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◆弱肉強食失禁物語の巻◆

おはようございます。

読んでいただけれれば嬉しいです。


 田舎の臭いってこんな感じだったかな。


 まだ二日しかたっていないはずなのに、もう遥か悠久の時間の彼方に感じられる。


 過去の平穏な日常の記憶がふっと脳裏をよぎった。


 俺は山道を駆け上がっていた。


 山道といっても歩いているところは、ほとんど道という感じがしない。


 簡易的に出来た獣道のようだ。


 かなりきつい傾斜だが危険な道というわけではない。


 その獣道は強い独特の土の臭いが充満していた。

 

 腐葉土とも腐りかけた木の葉の匂いとも違う力強い匂いだ。


 そんな獣道を全力で俺と雪娘のゆきなは駆け上がっていた。


 獣道と言うぐらいだ、道という字がついていても全く舗装はされていない……それどころか、たまに野生動物の落としていったう○こを踏んでしまう(ゆきなが……)危険な道だ。とくに幼い子供達にはフロンティアスピリッツが必要な道なのだ。


 ちなみにゆきなの体躯は小柄なのだ。


 つくしもそうだが成長期に伸び悩んだみたいにみんな小柄だ。


 やはり栄養の具合だろう(古都にゃんは肉食なのでスラッとした長身です)。


 その小柄な身体で全力疾走。パタパタと手ぶりのジェスチャーを使って、俺が迷わないように先導してくれる雪娘のゆきな。


 ……同じ道を三回きている所をみると本人そのものが迷子の子猫さんになっているみたいではないかーっ!


『はぁぁ』と俺は心で小さく嘆息してしまう。


 その心の嘆息。それは焦りからきているものだ。

 

 俺には余裕がないのだろう。


 永遠にこの島で暮らすなら余裕も時間もたっぷりあるのだが。


 あいにくそんなつもりはさらさらない。


 ぽてぇっ!

 

 本日三回目……また、ゆきながうんこで滑って転んでいる。

痛かったのだろう。


 ゆきなは奥歯をギュッと噛み締めて瞳に涙が滲んでいる。

 

 そんなゆきなのそばにいくと俺は屈んでしれっと手をさしだした。


 少し太めの眉毛は情けなくハの字を口はポカーンとだらしなくあいたままだ。驚いている表情なのだろうか。ただ、俺を仰ぎ見たゆきなの頬にほんのりと朱がさしている。


 二回目までは……ゆきなの小柄な体型にミスマッチに実っているプリンプリンの巨乳が揺れて、ほほえましく躓き転ぶ姿を何度も見ながら、そう……ほほえまし過ぎて……なんどかポカリと小突いてツッコミを入れた。

それにしてもゆきなを観察していると献身的に俺に接してくれているみたいだ。


 なんだが、嬉しそうに幸せそうに接してくれる。


 それが俺の中に仏心……すなわち優しさや平和的側面である和魂成分(愛他の精神)を刺激したのだ。


「ほ、ほえぇぇぇ、や、優しいですぅ。愛に目覚めたのですか!? ゆきなは独身で彼氏はいないですぅ」


 俺の手を握り立ち上がったゆきなは鼻にかかったような甘えた成分満載のちくりんな声を出しながら俺をまじまじと見つめてくる。そして、視線は握り合った手に移すと張りのあるきめ細やかな白い柔肌がポンっとピンク色にそまった。


 それは見事な染め上げだ、地域活性化のあたらしい財源になりそうなほど玄人な染め上げだ。


 まぁ、そんな感じで再び俺たちは山道を歩くことにした。


 深く逢い茂った緑凛がのみこむように獣道に押し寄せる。


 とくにツタ植物の自己主張は激しい。


 山道を塞ぐ枝や幹を払いながら俺は自然の偉大さと雄大さをリアルタイムで感じていた。


「はにゃ、突然、土の臭いなど嗅いで……もしや、ウンコ臭い香りがお好きなのですか?お兄様……いや、兄っちと呼んであげます。臭いフェチなら、ゆきなのストロベリー級の甘~い香りをクンクンしてもよいですよ☆」


 ふぁっとお天道様に照らされて眩い金髪が綺麗に空気を含みながら悠然と舞った。


 俺の目の前でくるりっと踵を返して爛々とした青い瞳が上目遣いで覗きこんでくる。


「ストロベリー、かき氷にして食っていいと言うことか」


「うううぅぅ、バイオハ○ードな……兄っちはこんな可愛い妹が新しく出来たにもかかわらず。その妹を食べようと!! あれ? 食べるって……もうもう、ゆきなは青姦は苦手ですぅ。はっ、も、もしや、兄っちは……ろ・り・こ・」


 バシャリ!!

 

 白目をむいているとれたて鮮魚が宙を舞う。


 それは先ほどゆきなの冷却に驚いて河原に打ち上がった魚。


 右手に握られたミラクルかつオラクルな武器なのだ。


 俺の渾身の想いを込めた鮮魚アタックが『バチコーン』とゆきなの無防備な顔面にヒットした。


 みたか、必殺、鮮魚は採りたてブーメランマークツ―の威力をーっ!

俺は少し勝ち誇った顔をする。


「うぇぇぇぇ、生臭いです、酷いです、ウロコがつきましたーっ。食べ物を粗末にするなんて虐待ですぅぅぅ」


 ゆきなはそう言いながらその場に蹲る。


 よほど生臭いのだろう首を遠心力でめげてしまいそなほどプリプリと振って涙目だ。


 しかし俺は知っている。この、子供っぽい仕草に騙されてはいけないぞ、ワトソン君。


 小一時間ほど前は俺の身ぐるみを剥いで溺死を策略した腹黒なのだ。

山賊まがいの小悪党なのだから。


 ゆきなの狼狽ぶり……今、バイタルチェックをすれば交感神経が興奮していることは一目瞭然だ。


 ゆきなが必死に立ち上がり自分の無罪をアピールする。


 ド級だ、ド級に凄く怒った顔なのだが、行動がついてこない。


 中々、可愛らしく相貌を服でクシャクシャと拭く。


 怒りの勢い収まらず、俺の襟首をつかみそうな勢いで接近してくるとほっぺを空気を入れて『プクリ』と膨らませる。


 精一杯の三角ジト目で俺を見据える。


 しかし、全身で抗議しながらも生臭さのために『ひーひー』言っている。

ばってん、取り立て鮮魚をなめてはいかんぜよ!


 「こら、まだ、着かないのか? 結構歩いたぞ」


 プンスカと機嫌が悪くジト目のゆきなを軽くあしらう。

俺は目的地までの距離を訪ねた。


 目的地……そうなのだ、俺はこの島の全貌が見渡せる山の頂上を目指して、ゆきなに道案内をさせていた。


 一寸の虫にも五分の魂というが、食物連鎖の犠牲になりかけていたゆきなを救って正解だった。


 腹黒っぽいが律儀で巨乳(うむ、Fカップはありそう☆)なゆきな。

今のところはしっかりと道案内をしてくれている。


 やはり、雪娘が、自分の力で氷漬けになって死にかけたのだから。

純情な男子学生が一目惚れして紹介してもらった相手がニューハーフのタイ人だったほどの強烈なメンタルダメージだったのかも。


 こいつまた、プンスカ腕組しながらジト目で見てきやがる……仕方がない……鮮魚君出番です。


「兄っち……その魚、ひひひ、お譲ちゃん、僕のエラと触れあわないかいみたいな顔をしているのですぅ、白目をむいた鮮魚を振りまわして威嚇するのはやめてくださいぃぃ」


 両手で頭を押さえて防災ずきんよろしくみたいにその場にしゃがみ込む。

 

 この構図……何だか俺っていじめっ子みたいやん。

 

 教育委員会は黙って見過ごさないぞ! といった構図だ。

そんなやり取りをしながら歩いていると。


 ガサガサ……


 何か揺れた。


 ガサガサガサガサ……


 突然だった。低木が密集した茂みが揺れ始めると黒い影が見えた。


 野生の動物だろう、森羅万象を体現している山道だ。


 動物の一匹や二匹、今まで出くわさなかったほうが不思議なのだから。

 

 隣を歩いていたゆきなに目をやるとなぜか硬直している。


 警戒心を通り越して息が詰まったように緊張感が走っている。


 俺も白目をむき出しにした鮮魚を構える。


 がさぁぁ!

 

 その影が姿をみせる。

 

 頭部は太くて短く丸みをおびている。


 背面はまだら模様の黄色と黒の毛衣。


 腹部や四肢内側は白い。


 尾の先端は房状の黒っぽい体毛が伸長していた。


 大きなネコ科の動物……いや、ライオンのような動物が飛び上がり襲いかかってきた。


『むぎゅゅゅ』カエルの断末魔ほどの声が……そう、ゆきなの声が辺り一面に木霊した。


 頭から丸かじりされたわけではない。


 大きな前足に踏みつぶされたのだ。


 驚愕と悲壮……そして混乱したゆきな。


 地面と大きな前足にサンドイッチされた事をようやくゆきなは理解したらしい。


 この絶望的な状況を把握して、あらためて驚きと苦悶の表情を同時にあらわす。


「ぐるるるるぅぅぅ」


 地鳴りのような呻き声だ。


 見た目は三メートル近くあるライオンにも似た生物。


 市立の動物園ではまずお目にかかれないな。


 リアルすぎる緊迫感。


 今の体験をつれつれと綴ると素肌に某有名な焼肉のたれ中辛を塗ってサファリパークを練り歩く……そんな体験をしてしまっている……というか、たすけてぇぇぇぇぇ。


 「びぇぇぇぇん、ケ、ケルベロンだぁ。ううう、ゆきなを食べても美味しくないですぅぅぅ」


 命懸けだ、全身全霊で手足がバタバタともがき、必死に懇願するゆうな。

その気迫は信仰もしないのに奇跡を信じて神様や仏様にも縋る勢いだ。


――ケルベロンというのかこの、猛獣――


 プシュ―と凄い鼻息だ。


 クンクンと素材を確かめるようにゆきなの臭いをかいでいる、もしや、こいつ、臭いフェチなのでは!?



「兄っち! 妹は絶体絶命のピンチなのですぅぅぅ。助けてください!」と慟哭を帯びた声で助けを求めるが……俺がこんな猛獣に勝てるわけないやん!


 俺の意志は決然した、今の覚悟をゆきなに伝える。


 「ゆきな!」大きな声でチカラ強く叫んだ。


 同時に身動きがとれないゆきなも期待を宿した眼差しをこちらに向ける。

その表情も『助けてもらえるのだ!』と期待感で花びらがほころんだみたいな柔和な顔つきになる。


 「弱肉強食と焼肉定食は自然の摂理だ。そう弱肉強食なのだ。そのピラミッドの一環と思ってあきらめろ」


 俺は両手を横に広げて仕方がないなぁと肩をすくめた。


「えっ………いゃゃゃゃ、死にたくないよぉぉぉ、まだ、将来の旦那様とキスもしてないのに。兄っち、リバース・ヘルプ・ミー、うぶぅ」


 喧しかったのだろう。

 

 ケルベロンは前足でぐぐっと更に押さえつけられ、圧力に負け、地べたにキッスしてしまうゆきな。


 ――ゆきな、ファースト・キッスの夢、叶ったな――


「ぐるるるるぅぅぅ」


 おや、どうやらケルベロンの瞳の矛先が俺に向いている。


 これって、どうみても恋する眼差しじゃないよな。

 

 ピクリっと背中に悪寒が走る。


 予想道理、俺に向かって太い前足がのっそりと闊歩して近寄ってくる。


 檻村先生……約束守れそうにないです……脳裏に先生の映像が浮かぶ。

俺は正眼に鮮魚を構えて覚悟を決める。


 もはや逃げ道はない、進むべき道は一つ。

 

 しかし、予想に反してケルベロンは立ち止まった。


 俺の顔を見て何かを思い見るように首を傾げた。


 記憶の糸をたどるようにケルベロンはぷるるんと鼻を鳴らして俺の匂いを嗅ぎ始めた。


 不思議と獰猛な雰囲気が少し和らいだようだ。


 そして、ケルベロンは懐かしの友人との邂逅とばかりに友愛を視線に上乗せして俺を凝視する。


 ペロ~ン


「パッケンタン!!」


 でっかい舌で舐められた(初体験です……)……俺はアメなのか……俺の全身に生温かい感触がフィットしてくる。


 ひぃぃぃーっ、た、隊長、鼻腔を劈く唾液の臭いがめっちゃ生臭いであります!


『ぶぉぉぉん』とでっかい尻尾をバッタンと大降りにフリフリする。

超ゴキゲンなフリフリだ。

 

 俺の持っていた白目をむいた鮮魚に上手く牙を引っかけて器用にサッカーボール二十個は入りそうな口におさまっていく。


 一歩間違えればその口には俺やゆきなが頭から丸かじりされていたと想うとゾッとする。


 ガリボリゴリ――


 強靭なアゴで魚を丸ごと噛み砕く。


 それは迫力のサウンド音……カルシウムは大切なんだぞ! とも言いたげそうに俺のほうをジッ―と見つめる。


 蛇に睨まれたかえるはこんな感じだろうな……脂汗だらり……ヒヤリしすぎてまったく身じろぎできずに俺は完全フリーズしてしまう。


ゴロゴロゴロ――


 凄いスキンシップが始まる……何故か、俺に巨大な体躯をゆさゆさとこすりつけてくる、『なんだか物凄くお久しぶり、信頼してまっせ旦那みたいな』のような暖色溢れる雰囲気が出ている。


 すると、愛情たっぷりに俺をもうひと舐めして「パッケンタン!」と甲高い声をあげて踵を返して茂みに帰って行った。


これには命が縮む思いをした。


 交感神経の緊張が続きすぎるとアドレナリンの作用が高まり血管がぎゅーと雑巾のように絞られるような状態になる……一歩手前だ。


 ――ああっっ、神様ありがとー、善行陰徳、毎日良い子にしていてよかったぁぁぁ、これからはもっと素直に生きます――


 完全に肩の力が抜けた。


 俺は極度の緊張感から安堵感に心がシフトしていく。


「あ、兄っち、す、凄いです。あの獰猛なケルベロンが甘えた声を出して懐いていました。兄っちは何者なのですか!?」


 キラキラとお星様たっぷりに瞳を輝かせてぐいっと迫ってくるゆきな……あっ、こいつ、失禁している。


 俺は先ほど『素直に生きます』と決めたので、心優しく素直に伝える事にした。


「おい、失禁しているぞ……太ももに垂れ流しで……」


「…………」


 そんなに涙目で見つめるなよ。


 ああっ、その場に伏せてしまった。


 立つのだ、立ち上がるんだゆきなぁぁぁぁ―!


「びぇぇぇぇん、酷いです、酷いです。もう、失禁とわきがは男子禁制の乙女の禁断の花園なのですぅ。兄っちは無断で足を踏み入れました。一族には帰れないです。トラウマです。責任とってゆきなをもらって下さいぃぃ」


 ペタンっと腰と膝の力が抜けて座りこけてしまったゆきなはプルプルとアホ毛を揺らして、両手を胸元で組み、悲壮な面持ちで俺に訴えかける。


 「こらっ、さっさと行くぞ」


俺はじたばたとするゆきなの首根っこを掴んで山道を再び歩き始める。


「ひどいですぅぅぅ、責任とるですぅぅぅ、うううぅぅぅ、ちびったなんて……うううぅぅぅ」


 豪快すぎるほどに泣き叫ぶゆきな……荷馬車に揺られた仔牛でもあるまいし(バイ・ドナドナ)……しかし何だか可愛そうなので仏心が芽生えている俺はやんわりとフォローを入れる。


「ゆきな」


「うううぅぅぅ、はぁぁいぃぃ」


 グスリと嗚咽をこらえながら必死に返事をする。


 「俺は……」


しくしくと滂沱の如く涙が止まらない弱い涙腺に留め金の一つとばかりに優しい言葉をかけた。


「お前がド変態で放尿プレイが好きでも、俺は決して軽蔑しないぞ」


「その発想が出てくる事態に軽蔑ですぅぅぅ」


 俺の手をガブリと噛みつくと『びぇぇぇん』と再び大きく泣き始める。


――女心は複雑なんだなぁ――

と心で思いながら見上げる空は雲一つない心地よい風が吹いている。


 お空の真ん中でプテラノドンがじゃれ合っている姿が何だかとても和む……そんなお昼日和な時間だった。


いかがてしたか?

楽しんでいただけましたら嬉しいです。

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