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魔法使いは精霊魔法使いを凌駕する


「参ったと言った方が負け、シンプルで良いでしょ?」


 自信たっぷり胸たっぷりなお姉さんは、艶かしい仕草で枝を拾って投げます。

 確かにシンプルです。

 そして枝が地面に――。


「火の精霊よッ!」

第一氷雪魔法(ニブル)ッ!!」


 炎と雪がぶつかり水蒸気が噴き出します。

 その肌に纏わりつく白煙の向こう、お姉さんは面白い冗談でも聞いたみたいな顔をしていました。


「枝が落ちる前に始めるなんてせっかちなのね?」


「よく言いますねっ、先に始めておいて。しかも詠唱を短縮してくるとは、ちょっとびっくりしましたよ?」


 負け時とにやりとして見せますが、内心かなり驚いていました。

 枝については「落ちたら開始」なんて言っていないので予想通りですが、詠唱についてはフェルミアの詠唱を前提にしていたので予想外です。


 これは、余裕ぶっても油断はしちゃダメですね。


第二水魔法(メイムエル)ッ!!」


「やだ、濡れちゃうじゃない? 火の精霊よ!!」


 さらに水蒸気が噴き出し、周囲は蒸し風呂状態に。

 白く煙る中、姿は見えませんがお姉さんのため息が聞こえてきました。


第二氷雪魔法(ニブリア)ッ!」


 私はお構いなしで、煙に紛れて移動しながら氷を投射していきます。

 そのたびにお姉さんは火の精霊魔法で防いでいるようでした。


「もしかして、私が火の精霊魔法しか使えないだなんて思ってないわよね? それともそれしかあなたにはないの? ”魔法使い”と聞いたのだけれど」


「ならお見せしますよ。第二風魔法(ゼフィリア)!」


 白煙を巻き込み風が吹き荒れますが、お姉さんはその中心で涼しい顔をしていました。

 周囲と対照的に、その髪も服もまったく乱れることなくです。

 これまた予想外でしたが、以前読んだ書物にほんのわずかあった記述を思い出します。


「それが加護というものですか」


 精霊の加護。

 端的に言うなら、強化魔法(バフ)が近いものですが、近いだけで実際はまったく異なるものと推察します。


「加護っていうぐらいですから、もしかしてそれ意識しなくても勝手に起動するようなものですか?」


「これは精霊の愛よ。愛に見返りも指図もいらないでしょ?」


 小ばかにするようにお姉さんは妖しく目を細めます。

 いちいちなんかエッチなお姉さんですねえ。


「そんなことも知らないだなんて、ちょっとがっかり。所詮は百年も生きていないお子ちゃまかしらね」


「あなた方の基準で語らないでくれませんか。こちらからすれば百年以上生きているあなたは行き遅れ過ぎ……じゃなかった、生き過ぎってものですよん?」


「アハッ、まだ余裕はあるようね」


 そう言うお姉さんこそ余裕たっぷりです。でも挑発には乗ってくれないみたいですね。


「なら少し本気を出してみようかしら。裁きを下すもの、汝(いかずち)の精霊よッ!!」


「――ちょッ!? わ、わわ、本気出し過ぎでは!?」


 放たれた雷を走り回って避けつつ、私は氷雪魔法で対抗します。

 そんな私を見て、お姉さんは怪訝そうな表情を浮かべました。


 ――そろそろ限界のようですね。


 私の体力もなんですが。


「はぁ、はぁ、はぁ……ちょっと横になっても?」


「負けを認めるならね」


「負けですか。それもいいかもしれませんね。あ、あれ? 何て言ったら負けでしたっけ? もう一度教えてもらえませんか」


「……」


 言うわけないですよねー。

 「はい、今参ったって言ったー!」とか私が言うと思ってるんですよ、このお姉さん。

 失礼しちゃいますね?


 まぁ言いますけどね。もちろん。


「お姉さんは余裕があると言ってくれましたが、なにせ引きこもりだったもので、そろそろ体力が持たなくなってきましたよ」


「あら、運動不足ならちょうど良かったじゃない。子供は元気に走り回るのが一番よ」


「水分補給も大事ですよね。氷出しますけど、お姉さんもいかがですか。第一氷雪魔法(ニブル)


 小さな氷を二つ出し、一つをペロリと舐めてもう一方をお姉さんに。

 と思ったけど断られてしまいました。


「あなた……さっきから……」


 ここで驕って足元すくわれちゃわないのはさすがです。

 やはり余裕じゃいられませんね。


「はぁ、おいしかった。お姉さんも舐めれば良かったのに。でもおかげで”無駄にならずに”すみました、ねっ」


 受け取って貰えなかった氷を足元に落とします。

 サクッと音を立てて氷の塊が地面に突き刺さり、それを見つめていたお姉さんの顔が、雷でも打たれたように呆然とした表情に変わりました。


「しまっ――」


第二氷雪魔法(ニブリア)ッ!!」


 その場から離れようとしたお姉さんを私は逃がしません。

 火の精霊魔法で対抗するお姉さんにはもう余裕はないようでした。

 やっと、本気になってもらえたようで何よりですが……遅過ぎますよ?


 突き刺さった氷が、淡い光を放ち始めます。


「あなた、まさか……ッ!!」


「さぁお姉さんの言う愛は、どこまでお姉さんを守ってくれますかね。私、お子ちゃまなのでー、わかんないですけどー、愛想つかされてポイされなきゃいいですねー? 第二氷雪魔法(ニブリアァァァ)ッ!!」


「くっ、生命の源なるもの、汝火の精霊よ、盟約によりて我が声に応えたまえ、その力を貸したまえ、我が願いを――叶えたまえッ!」


 再度雪と炎が混ざり合い、白煙が一帯を包みます。


 しかしそんな中でも、並んだ氷の線を伝う光ははっきりと見えていました。

 それはお姉さんを中心に幾何学模様を描き、そしてさらにそれを取り囲む大きな円も出来上がっていきます。


「アハッ、何かしているとは思ったけれど、まさか氷塊で描いていたなんてね! あぁ、素敵よ。この目で見るのは数百年ぶり。なんて綺麗な――魔方陣ッ!」


 喜んで頂けたなら良かったですが、もう時間がありません。

 光の輪が完成するまであと僅か。


「さぁお姉さん、認めてください! 言ってください!」


 そんな私の言葉に、心底嬉しそうな顔をしたお姉さんは、


「やあよっ」


 べっと舌を出しました。


 そして次の瞬間、完成した魔方陣の上にある全てのものが凍りつきます。

 その氷山の中心で、お姉さんはいつまでも楽しそうに悪戯な顔を浮かべていました。



 お読みいただきありがとうございます!

「面白い」「先が気になる」など少しでも思っていただけたなら、ブクマ、感想、評価などで応援いただけると感謝感激にございますッ!

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