いらない子は我が家を見つける
「ふあぁ……。んっ」
窓から差し込む日差しで目覚めた私は 軽く伸びをしつつ窓を開けます。
ふわりと舞いこんだ風が髪を揺らし、吸い込んだ空気の澄んだ味はじんわりと喜びに変わり広がっていきます。
眼前に広がる花咲く町に、山々の景色。
透き通るような蒼い空に、ゆっくりと流れる白い雲。
「まったりとした朝のひととき……」
研究に明け暮れる日々の中、描いた憧れが今確かにここにある。
その幸せをかみ締めつつ、うつらうつらとしていると、
「リヴィさあぁぁぁんッ!!」
下から絶叫に突き上げられて、私はベッドから転げ落ちました。
声の主はもちろん雄鶏――じゃなかったソフィアさんです。
彼女は私を宿まで迎えに来てくれたようでした。
エナジードリンクの効力は抜けているはずなんですけど、今日もソフィアさんは元気ですね。
「ごめん、今仕度するからっ」
ささっと着替えて荷物をまとめ、ベッドを直して戸締りチェック。
くるっと室内を見回して頷きます。
「よしっ。短い間だったけどありがとね」
私は今日遂に仮住まいを終え、我が家を持つことになります。
家が木に貫かれた時はもう諦めようかと思いましたが、老子の呪いを乗り越えてこの日を迎えました。
何だか色々とあって随分と時間が経ったようにも思えますが、それゆえに喜びもひとしおです。
「お待たせ、ソフィアさん」
宿の女将さんにお礼を告げて、私はソフィアさんとお家へと向かいます。
お祝いだなんて町の人がすれ違うたびにくださる物を受け取りながら。
まったく私は幸せ者ですね。ほんとに。
町を見下ろす丘の上。
そこに我が家があります。
”我が家”ですよ、”我が家”。私のお家ってことです。
「わぁ……っ!」
丘の上に建つ我が家は花壇に囲まれていました。
ア・レイラ国の風習、魔除けの花を町の人が植えてくださったのです。
「きれい……。これだよ、文献を読んでからこれに憧れてたんだぁ」
「ふふっ、お喜び頂けたなら何よりです。ただパシレイアは移植ができなかったため、育つのを気長に待っていただけると助かります」
「あの外壁の蔦のことだよね。うん、それは今後のお楽しみにしておくよ」
揺れる花々を眺めつつ家の横に回りこむと、そこには小さなテラスがあります。
プチリフォームをしてくれると言うので、お願いして新たに作っていただいたものです。
晴れた日は風を感じながら、雨の日は雨音を聞きながら、ここで本を読んでのんびり過ごすのはきっと格別でしょう。パーフェクト、完璧です!
「さ、リヴィさんこれが鍵です。これでもう正真正銘、この家はリヴィさんのものとなります」
「わっ、あ、ありがとう。ううん、ありがたく頂戴いたします」
背筋を伸ばして差し出された鍵を受け取ります。
鉄製の鍵のずしりとした重さが、私に実感を与えてくれました。
紛れもなく私は家主さんになったのです。
早速と、ドアの前に立ったところでフェルミアがやって来ました。
なぜかモズリスちゃんに乗って。
いつの間に仲良くなったのでしょう。
「遅れてしまってすみません。少し森の奥に入り過ぎてしまいました」
そう言ったフェルミアは腕いっぱいに果実や木の実を抱えています。
わざわざ採りに行ってくれていたのでしょう。
「きゅるるっ」
「モズリスちゃんも来てくれたんだね、ありがと」
そして私はドアを開けます。
ガチャッという解錠の音に期待を膨らませゆっくりと扉を開くと、そこには先日まで廃墟だったとは思えない光景がありました。
綺麗に掃除された床にカーペットが敷かれ、その上には真新しい大きな机と並ぶ椅子。
壁際に置かれた棚もですが、大工のみなさまが新しく作ってくれたのでしょう。
その真新しい色が、ここでこれから始まる新しい生活を象徴しているようでした。
感動に打ち震えてしまいますが、今はやることがあります。
「さぁみんな入って。ようこそ、我が家へ!」
友人を外で待たせておくわけにもいきません。
せっかく我が家に来てくれたお客様なんですからねっ。
「はいっ、ではリヴィさんお言葉に甘えて失礼します」
「待ちなさい。今、リヴィお姉さまは私に言ったの。私が先に」
「耳長なのにあなたの耳はどうなっているんですかあ? みんなって仰ったんですよ、みんなって。ならば最初は町長の孫である私でしょう」
「雄鶏は外がお似合いでは?」
「あなたこそ森で野生児やっていればいいのでは?」
二人が肩をぶつけ合います。
しかしその後ろで、
「きゅるっ、きゅるっ」
とモズリスちゃんが催促するように二人の背を押し始めました。
「ちょ、ちょっとダメ、挟まる! 挟まるからぁぁぁぁッ!!」
「リス、やめなさい! わかったから、わかったから押すのをやめ――」
「「いだだだだだだッ!!!!」」
譲り合わなかったがために、二人とも入り口の両端に押し付けられて一緒に叫びます。
仲が良いのやら悪いのやら。
「とりあえず壊さないでね? 我が家のドア」
結局二人はもつれ合いながら一緒に入り、その後をモズリスちゃんが続きます。
モズリスちゃんの方がドアより大きく見えるため入れるか心配だったのですが、ぐにゃあっと顔を横に引っ張られ歪ませながらも、スポンッと無事入ってきました。
横に伸びた顔が面白かったので、モズリスちゃんが来た時は毎回先に入って見てようと思います。
また我が家での楽しみが一つ増えましたね。
「さあさあ座って。後は私がやるから」
と言っても頂き物を並べるだけなんですが。
「そんな! むしろ私がやりますから、リヴィさんこそお座りになっていてください」
「いえ、ここは私が。そもそもここで私がリヴィお姉さまに奉仕しなければ、この服を着ている意味がありません!」
決まりごとでもあるかのように、二人の言い合いがまた始まります。
そんな中、私はさっさと頂き物を並べていきました。もう慣れましたよ、はい。
「リヴィお姉ちゃん、持って来たよー!」
大きなバスケットを抱えたメアリちゃんが、ドアを押して滑り込んできました。
「ちょっとメアリ、ノックぐらいしなさい!」
「だってこれ重くてできなかったんだもん」
口を尖らせたメアリちゃんにお礼を伝えて座ってもらい、睨み合う二人も宥めて座らせ、そしてモズリスちゃんをモフりつつ私は杯の一つを手に取り掲げます。
「今日はみんなありがとう。こんな素敵なお家を貰って、憧れた町に住めて、そしてみんなみたいな友達ができて私は幸せ者だって思ってる。世間知らずな魔法使いかもしれないけど、どうぞこれからよろしくね。ではでは、乾杯っ!」
――それは何ともかしましく、とっても幸せな朝でした。
老子が亡くなり、老子と一緒に過ごした屋敷を追い出され、私にだって不安と寂しさはありました。
ですがどうやら、失くしたものより多くを気づけば手にしていたようです。
もう一人ではありません。
不安を覚えることはあるでしょうが、どんと来いです。
だから老子、心配はいりませんからね?
こうして――いらない子扱いされた私は、我が家を見つけたのでした。
一章完結。無事我が家を手に入れたので、二章から遊び(レジャー)にも手を出していきます。
お読みいただきありがとうございます。
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また、二章以降もよろしければ是非にお願いいたします。




