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魔法使いはすべてお湯に流す


 土魔法を使って庭に穴を穿ち、その中に生成した岩と小石を敷き詰めたら準備は万端です。


「あのリヴィさん、勝負のほうは……?」


 戻ってくるなり作業を開始した私に、ソフィアさんが不思議そうな顔で言います。

 フェルミアも同じくで、メアリちゃんは……隣で瞳をキラキラさせて私の魔法を見てました。

 それに対してメイド部隊は静かなものです。

 彼女たちにとってはただのお遊びだったのかもしれません。

 私が本気で解雇だと言えば、きっと粛々と応じるつもりであったのでしょう。


「引き分け、ってことで良いよね。クロム」


「仰る通りに」


「みんなの頑張り、特にソフィアさんのおかげで引き分けに持ち込めたんだよ。ありがとう」


「いえ、ご迷惑をおかけしてしまいましたし、役に立てたなら良かったんですが……結局どうされるおつもりなんですか」


「私は……どうもしないかな」


 引き分けということは奉仕権は宙に浮きました。

 そんなもの浮かせておけば良いのです。

 

「フェルミア、そしてクロム。私は魔法の勉強と研究ばかりしてきたから、たぶん一人じゃ生きられない。それでも町の人に 、ソフィアさんやメアリちゃんに助けてもらいながらでも、なんとか一人でやっていくつもり」


「姉さま、私は……!」


 早とちりなフェルミアの口に指を当て、言葉を遮り続けます。


「だから私がダメだからとか、老子に言われたからとか気にしないで決めて欲しい。できるだけ用意はするけど、お返しもあまりできないかもしれない。その上でこんな私を手伝ってくれるというなら、むしろ私からお願い。この家のメイドさんになってくれたら嬉しい」


 奉仕権が宙に浮いたなら彼女たちは自由です。

 もう老子はいないのですから、みんなにも自分で決めてもらいたい。


「私はお姉さまをお慕えしています! 精霊魔法の上達の為でもありましたけど、例えそれがなくとも許されるのであればご一緒に、ぃ――ッ!?」


 いの一番に応えてくれたフェルミアでしたが、何かに引っ張られて仰け反り転がりました。

 そしてその何か――メイド部隊の四人が姿を現します。


「我ら皆、元より選んでいる」


 会釈する三人を従えたクロムが真っ直ぐに私を見ていました。


「職務に着く際、親方様は我らに選択権を与えた。お嬢に仕えるか、別の道を行くか」


 老子がそんな優しいことするとは意外です。

 

「わ、私は、日々ひたむきに研究なさるリヴィお嬢様に少しでも貢献できるなら、光栄だと思って……」


 もじもじしながらナヴィアがそう言い、


「大魔法使いになられるお嬢様であれば、私が仕えるにふさわしい主様ですわ」


 エミオラが胸をそらせて答えてくれました。


「あたしお嬢様好きですよ? なんか可愛いし。ね、頭目」


 柔和な笑みを浮かべてリーナがクロムの頭に手を置きますが、無表情なクロムはその手を払います。


「我らは皆、己の意思でここに。今さらお嬢に、とやかく言われるまでもない」


「……そっか」


 ならば良し。と言い切るのは少し照れと後ろめたさがありますが、ここはみんなの意思を尊重し受け入れましょう。

 そして、そんなみんなへの心ばかりの感謝の気持ちを魔法に籠めて。


第二水魔法(メイムエル)ッ!」


 たっぷりの水を宙に浮かべ、さらに重ねがけで火炎魔法を放ちます。

 そして出来上がったお湯を石を敷き詰めた穴に注げばできあがり。

 襲撃者の方々を見ていて思い出したもの、以前メアリちゃんがお風呂で言っていたリクエストを叶えるもの。


「じゃあ、一件落着ってことで、みんなで仲良くお風呂に入ろう!」


 それは大きな露天風呂でした。




◇◆◇◆◇




「みんなでお風呂やったあッ!」


 真っ先に服を脱いで露天風呂に飛び込んだのは、当然ながらメアリちゃんでした。

 でも何の照れもなく服を脱げるのは、幼さ故の特権です。


「リヴィさん、さすがにここでは……」


 ソフィアさんが気にするのは当然でしょう。

 丘の上で町が一望できる場所なのだから、逆もまた然り。


透写(インビジブル)! これでどう?」


「すごい、お風呂がなくな……った?」


 露天風呂を中心として透写(インビジブル)をかけたので、これで見られることはありません。

 それでもソフィアさんは、さすがに抵抗があるらしく「けど……」と逡巡します。

 

「問題ない。丘の上に近づくものがいれば、排除する」


「いや町の人間を排除してほしいわけじゃないんですが……。でも、わかりましたッ。リヴィさんのご厚意を無下にするわけにはいきませんからね」


 ソフィアさんが透写(インビジブル)のかかった空間内に消えます。

 私もみんなと共に入り、服を脱ぎ始めました。

 ちらちらと、みんなの柔肌を覗き見ながら。


 ……だって私、老子の裸しか見たことないんですよ? そりゃあ気になりますよ。

 自分の身体が変じゃないかなあ、他の子も同じかなあと、乙女は気にしてしまうものなのです。

 決して、決してやましい気持ちがあるわけではございません。うへへ。


「……」


 すっごい目でクロムが私を見ていました。

 別にやましいことはありませんが思わず視線を逸らし、もじもじとしたまま服を脱ごうとしていない子を発見しました。


「どうしたのフェルミア?」


「そ、その、あまり素肌を見せるのは慣れていなくて……。もちろん姉さまにお見せするのは良いんですよ!? でも、こうも他人がいるところでは……」


「お着替え担当の人ー」


「はーい。あたし担当でーす!」


 まさかいるとは。

 フェルミアの対戦相手であった茶髪でポニーテールのリーナが駆け寄ってきました。


「あたし、お嬢様のお着替えも手伝ったことあるんですよ?」


「え、いつ……?」


「お屋敷に居た頃、寝ぼけていらっしゃる時に三十六回ほど」


 どんだけ着替えさせられてんですか、私。

 しかもそれで気づかなかったとは……、きっとリーナの潜伏技術がすごいんですね。

 私が抜けているとかそういうことじゃなくて。


「ちょ、ちょっと! やめなさい! 耳短(ヒューマー)ごときに触れられたく……、姉さま? その、その手つきは……や、やあぁぁッ!?」


 私とリーナでひん剥きました。


耳長(エルフ)さんの裸は初めて見ましたけど、白くて綺麗ですねー。羨ましい」


「ふむ」


 これは、良いものだ。


 真っ白な肌をほんのり染めるフェルミアを、そのまま二人で強制的に湯船に連れてきます。

 ふと気づくといつの間にか入浴剤が入れられていました。

 さすがメイド部隊、至れり尽くせりですね。


「ふあ……」


 岩にもたれて脱力。

 青空を見ながらの大きなお風呂、実に名案でした。

 そして……なるほどこれがハーレムか。

 右を見ても左を見ても、前を見ても裸の美少女ですよ。うへへ。


「そうだ、リヴィお嬢様」


 膝を抱えて小さくなり、そのまま恥ずか死しそうなフェルミア越しにリーナが言います。


「あんなこと言ってましたけど、実は頭目だけがお嬢様のメイドになるの迷ったらしいですよ」


 意外です。

 そして何かショックです。


「お嬢様のメイドになるか、他の道を行くか。あたし含めて三人は前者を即決しました。でも頭目だけは数週間お嬢様のお世話をしつつ、返答を保留にしていたらしいんです。まあ結局はお嬢様にお仕えすることを選んだんですけど、どうしてそれを決めたと思います?」


「え、そうだなあ……あまりに私がダメすぎたからとか?」


 ふふっと小さく微笑んで、リーナは私に口元を寄せます。

 まだ小さくなって震えているフェルミアの上で、私はその内緒話を聞きました。


「頭目が作って出した料理を、お嬢様があまりにおいしそうに食べたから、ですって。頭目は物心ついた時には暗殺メイドの養成施設にいまして、親方様も先代の頭目も人を褒めるような方じゃありませんでしたし、たぶん生まれて初めて誰かに認めてもらえたんだと思うんです。それでころっとやられちゃったんですから頭目も可愛いと、ふべッ!?」


 湯船から突然現れた小さな拳に顎を打たれ、リーナはがくりと頭を垂れてしまいました。

 そしてその前にクロムがゆっくりと浮上します。


「お嬢、何か、聞いた」


「……いえ、何も」


 ふるふると首を振って無実を訴えました。

 気絶させられたくはありませんです。


「ならいい。それよりお嬢、後方」


 と促されて見てみれば、ピンクや黄色の可愛らしい色合いの飲み物が並んでいます。

 まさか、これは。


「あッ! おいしいやつ!」


 目ざとく見つけたメアリちゃんがばしゃばしゃと泳ぎ、


「こらメアリ! 迷惑だからやめなさい!」


 ソフィアさんがそれを追っかけなから嗜めます。


「あら、リーナはなぜ寝ていますの?」

「だ、大丈夫ですか、湯あたりですか、リーナさん!」


 エミオラとナヴィアも近くに来ました。


「ね、姉さま、私はそろそろ……」


 みんなが近づいてきたからでしょうか、逃げるように一人だけ腰を上げて出ようとするフェルミアでしたが、


「恥ずかしがってるわりに、真っ白なおしり丸見えだよ」


「ひゃあぁぁぁッ!?」


 また湯船にどぼんしました。


「お嬢、以前から言いたかったことが一つある」


「なあに?」


「冷えたフルーツミルク、入浴中に飲むのも、格別――!」


「な、なんと……!」


 その発想はなかった。

 邪道のように思えますが、しかし身体に悪いものほどおいしいという言葉もあります。ならば邪道もまたクロムの言葉通り格別なのでは。


 さっそくみんなにキンキンに冷えたフルーツミルクを手渡して、湯船に浸かりつつ乾杯。

 一気に甘いミルクを喉に流し込みます。

 身体はあったかなのに、ミルクで芯が冷やされ、それでまたお湯のぬくもりがより強く感じられました。

 これは病みつきかもしれない。


「くぅーっ! クロム、ありがと!」


「用意したの、ナヴィア」


 今のお礼は先ほどの内緒話を聞いてのものでしたが、そうは言えませんね。


「ナヴィアも、みんなもありがとう! 頼れる人たちがいてくれて、幸せだよ! 大好き!」


 ばたばたと騒がしい日でしたが、終わり良ければ全て良しです。


 こうして我が家のメイドさんは増え、私は長らく言えなかった感謝の言葉を、見えない家族に伝えられたのでした。 








これにて二章完結です。

住人が一気に増えましたが、次章はそんな家を少し離れてのお話です。

良ければ次章も引き続き応援下さいますと恐悦至極にございます!


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