聖女様ははっきり言って機嫌悪いです
逆ハー聖女(仮)に絡まれる
ざわざわざわ
「まただな……」
「うん……」
俺とメイプルは下働きだ。
下働きは雇われている家で影のようにひっそりと見えないところでその雇い主が暮らしやすい環境を維持するのが仕事だ――俺らの仕事がその範疇から外れているという突っ込みは受け付けない――そう黒子のように――黒子というのはよく分からないが、昔この世界に降り立った聖女様が下働きの事をそう評したそうだ――。
だが、今それが出来ない。
野菜の皮をむいていると視線が集まってくる。
「確かに聖女様に似てるわよね……」
「あの下働きも、聖女様のお目に止まるだけあって、綺麗な顔立ちね」
「どっちも手入れして、綺麗に飾れば隣に置いたら見劣りしないわね……」
…………………………紳士淑女という言葉があるはずだ。
王城に出入りが許される貴族の方々がまるで見世物小屋のように連日連夜詰め掛けて俺とメイプルを見に来る。
見に来るのはそれでもまだましだ。
聖女様に婚約者を奪われたお貴族様のご息女が、メイプルに嫌がらせをする――召使にさせている――とか、聖女様に振られた同じくお貴族様のご子息様が、メイプルを権力を笠に掛けて手籠めにしようとしたり………。
因みに未遂だ。ご子息様の恥になるので細かい話は言わないが。そう、貧相なモノとか小さいとか、口説き方が下手だとか本人隠れているつもりでも目撃者が多かったとか……諸々。
しばらく社交界に出られないだろうな…………まあ、出てきたら緘口令が引かれているはずの噂があれやこれやと出ててくるだろう。(それくらいで許してやるだけでも感謝してもらいたいものだ)
聖女様に似ているというだけでメイプルを養女にしようとするお家とか引き抜きしようとする輩もいて下働きもままならない。
それがメイプルの方で起きている面倒な事。
一方俺の方にも来ているのだが……。
(めんどくせー)
俺自身やメイプルに好意を持ってくるならまだ分かるが――それでも頷けないけど――声を掛けてくる方々は明らかに俺らを通して、権力を握れるんではないかと思い込んでいるのが目に見えている。
………俺らただの下働きなんだけどな。
それだけでも俺らの仕事に支障が出ているのに――。
「ねえ。楓」
つーん
聖女様が取り巻きを連れてメイプルに話しかけてくるが、メイプルはこの通り相手にしない。
相手にしたくないというのがありありなのだ。
「楓。************」
聖女様が何か言っているんだけど、正直さっぱり理解できない。
メイプルは分かるんだろうかとついメイプルを見るが、メイプルはノーリアクション。
「…………」
ただ気難しい顔をしているだけだ。
「楓ったら⁉」
「…………申し訳ありませんが、私の名はメイプルです。楓なんて名じゃありませんし、聖女様に気軽に声を掛けてもらえる立場ではありません」
慇懃無礼。一応敬語を使って格下アピールをしているが、その態度は人によっちゃ怒りを買うだけだから止めた方がいいと思う。
それにしても……。
似ていると思うが、こうやって見ると違いがはっきり分かる。
丁寧に手入れされ大事にされた聖女様と下働きで働き化粧っ気が無いメイプル。
環境で人はここまで変わるんだなの見本市のようだ。
(……うん。うちの妹の方が可愛い)
「…………兄さん。今、嬉しいけど、正直喜んじゃいけない事を思わなかった?」
じろっ
メイプルがこちらを見て言ってくるが、意味が分からない。
はぁ
なんでそこで溜息を吐くんだ。
「兄さんは鈍い……」
鈍いって、鈍かったら下働きやってけないんだけどな。
「チェリ-。そろそろ」
皇太子が聖女様に声を掛ける。その時こちらを睨むのを忘れない――そこは忘れろよ――。
「そうですね。チェリーも仕事がありますしね」
司祭がそっと腰に手を回してエスコートしようとする。
おいっ、司祭!!
「行こうぜ!!」
そんな聖女様を取り戻すように手を掴み引っ張る将軍御子息。
ばちばちばちっ
火花が舞っているな。そして、その火花の中嬉しそうに――でも、一応『私のために争わないで』と慌てている。あくまで一応。様式美という奴だ――顔を綻ばせている聖女様。
嵐のように去っていくので、
「やっといなくなった」
ホッと気を抜く俺とメイプル。因みに他の下働きの方々もだったりする。
「あんた達も大変だね」
「お騒がしてすみません」
頭を下げながらも手を止めない。というか聖女様に絡まれていても仕事である大根の皮むきは止めなかった。無礼だと騒がれなくて良かった。うん。
「……ムカつく」
ぼそっ
メイプルが呟くのが耳に入る。
「メイプル?」
呼び掛けるが、メイプルは聞こえてないようだ。
「分かってる。そんな事………」
メイプルの言葉が分からない事は多くあったけど、
なでなで
「兄さん?」
「何落ち込んでいるんだ。嫌な事言われたか?」
同協。しかも身内だ。身内ならではの事をずけずけ言っていてもおかしくないだろう。顔を覗き込むと。
「兄さんって天然ですよね」
「天然?」
いや、そんなつもりはないけど。
「そんな兄さんだから………」
不安です。
小声で、聞こえないように言ったつもりなんだけどしっかりばっちり聞こえた。
何を不安に思っているのやら。
首を傾げていたし、メイプルの言葉は理解できない事が多いのでスルーしたのだが。
「若作りまでして、逆ハーを作っているんだから。兄さんもぺろりと食べたいと思ってもおかしくないでしょうが」
ってか、年齢を考えろって。
少しまで落ち込んでいたメイプルは開き直るとシビアだった。
それを兄には悟らせないが。
主人公は自覚なしで高スペック




