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◆恋は目玉焼きよりスクランブルエッグぞよの巻◆

おはようございます、楽しんでいただけましたら嬉しいです。


 そこは荒漠した大地だった。


 塵や砂が突風により吹き上げられた砂嵐が大地を蹂躙していた。


 砂嵐の中は周囲よりも高温で乾燥している。


 空気中の砂塵が水分を奪う。そんな過酷すぎる砂嵐を静かに耐えるように灰色がかった煉瓦造りの古ぼけた小屋が物悲しそうにたたずんでいた。


 小屋の内部から淡く小さな光がこぼれている。


「良いですか、カノン。約束です。貴方が幾多の世界に生まれ変わっても、私は貴方を探し続けます……これは千年の約束です……私がもっと力をつけて……必ず、カノンを」


 小さな小屋の中には二人の男女がいる。


 ベッドで横たわる青年と淡雪のような儚い雰囲気を宿した少女だった。


 少女の胸元には大切に一冊の本が抱えられている。


 そして……少女は高ぶる感情を必至にのみ込みながら美しく意匠が施され小さな本をベッドで横たわる青年の上に置いた。


 美しい白銀の少女の瞳は今にも零れおちそうな涙を湛える。


 そんな少女を目の当たりにしている青年はとても申し訳なさそうな顔で振り絞るように言葉を紡ぐ。


「申し訳ございません……この、カノン……夢半ばで力尽きる事……お許しください」


 しわがれた声……青年とは思えぬ生気が抜けた白髪……その青年は絶世の美男子と称されたカノン……ただ、容姿の輝きは一寸も衰えていなかった。


 白銀の少女はいつくしむように青年の手をそっと握り……強く、強く……感情を押し殺しながらゆっくりと衰弱していくカノンの生気を感じ取っていた。


 少女は直感で悟ってしまった。


 人生の幕引きである死の影がカノンを蝕んでいることを。


 白銀の少女の瞳から想いを代弁するようにハラハラと透明な液体が溢れ出る。


 頬を伝い……顎から落ち……やがて青年の手に雫が舞い降りる。


「どうか……笑ってください……私は貴女の笑顔がとても好きです。もう、二度と貴方をこの瞳で映しだすことは出来ませぬ。だから笑ってほしい……貴女が笑ってくだされば、呪いの力、このカノンが必ず冥府までひきずり持ち去ります。どうか、この世界が笑顔で満たされますように……貴女が手に入れた力を……シャル様の手で完成させてくださいませ……奇跡を……笑顔を……」


 ドスンっ――


 何かの衝撃が複直筋部に走る。


 肺がむせるように苦しくなり息を吐きだした俺は眠りから目が覚めた。


 ぼんやりとした俺の視界には緩やかな洞床の斜面に少量の水が緩やかに流れている。


 その先にはいくつもの水たまりが形成されていた。


 洞窟の壁や斜面の岩肌を薄く覆いかぶさった流華石。


 天井にはつららのような白い鍾乳石が無数に存在している。


 鍾乳洞らしき場所だ。


 視線を腹の辺りに落とすと黄色い果実が勢いなくゴロリところがっている。


 どうも、ウトウトと眠っていたようだ。


 黄色い果物が腹部に投げられた痕跡が服に染み付いている。


「寝言とは、この状況で居眠りできるとは余裕だな」


 視線をあげると半眼ジト目の黒髪の妙齢の女性ほのかが腕を組み、こちらを見下している。


 俺はぼんやりとしている思考を引き締めるように大きく首を振った。


 どうも俺は、軽いレム睡眠に陥っていたようだ。


 はっきりと感覚まで覚えている夢をみて(多分、歯ぎしりはしていません♪)何らかの寝言をいっていたらしい。


 すこぶる機嫌が悪いように『ふんっ』とほのかが俺から目線を外すと、果実が転がっている理由を確信した。


 果実を投げたほのか……「別に、あんたの為に果実を渡したわけではないんだからね」的口調、特に語尾が荒くなっていた――てゆうか、ほのかってもしやツンデレでは!?


 辺りを見渡すととても薄暗い、陽光のない宵闇のようだ。


 隣を見ると俺の傍らで腕にしがみつき、肌の温もりを感じ合うように寄り添うつくしが心配そうに上目遣いでこちらを見ている。


 洞窟の外は夜の世界。


 土砂降りの雨が落雷と共に大騒ぎしている。


 ゲームにはルールがある。魔女達が定めたルールだ。


 監獄島全域を跳梁跋扈していた恐るべき執行者達も夜になるとルールに従い波が引くように、拠点がある北部地域へと引き返して行った。


 俺達はほのかの誘導に従い、古山道の近くにあった少し大きな洞窟へ一時的に雨宿りを兼ねて避難していた。


「ほら、食べろよ、つくし。お腹空いているだろ」


 拾い上げた黄色い果実をつくしに渡そうとすると、つくしは受け取らずに可愛らしい顔を横にプルプルとふった。


「これは、ダーリンが食べるのじゃ。わしは戦力にならぬ。戦えるものが少しでも力をつけるのじゃ」


 ぐぅぅぅぅ―っ!


 豪快だった、はらへりへりはらのようにつくしの腹からド級のひもじいボイスが鳴り響いた。


 つくしは耳まで真っ赤になりシュンと頭を下に向けて「むひぃぃぃ」と小さく呻き声をあげる。


 「クククッ……」


 豪傑の雄たけびのようなつくしの腹の音にカラスに戻ったオリムラも思わず失笑しているぞーっ!


 つくしらしいな――微笑ましさが溢れるつくしの行動に俺の心があったまる。


 つくしの真っ赤な顔に目をやりながら俺は微笑んでみせた。


 ここまでの道のりながかったなぁーっ! まだ、離れて一日もたっていないのに数年、いや数十年も過ぎ去った邂逅のような気持ちになるぞ。


 だから俺はつくしにいつもより優しく接する。


 俺の手にある果実はかなり熟れていたので力を入れると簡単に割る事が出来た。


 右手は俺の分、左手はつくしの分、俺はほいっとつくしの膝元に置く。


「俺はおまえの笑顔でお腹がいっぱいだよ」


 ――あま~い!――


 と突っ込みたくなる俺、カラスの呆れた顔、今の間合いは完璧だった。


 一九八十年代のB級映画のような恥ずかしい言葉、さぁ、つくし、存分に突っ込みを入れてくれーっ!


 と心はワクワクさせ、瞳に期待を込めた爛々とした眼差しでつくしを見ると。


 とろけています……つくしはとろけるシュークリームよりもとろけています――もうドロドロです。


 つくしーっ! 心の底から計り知れないほどの感情が湧き出ていますよーっ。


 もう、感無量といった相好でうっとりとしているつくしは俺を見つめてくる。


 つくしさん、とろけすぎていますよぉぉぉ、ど、どうしたのですかーっ!


 宇宙の神秘をみるような清らかな瞳に恋傾慕する色がむんむんしているよ……つ、つくしさんーっ!


 まっことに申し訳ないが不純率90パーセントの俺はつくしの純粋無垢な視線を真正面からうけきれない。


 目にしみるような蜂蜜色の(ほむら)をあげている焚火の近くで静かに暖をとっていた古都にゃんと目があったのでヘルプミ―的な懇願視線を向ける。


 ああっ、気が付いてくれたーっ! 


 流石は古都にゃんベリーサンキュー♪ 早く立ちあがってこちらぇ! どうぞ、こちらへぇぇぇ!


 そうすると、「うむ」大仰と頷く。


 端然とした動作で立ちあがると、ゆっくりとこちらにやってくる。


 ああっ、助かります、古都にゃん様ぁぁぁーっ。


「ゆうき殿、私は決して忘れてはいない。皆をすくったら私のおっぱいを見せるのだったな、揉みほぐしながら吸うのだったな!」


 古都にゃんの真剣な眼差し。


――うぉぉぉぉぉぉ、ヤバイです、古都にゃんヤバイです、洞窟中から急に

氷点下の気温と厳寒的視線が俺に突き刺さり始めましたぁぁぁ――


 おそるおそる……つくしを見ると、目に熱い想いを込めた視線で見つめてくるぞ。


 俺の肩で「くくくっ」と笑うカラスが死神にみえますよぉーっ♪


 俺の傍らで古都にゃんが巫女の服の豊満な胸元に手をやろうとした瞬間、つくしが古都にゃんの手を掴んだ。


「???」


「恋は目玉焼きよりスクランブルエッグぞよ……ファイヤーじゃ」


「つくつく……私が悪かった……」

 

 二人の会話についていけずに茫然とする俺に「すまない。つくつくの言うとおりだ。おっぱいは披露できぬ」と古都にゃんは申し訳なさそうに深ぶかと頭を下げた。


――えぇぇぇ、俺、一言も約束してないのに……馬鹿カラスめっ、こんな状況になることをわかっていて約束をとりつけたな――


 ぐさっ! ぎぁぁぁぁ!


 突然、カラスが俺の心を悟ったようにくちばしで頭を一刺し……ひぃぃぃ、俺が痴れ者でしたぁ、ごめんなさいーっ!


「ダーリン」


 ためらいがちにおずおずとつくしを見ると剣呑とした雰囲気はなく、忸怩の色濃い瞳で俺をみつめてきた。


「すまぬ……わしがペタンコ貧弱で惨めなうえに魅力のない肉体なばかりに飢えさせてしもうたのぉ。初夜の楽しみも半減な気分なのじゃろ。ダーリンが貧乳が好きであればいくらでも見せるのらのぉ」

悔しさがにじみ出るようにつくしの身体は僅かに小刻みに震えている。


「ダーリンの優しい声がもう一度聞けて……わしは嬉しかった……もう一度逢いたかった……もう一度抱きしめてほしかった……」


 噛み締めるような言葉に小さな嗚咽が混じっている。


 震える身体は小動物のような愛らしささえ漂っている。


 瞳からあふれだした透き通る涙は頬をつたい、顎から重力にひかれるように地に落ちていく。そして感極まったつくしは抱きつくように俺の胸に顔をうずめた。


 「わしは……わしは……」


 声にならないかすれた声量が力無く唇から零れる。


――これはマズイぞ……明らかに……俺、ただのおっぱい好きの酷い奴やん――


 ばすっ! カラスが俺の頭を突っつく……これは、行け! ゆうき、玉砕覚悟で突っ込めコノヤロー! と間違えなく言っているぞ。


「つくし」

 

 出来るだけ優しい声を装ってつくしの柔らかく気持ち良い黒髪を愛でるように撫ぜ撫ぜする。


 心地よいのかうっとりとした大きな瞳が上目遣いでつくしは俺を見つめる。


 さて、脳漿振り絞って知恵と言葉をださねば、ここが勝負だーっ。


「愛しているのはお前だけだよ……」


 月並みのセリフだけど好感度少しアップを狙う。


 つくしの小さな身体をそっと優しく抱きしめながら、耳元で囁くように言葉を紡ぐ。


「つくしは善意でも……一人、海に逃がされた時はとても寂しかったよ……お前と離れる事は死ぬよりも辛いから……」


 つくしも込み上げた想いの抑制がきかないように俺を強く抱きしめはじめた。


 瞳も涙腺がはずれて大粒の透明な液体が無尽蔵に溢れだしている。


「ううっ、そこまでわしのことを……すまぬ……ダーリン……ほんにすまんかった」


 俺の胸に思いっきり顔を胸にうずめて、つくしは更に「ううっ」と嗚咽を始める。


 奥歯を噛み締めてつくしは感謝と懺悔を繰り返している。


 笑おうとするが笑えない。

 

 喉もかすれて声もとおらない。


 そんな想いを隠して愛する人と離れた。


 そして執行人に捕縛されて絶望していたつくしは最愛の人の手によって再び救われた。


 そんなつくしを見て洞窟内の好感度も飛躍的にアップ!


 周囲の視線もオゾン層が破壊されそうな温暖化が始まっている。

 

 もう、氷河期は終わりを告げたぞーっ!


「無知で非力で何も知らない俺のためにとった行動だろ……ありがとう……」


 俺の胸で震えてむせび泣くつくし。


 愛おしくてたまらなくなってくる。


 周囲の目線も落ち着きを取り戻したように暖色の色が濃くなっている。


 古都にゃんにいたってはエグエグと涙ぐんでいる。


 もう一息でつくし及び周辺の好感度マックスだ! 心の中で小さくガッツポーズ。


「俺はどんなに美しく大きなおっぱいだろうが、古都にゃんの魅力あふれるおっぱいだろうが……かんけいない……つくしが一番だよ。つくしの貧弱な中にも清楚感溢れるおっぱいが一番だよ……いっぱい吸いつきたいよ……今度二人っきりのとき鑑賞させてくれ……だから貧乳なんて気にしないでくれ」


 き、決まった……はず……なのに……洞窟の中が氷点下どころか氷河期までやってきたぞーっ。乙女の敵だといっている視線が突き刺さって痛いですーっ。


 古都にゃんにいたっては俺の人生軌跡を咎めるような剣呑とした眼差しだ……その視線は一撃必殺ですよ!


 ただ、つくしだけは恥ずかしそうに「わしはダーリンのものなのじゃ」と言って胸元でコクリっと頷いてくれた。


 それからつくしと恋人同士のように洞窟の壁際に肩を寄せ合いながらしなだれかかった。


 天井のつららから落ちる水滴のビチャリという音だけが洞窟に響く。


 そんな静寂がしばらく続いた。


 無限とも思える静寂を切り裂くように、そして、洞窟内にいる仲間達の心を代弁するようにカラスが開口した。


「くくくっ……明日……どう動く」


 シーンと静まり返った洞窟。


 洞窟内に無情に響くカラスの声に一同は深く息をのんだ。


「そうだな、明日を生き抜かなければ、今、この瞬間が無駄になる」


 とても厳しく現実を直視しているほのかの声が洞窟内に反響する。


 沈むように俯いていたかまいたちのほのかは肩元まである黒髪を指でいじりながら落胆したような諦観声をあげていた。


 洞窟内の雰囲気が再び暗くなる。


 ここにいる者、全てが同調するように皆等しく肩を落としていく。


 そんな洞窟内を一瞥したカラスが口元にかすかな笑みを浮かべた。


「くくくっ……お前達……感謝しろ……」


 暗澹たる気分がとぐろを巻く重苦しい雰囲気を打破するようにカラスが喋り始めた。


「策を授けてやろう……」


 その言葉はとても魅力溢れる言葉……思いもよらぬ提案が持ちかけられ、洞窟内の皆がカラスの発言を聞こうと耳を澄まし、視線が一か所に集まる。


「集計を襲う……ドールマスターを殺す……」


 クククッと不気味に笑うカラス。


 あまりに無謀で現実的でない提案だったため洞窟内に落胆色が再びひろがっていく。


「カラス殿、それは無理であろう……我々のメンバーで戦える者こそいるが、そこにいる、つくし殿の婿と辛うじて私と古都殿の3人だけ……ほかにここにいる者はお飾りで戦力にはならぬ」


 ほのかの言葉は極めて正鵠を射た。


 俺は洞窟内を見渡した……たしかに、女性ばかりの上……悲嘆にくれるよりも、『おほほほほ♪』などと微笑みながらお花摘みが似合いそうな妖怪ばかりである。


 カラスはそっと瞼を降ろした……刹那、蒸気が噴き出し、女性の姿へと変貌する……が、俺の肩で変化を解いた為、変身途中に肩から滑り落ちる。

突然、オリムラは裸体をさらけ出した。オリムラのおっぱいに顔が埋もれる俺に血相をかえて引き離す。あれっ!? 少しプンプンしているぞ。


「「「か、からくり姫?」」」


 皆が先程のつくしと同じ反応をする……ザッ・驚愕だ!


「貴様らに我が真名を名乗る義理はない……ただ、私はからくり姫などではない……」


 どうも、オリムラは名を明かさないみたいだ……と、言う事はやはり、オリムラにとって俺は特別な存在らしい。


 オリムラはすくっと立ち上がると洞窟内で驚愕の表情を浮かべる全員を軽く一瞥した。


「明日の太陽が東の空に昇るころには狩りの掃討作戦が執行されよう。狩りのルールは皆も周知だろう。単純なことだ。戦争とは頭を潰せばよいのだ。・七聖の魔女・バルケッタを」


 皆が茫然としてしまった……天真爛漫な赤貧の神であるつくしでさえ、ポカーンと開いた口がふさがらない状態だ。


「おつむのよわい奴らだ。まだ、わからぬのか……故にお主ら監獄島に囚われた妖怪は下賤といわれるのだ。私の肩に浮き上がる紋章を見よ!」


 皆の視線がオリムラの肩に注視する。


 むきだしにされた白い肌に浮かび上がる三つ星のトライアングルと蒼き龍。

それを理解した者達の声が驚きのあまりくぐもり洞窟内にどよめきが走る。


「そ、その紋章はファクターの紋章」


グォォォォォン―


 驚愕して瞳を大きく見開くほのか。


 その口から裏返った声が轟くと同時にほのかの身体をおおっている空間が揺れた。


 重力磁場が傾き、それに伴い発生した重力波が強力な衝撃となってほのかに襲った。


「身の程をわきまえよ。カマイタチ! 汝は我が主であられる、臨界の魔女ファクター様の名に触れる権限すらないのだと自覚せよ。本来なら、その矮小な命をもって償っていただくが……この場はゆうきに免じて罪は問わぬ」


 ほのかに投げつけられたその言葉は一種の威圧の念が込められていた。


 チラリっと俺を一瞥するオリムラ――何故か一瞬、俺だけにわかるように、悪戯っぽい笑みを浮かべたのだが直ぐに冷淡すぎる真顔にもどってしまった――ううっ、とっても嫌な予感がする……こいつ、絶対に何か企んでやがるぞーっ。


 『ゆうきに免じて罪は問わぬ』と言ったオリムラの言葉に皆の意識が促されたように今度は俺に向かって洞窟全体から好奇な視線が集まる。


「ダーリン、どういうことかや? 説明してくれぬか?」


――えっ、つ、つくし、何を疑っているーっ!?――


俺の肩をゆさゆさと揺すりながら真剣な眼差しで問いかけるつくし。


「ふふふっ、ファクター様にとって、ゆうきは特別な存在となったのだ。その特別なゆうきがお前達、下賤の輩を助けようとする。となれば、加護者であるファクター様も必然とゆうきを助けなければならない。この意味が理解できるか? このような幸運は一日千秋の想いを込めてもやってこぬぞ」


 オリムラーっ! とっても薄気味悪い笑みだぞーっ。


 人さし指が添えられたピンク色のくちびるからクスリッと笑いをこぼすと唇をひろげてニヤニヤしている。


 茫然とする一同。洞窟内は水を打ったような沈黙につつまれる。


 ただ、つくしだけは俺の首に左右の腕を絡ませる。

 

 頬と頬が触れ合う距離ですがりつくような眼差しでじぃーっと見つめてくる。


――め、めちゃんこ可愛いぞ、もう、我慢できない俺と結婚していいぞーっ!――


「ただし、条件はある。これほどの破格の待遇を提示しているのだ。当然、私も貴様らに見返りを求める」


 オリムラは形の良い唇の端がニヤリと上がる。


 声を出さずに笑うオリムラは怖い、カラス時代のオリムラの傾向から被害者は俺オンリーなのだから!


 一瞥した視線が一瞬だが俺を捉えた。その瞬間……超絶に背筋に駆け上がる嫌悪感。


「見返りとは?」


 静まり返っていた洞窟内の沈黙は破られた。


 重苦しく息を呑んだ古都にゃんが一言・一言、ゆっくりと自分の言葉を確かめるように伺いをたてる。


『その言葉、待っていたよ』というようにオリムラは無言で頷く。


「ふふふっ、私が求めるものはいたってシンプルだ。そこにいる大友ゆうきを一晩ほど私に貸せ。私の求めるものは大友ゆうきとの一晩の契り」


 うわーっ! やはり俺絡みかよーっ。


 グググッと俺の手が強く握り締められる。


 つくしは感情を押し殺すように俺の手を握りしめる力が強くなる。


 奥歯をグッと噛み締めたつくしがビクビクと臆したような色彩を宿した瞳を俺にむける。まるで怯える子リスのような仕草で。


 つくしは極限に張り詰めた想いと現実との葛藤の狭間で苛まれていた。

果てしない虚無にのみ込まれそうな大きな悲観としどろもどろした形に出来

ない複雑な気持ちが心をすっぽりと覆う。つくしの心の支えはゆうきの存在だけ。


 そのゆうきが奪い去られる……それはつくしにとって死に匹敵する重大なことだ。


 つくしは眉間に深いしわを寄せてオリムラを睥睨する。

不安の色を漂わせた眼差しを俺にむけると……ゆっくりと瞼を閉じた。

俺は心の中で憤懣やるかたない気持ちを叫んだ。


――馬鹿か! オリムラ!――


 夜も更けてきたのだろう、外の雨音が強まっている。


 監獄島全域を覆った鈍色の雲から降りしきる雨がやむとき、再びこの監獄島は、六人の魔女達のコンプライアンスのもとに執行人の無慈悲な狩りの幕があけるのであった。


 


いかがでしたか?

楽しんでいただけましたら嬉しいです。

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