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並べる言い訳、重ねる謝罪

「ニーロ、彼女を責めないでやってくれないか」


 ゆっくりと、二人の間に割り込む。ニーロの冷たい眼差しがまた俺に移る。


「先に言っておくよ。今回の件は俺が原因だ。まずそれは謝ろう」

「どういう事だよ、そこの女の仲間が俺を襲ったんじゃないか。……アルツも、俺を騙していたんだな」

「少し落ち着け。全部話すといっただろ。アルツは研究所調査の協力者の一人ではあるが、お前を襲った件とは関係がない」

「……分かった。納得がいくように話してくれよ」


 腕を組み、苛立ちを隠そうともしないニーロ。聞く姿勢には怪しいところだが、俺は気にせず話始めた。


「まず、お前を襲った二人だが、名前はサンダとハーディーだ。あの二人も今回の協力者の一員なんだ」


 俺が、あの二人と知り合いだというと、ニーロは小さく体を震わせた。怒りの熱量が上がった様子が窺える。


「で、だ。俺は以前から、今回の調査にお前の協力が不可欠だと思っていた。俺と一対一であれだけ戦える奴は他に知らないからな。だが、中々言い出せなかった」

「俺が、あの研究所で被験者をしていたからか」

「そうだ。そう躊躇している時に、あの熊が現れた。その時に俺は信じられないものを見た。それが、お前が二つの能力を駆使して戦うところだ。あの時は表情に出すまいとしていたが、かなり興奮していたんだ」


 俺の話に耳を傾けているせいか、ニーロの怒りが少しずつ収まってくる。気を逃すまいと、俺はさらに言葉を続ける。


「その後、俺の見舞いに仲間がきた。その中に、このシュネリも、残りの二人もいた。俺は話した。あの街には化け物がいるとな。ニーロ、お前が本気を出せば、俺だって多分勝てないだろう」


 少しだけ大仰に振舞いながら、考えていた話を語る。そもそも、怪我をした日にメディ(アルツ)の治療で殆ど回復していたので、見舞いになぞ来ることはない。


「あの二人は血気盛んでね。強い奴がいると聞いて、はしゃいでいた」

「二人は単細胞な馬鹿なんだ」


 俺の言葉尻にかぶせる様に、シュネリが呆れた声で呟いた。シュネリは続ける。


「私も止めたんだが、一度言い出したらあいつらは止まらなかった。朝気が付いたら二人がいなかったから、嫌な予感がして街まで追いかけて来たの」


 はぁ、と一つ溜息をつく。シュネリの目線が、地面に落ちる。


「私が現場に着いた頃には、ハーディーは吹っ飛ばされているし、サンダは追い込まれたような顔をしているし、彼は倒れているしで、正直状況がよくわからなかったわ」


 それでも、と彼女は顔を上げると、真っ直ぐにニーロを見つめた。


「それでも、ここから逃げなければならないって事だけは分かった。二人がかりでも、あなたに手も足も出なかったのだという事もね。だから、クラフト……でいいのかしらね、彼を人質にして逃げたって訳。倒れた彼を見るあなたは、かなり動揺していたから」


 シュネリが語る内容には、嘘はないのだろう。街はずれで三人に起こされた時、最初に目に入ったのは、それぞれの額に浮かぶ大粒の汗であった。


 彼らが逃げ切るところを見送り、また気を失う振りをしていた中で、この三人ですら相手にならないのかと驚いたことを覚えている。


 苦々しく唇を噛むシュネリ。本当に悔しそうに見える。いい演技だ。その後を継いで、俺は念押しにまた謝罪した。


「とにかく、今回の件はお前のことを過剰に持ち上げて話した俺と、それを鵜呑みにして暴走した二人が全ての元凶だ。本当に、申し訳なかった」


 俺はニーロに対し、深々と頭を下げる。このまま手を降ろせば、掌が地面に着いてしまうだろう。腰の曲がる角度は、それ程であった。


 ニーロが大きく息を吐いた。組んでいた手をほどき、頭を掻く。


「……頭を上げてくれ、クラフト。大体の事はわかった。確かに、そこの女に直接何かされたわけじゃないからな。今の話が本当だっていうなら、俺も水に流すことにする」


 それは、渋々といったところだろう。それでも、ニーロは俺達を許した。その言葉が大事だった。


 ただ、とニーロは言葉を続ける。


「その馬鹿二人ってのも、今回の協力者なんだろ。そいつらからは、直接謝罪の言葉を聞かないと腹の虫が収まらない」

「わかった。それは約束する」

「謝るのは俺にだけじゃないからな。ティーレン先生にもしっかり謝らせろよ」

「……それも、約束するよ」


 俺のその言葉に、ニーロはまた、渋々といった表情で頷いた。


 その翌日、俺はサンダとハーディーを連れてニーロに会いに行った。先の戦いで吹き飛ばされただけのハーディーは、正直納得していないようにも感じられたが、とにかく約束を果たした。


 これで研究所へ行ける。そろそろ研究所の奴らも痺れを切らす頃だろう。ギリギリで間に合った。先制攻撃するには、戦力は十分だと思う。


 潰される前に潰す。居場所を守るための戦いになるのだろうなと、流れる雲を見送りながら俺は呟いた。

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