魔法使いは幼女の下で悩む
奉仕権争奪戦が開催されてから、しばらくの間は穏やかな日々を過ごすことができました。
しかし、問題というのは雨が降るように、当たり前に転がってくるものなのです。
それは丘の上での出来事。
そこでソフィアさんからもたらされたものでした。
「ここはおまかせ下さい」
私はその言葉に当惑します。
何だかひどく根本的な話をされている気がするものの、よく理解できずに思わず小首を傾げます。
「私がしっかりと二人を見ておきますから、どうぞリヴィさんはお仕事に集中されてください」
「……え、お仕事?」
天気の良い昼下がり、テラスで読書を楽しんでいた私ですが、フェルミアとメアリちゃんが楽しげにそり遊びをしているのを見て、久しぶりに参加しようかとそりを持って丘にやって来ました。
すると丘で二人を見ていたソフィアさんが言うのです。
「はい、ここは私が見ていますからお気兼ねなく」
「……え、でも、ほら、練習」
「はい、二人の基礎練習なんですよね。でもリヴィさんにわざわざお付き合いいただくことはありません。ここは町長の孫である私がびしっと監督しておきますのでご安心を」
「あ、あれ? でも私も……」
「え? だって弟子はとらないけど練習には付き合えるからって仰ってたじゃないですか。リヴィさんには基礎練習はいりませんもんね。なにせ既にすごい魔法使い様でいらっしゃいますからっ」
「あ……」
その理屈は、おかし……くない!
ソフィアさんの言う通り、私は二人の基礎練習としてそり遊びを考案しました。
となれば、そり遊びは既に魔法が使える私には必要ない。
反論の余地がありません。あって欲しかったのにありません!
名案さん? あなた名案さんでしたよね? これはどういうことですか……?
「詳しくはもちろんお聞きしませんけど、あれだけのメイドさんを雇ってて、しかもその人たちが追いかけてくるだなんて……やはりリヴィさんはすごい方だったんですね! 町を上げてお手伝いしますので、是非ここでも王都に居た頃のように研究に没頭なさってください!」
「……う、うん、ありが……と……」
満面の笑みのソフィアさんに見送られ、私はとぼとぼとお家へ戻りました。
まずい。とてもまずい。
これじゃあ私――遊べない!
「なんでこんなことに……」
テラスに戻った私はぐったりと椅子に身体を預けます。
するとどこからともなく、ティーカップが現れました。
「お嬢様、紅茶はいかがですか?」
すうっと姿を現したのはポニーテールのメイドさんでした。
「ありがとうリーナ、いただく」
温かい紅茶を飲んでほっと一息。
しかし問題は解決していません。考えても打開策が思いつきません。
こういう時は、少し気分転換ですね。
「今日はリーナがついててくれるんだ」
「はいっ、何かあれば何なりと」
必要ないと言ってるんですけどね、毎日誰かが私の傍にいてくれます。
ローテーションを組んでるわりには、だいたいクロムですけど。
それを不意に尋ねてみると、
「あぁ、いちおう頭目ですからね。基本的にはあたし達は他の家事を担当しているんです。あと、頭目ってお嬢様大好きですからね」
けほけほと咽ました。
ありがたいことなんですけど、なんか妙に最近私モテますね。
そのまま他愛もない話をリーナとしていると、彼女は不意に小声で尋ねてきます。
「そういえば先日水薬を作っていらっしゃいましたけど、魔導具はもうお作りにならないんですか?」
「あぁ、うん……とりあえずはね」
魔導具か、といちおう考えてみますが……やはりそれは最終手段です。
現状私は二つの問題を抱えています。
一つはクロムたちメイドへのお給金問題。
老子が前払いしているからって、やはり私が払わないわけにもいきません。何かお礼をせねばと考えておりました。
もう一つは今しがた発生した無職問題。
何か成果を出さなければ、私は理想のゆったりまったりな暮らしを思うように満喫できなさそうです。
この二つを解決するのに、魔導具製作は打ってつけではあるかもしれません。
でもダメなんです。
「いっぱい注文きちゃいそう……」
「そりゃあ来ますよー。リヴィお嬢様の作られた魔導具なら買い手はきっといくらでもいると思いますよ?」
明るく言ってくれますが、それが嫌なのです。
その結果、お仕事大渋滞で日夜働き続けるんじゃあ、結局逆戻りですよ。
私はその研究開発の日々から脱してここに来たのですから、それは本当に最後の手段です。
「やっぱり、しばらくはいいや……」
別の方法を考えましょう。その内、名案さんが尋ねてきてくれるでしょう。
つい先ほど、その名案さんに裏切られたんですけどね。
問題をやはり保留にして、「ところで」とリーナに別の話題を振ることにしました。
「みんなちゃんと休んでる?」
「はいっ、おかげさまでー。と言っても、特にやることもないんで結局何かしら仕事をしてたりもしますけど、今日なんかはエミオラとナヴィアが買出しがてら隣町に遊びに行ってますよ」
「がてらじゃなくてただ遊んでくれれば良いんだけどね」
「いきなりは難しいのかもしれませんねー。あたしもすることなくて、結局編み物するぐらいですし」
「編み物も良いじゃん。好きなことをするか、なんにもやらないか、自由だよ。それに編み物が趣味なんて素敵だよ!」
「あ、いえ、お嬢様の靴下に穴が空きそうだったので、また新しいの作ろうかと思って」
「……え、私の靴下って……もしかして」
「はい、全部あたしが作ったものです」
「……とりあえず、ありがとう。そしてごめんなさい」
頭が――上がらないッ!
私ってもしかしてダメ人間なんじゃないだろうか。そんな疑惑が頭をよぎります。
偉そうに「休みなよ」とか言っておいて、何から何までお世話になっています。
知らぬ間にみんなに奉仕されております。
見えないメイド、恐るべし。
「あ、でも頭目はちゃんとお暇を頂いて謳歌してるみたいですよ」
「なんか意外。クロムこそ休んでくれなさそうだったんだけど」
「以前から時間があれば日向ぼっこしてまして、ここは空気も綺麗で日当たりも良いので快適だそうでして、ここ数日はしょっちゅうしてますね」
「猫か何かかな……?」
メアリちゃんより小さいのに無表情で、どこか達観したような瞳をしていて、その上完璧に仕事をこなすメイド部隊の頭目。
そんなクロムの趣味が日向ぼっことは。
なかなか可愛いところがありますね。
「でも裸でするのはやめてほしいんですけどねぇ……」
可愛いのレベルを容易く超えましたね。
「あんな日焼けすると将来のことが心配で止めてるんですけど。お嬢様も良ければ言ってあげてもらえませんか?」
「……あれ、日焼けだったの?」
褐色の肌は生まれ持ったものだとばかり思ってましたが、あれ日焼けですか。
そして将来のことの前に、今を心配すべきではないでしょうか?
メアリちゃんも平然とノーパンツでしたけど、クロムは平然と全裸ですよ。
最近の幼いもんは一体どうなっとるんじゃ……けしからん!
「たぶん今も屋根の上でやってますよ、日向ぼっこ」
私は今――裸の幼女の下にいるようです。
お読みくださりありがとうございます!今回より三章です。
で、開始早々に申し訳ないのですが、執筆が追いつかない状況になりつつあり明日分より一旦隔日更新にシフトしたいと思います。
エタらないようにはしたいと思っておりますので、更新は減りますが引き続きお付き合い頂けますと嬉しいです。よろしくお願いいたします。




