお願いして解放してもらい代わりに私の身を捧げます。
「あぁ……至福」
小さいリスを募集してたけどこれはこれで。
温かいおっきなぬいぐるみみたいで抱き心地――抱かれ心地はもふもふして最高です。
「リヴィさんっ!!」
「んー?」
「こんな非日常の権化みたいな中で緩んだ声出せるのはさすがですけど、ちょっと見て下さい! あそこ、あそこに見えてる茶色い丘みたいなの! あれがジャイアントボアです!!」
「あぁ……。第二雷撃魔法」
稲光が瞬き、放たれた雷撃が茶色い丘へと吸い込まれます。
爆音と地響き、そして茶色い丘から煙が上がりました。
「そんな、一瞬で……」
震える声でソフィアさんがぽつりと言いました。
まあ一般的には精霊のいたずらで変異した害獣の駆除は時間がかかるものとされています。
その理由は精霊のいたずらによる変異というものが一種類とは限らないから、です。
簡単にいえば、巨大化だけでなく何らかの強化魔法がかかっている可能性があるということで、しかも重ねがけの可能性もあるということです。
故に魔法の知識でそれを解析し、そしてそれに対処できる魔法使いを必要としていたわけですね。
ただ、「何事にも抜け道はあるんだよ(老子談)」です。
どんな魔法がかかっていようと関係ない手があるんです。
それは強烈な一撃を使って押し切ってしまうという単純な方法。
結果を見るに、老子に教わったことは本当だったようで良かったです。
一仕事終えた私はまたリスちゃんのお腹に顔をうずめます。
だってこんな機会そうはないでしょうから。
ジャイアントボアに構っている時間はありません。
今を堪能しなくてはては。
「あれを一撃で、こんなあっさりと……」
なにやら小声で漏らしているソフィアさんに、ふと思ったことを尋ねてみます。
「ところでこの辺りのイノシシっておいしい?」
リスは食べたくないけどイノシシなら可。大歓迎です。




