魔法使いは背中を押す(そしてうっかりフラグを立てる)
フェルミアを慰めつつもさすがに途方に暮れてしまいました。
家を貫く大樹は無くなったものの、今度は家が花びらに占拠されてしまったのですから。
「ここは……腕の見せ所ですね」
まるで戦士のような顔でソフィアさんがそう言ったしばらく後、やはり歴戦の冒険者のような風体の女性陣が現れて大掃除が開始されました。
もはや軍隊のように統制の取れたその動きに、私やフェルミアが入る隙はありません。
私たちは少し離れた場所で腰掛け、ただそれを眺めることしかできませんでした。
「あのっ、お聞きしていいでしょうか!」
「うん、精霊魔法のことでしょ。あれね、たぶんフェルミアの基礎能力の問題、それと思考態度かなぁ」
「基礎……ということは、根本的に私はダメだと……」
「それだよ、それ。その悪く考えちゃうのがたぶんダメなんだよ」
魔法を行使する際にイメージというのは非常に重要です。そしてそのイメージを現実のものとするには自信が必要なのです。
極端な話し、自分こそが最高の魔法使いだと言っちゃえるような老子ほど、魔法使いには向いていると言えます。
実際にはそこまででなくても良いのですが、その点においてフェルミアは条件を満たしていません。
見た目はクールですが、意外とネガティヴで泣き虫ちゃんですからね。
そりゃあ三百年もうまくいかないなら、自分は精霊に嫌われているとか考えちゃっても仕方ないかもしれませんが。
「たったそれだけのこと……だったんですか」
私の説明を聞いたフェルミアは暗い顔で呟きます。
言ったそばから涙目です。
「ほら、そうやって自分のせいにしちゃダメだよ。精霊との繋がりはあるんだから基本だけなんとかすれば大丈夫。それにたぶんフェルミアと精霊の繋がりはすごく強いんだと思うよ」
「私が? なぜですか?」
「だって、あの花びらの量。あの時思ったとおりにできたって言ったけど、フェルミアが願ったのは花を咲かせた後で木を消すことだったんじゃない? それは確かに現実になった。そしてあのたくさんの花びらは、それに加えてのサービスみたいなものだったんじゃないかな」
正直なところ精霊魔法の知識はそこまでないですし、森の民の見解と私たち人間の精霊魔法に対する見解は異なります。
でも良いですよね。嘘を言っているわけではないですし。
「……それで、リヴィ様はいったい何をしたんですか」
「背中を押した……的な?」
「的なって、三百年間何をしてもあそこまでうまくはいかなかったんですよ!? 里でも有数の使い手である姉にも教えてもらいました。それでも、こんなふにはならなかった! あなたはいったい何なんですか!!」
ごまかしで納得してもらえなかったようです。とはいえ老子との約束もありまして、何もかも話すわけにはいかないのです。
それに言ってしまえばきっと、それはフェルミアの為にはならないでしょう。
ただ何なのかと言われてたなら、こう応えるしかありません。
「私は、いじわるで横暴で、偉大な大魔法使いの一番弟子だよ」
当然そんな返答で許してはくれなさそうでしたが、私はごまかすように続けざまに処方箋を投げかけました。
「とにかく、もうちょっと自信を持てるようにすること。実際にあなたの声は精霊に届いているしね。あと魔法の基礎能力も鍛えること。森の民にもそういうのあるでしょ? まぁ一番良いのは尊敬できる使い手の人と一緒に暮らして、魔法だけじゃなくて考え方や言動なんかも真似て見るのが一番手っ取り早いけどね。魔法の基礎能力って大げさな修行より日々の生活の中で培っていくものだから」
「尊敬できる使い手と、一緒に……」
「そうそう。頼んでみたらいいよ。そしたらぜったいうまくいくから、ね」
私はお家の様子を見てくるとそそくさと立ち上がりその場を後にします。
「あの」と躊躇いがちに声をかけられ振り向くと、
「あ、ありがとう……」
頬を赤く染めたフェルミアがもじもじしながら小さな声で言いました。
もう私が男性でしたら、一発でノックアウトだったことでしょう。
その可愛らしさで私までちょっと頬を赤らめてしまいそうです。
「ううん、がんばってね」
お家の様子を見に行ったものの「おまかせ下さい」と追い出され、再度私が戻った時にはもうフェルミアの姿はありませんでした。
ただ代わりに先ほどまでなかった小さな花が揺れています。
その花を撫でながら、私は彼女の今後が良きものであるようにと祈りました。




