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森の民は役に立とうとする


「あたし薬草楽しみ!」


 私とソフィアさん、そしてなぜか一緒に金髪碧眼の可愛らしい女の子――メアリちゃんも森へ行くことになりました。

 両手に花とはまさにこのことですね!


 でも私はソフィアさんがちょっぴり怖いのです。

 「本当はまったりゆったり遊んで暮らす為に来ましたあ」なんて言おうものなら、ビンタではすまないかもしれません。優しさ急募。

 私は甘党ですので世の中も甘いの希望です。


「ねぇまほ姉ちゃん、そいえばなんで五月なの?」


「まほ……? メアリちゃん、私はリヴィだよ?」


「魔法使いのお姉ちゃんだからまほ姉ちゃん」


「あぁ、斬新っ」


 なんかちゃんと聞いてないと「アホ姉ちゃん」て聞き間違えそうです。


「メアリ、リヴィさんに変なこと言わないの」


「良いと思ったんだけどなあ。じゃあ何て言うのー?」


「普通に名前で呼んでくれたら嬉しいかな」


「そういうわけにはいきません。町の恩人を気安く呼ぶなんてこと許されませんよ。メアリ、これからはこう呼ぶの。ボアスレイヤーの大魔法使いリヴィ様と」


「ボス大リヴィさま!」


「……やめて?」


 なんとかリヴィお姉ちゃんにしてもらいました。


「それでなんで?」


「……あ、五月病のことか。それは簡単な話しで五月に病気になる人が多いからだよ」


「あんちょくだねっ」


「う、うん」


 何だろう。顔も良いけど頭も良いのかな。ちょっと辛らつだけど。


「なぜ五月になんでしょう」


「それはね、また諸説あるんだけど、ほら四月って雪解けの季節でしょ? 放牧が始まったりして忙しくなる季節じゃない。そんな時期にがんばり過ぎた人が五月になるとかかるんだよ。あと、五月は草木が活発になる時期だから、自然に生気を吸い取られた人がかかる病気とも考えられてたみたい」


「なるほど、だから五月の病ということですか。さすが博識でいらっしゃる。また助けて頂いて、またお礼を考えなければなりませんね」


「いいよいいよ、ほら町の仲間にいれてもらったってことで。ね」


 そんな話しをしながらまた川まで戻り、そこで見たものに私は目を白黒させてしまいます。

 それは川辺にフェルミアが佇んでいた、……こともそうなんですが、そのフェルミアが白黒のメイド服を着ていたからです。


「どうしたの、こんなところで」


「失礼ながら、お話しを聞かせていただきました」


 と彼女はとんがった耳を指差します。

 さすがは森の民(アールヴ)の聴覚です。


「うわっ、耳とんがってる!」


 純粋なリアクションのメアリちゃんをぎろりとフェルミアが睨みますが、


「触りたい!」


 無邪気さには通じません。


「触りたーい!」


「……」


 しばし睨んだままだったフェルミアですが、なんとそのまましゃがみ込みメアリちゃんにされるがまま。

 実は子供好きなんでしょうか。


「それで何の用ですか、フェルミアさん」


「……なにをしれっとあなたまで触っているの、耳短(ヒューマー)


「メアリが触って町長の孫である私が触らないわけにはいかないでしょッ!! あと私はソフィアです!!」


「いちいち叫ぶな。あと触るな。意味がわからない」


 フェルミアがソフィアさんの手を振り払い、またまた一触即発な雰囲気に。

 とてもじゃないですけど、私も触りたーいとは言える雰囲気じゃありませんでした。

 私だけ仲間外れです。ぐすん。


「それでほんとにどうしたの? 偶然会ったってわけじゃなさそうだけど」


「はい、お待ちしていました。用件はもちろんお借りしたものを返す為です。ですがさっそくお役に立つ機会があったようですね。何をお探しですか」


「テンゴロシだけど知ってる?」


「……失礼ですが、正気ですか」


 フェルミアがそう言うのも仕方ないことではあります。

 なにせテンゴロシの実はそれを啄ばんだ鳥があまりの辛さにその場で即死する、と噂される代物です。

 一般的には毒物とされていますが、でも得てしてそういうものが薬に使われるものです。




「本当にできるのぉ?」


 なぜだかトゲトゲしいソフィアさんを無視して、フェルミアは精霊魔法の準備に入りました。

 そう、精霊魔法です。

 彼女は精霊魔法によってテンゴロシを探そうとしているのです。

 さすがに私も少々心配になってしまいます。


「精霊魔法かぁ……!」


 ただ一人メアリちゃんだけが期待に胸を膨らませていました。

 幼い少女の無垢な期待に是非とも応えてほしいものです。


「世界を回すもの、汝風の精霊よ、盟約によりて我が声に応えたまえ、その力を貸したまえ、我が願いを……叶えたまえッ!」


 心地よい川のせせらぎ、木の葉の擦れる軽やかな音色。

 今日も森は素敵な音楽を奏でています。


 はい、つまり何も起こらないということです。


「あぁ、また失敗ですかぁ」


「ちょっと黙って」

 

 フェルミアは何かを探していました。

 そしてそれを見つけたようです。


「こちらですっ!」


「え、大丈夫?」


「おまかせください。数少ない私の得意魔法ですので」


 そう言うならと着いていきますが、私たちには何が起きているのかわかりません。

 精霊と結びつきが強いとその存在を五感で感じ取れるようになる、と聞いたことがあります。

 もしかするとフェルミアには見えているのかもしれません。


 しばし彼女を先頭に森を進み、ある時私は周囲を見回すフェルミアを見てある事に気づきました。



 あっ、泣きそうな顔してる!!



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