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◆変身変態道……それは男のロマンなりの巻◆

こんばんわ楽しんでいただけましたら嬉しいです。


ドドドドドッ――


 低木の枝がほうぼうに転がり、足下の下草は踏みつけられて枯れていた。


 移動経路にむいている古山道でのっしりと足を動かしていた大きな象は歩くことをやめてその場に静止した。


 それは先頭を闊歩していた鎧武者とその一団が足をとめたことによる影響だがその場所は山岳地帯で足を休めるには不適切なうねりくねった山道の中腹だった。


 身じろぎもせず立ち尽くす鎧武者は虚玉が飾られたコイフにも似た宝珠形の兜から生気のない表情で正面を見上げていた。


 生気のない瞳がかもすそれは不穏と剣呑が入り混じった攻撃的視線だった。


 その瞳に写っていた一人の青年。


 檻の進行を考慮すれば衝突はさけられない。


 それが執行人達の狩りなのだ。


 狩りこそが執行人の仕事なのだから。


 だが、鎧武者と執行人達は青年という獲物を目視に捉えたにもかかわらず、緩やかな勾配で鎮座するように躊躇いながら二の足を踏んでいる。


 それには二つの理由が存在していた。


 一つ目は鎧武者の眼光が捉えている青年の情報が監獄島には存在していないためだ。


 そしてその肩で骨休めをしているカラス……それは監獄島を管理する六人の魔女の一人、臨界の魔女ファクターの使い魔。


 当惑しながらも鎧武者は業物の等身を包んでいる鞘と柄にゆっくりと手をかける。


 その仕草は卓越した達人の動きではない。


 とても荒く、無骨なものだ。


 しかし、本能が赴くままの我流は凄みがあり力強い。


 鎧武者の回りで威を張る執行人達とは貫禄や威圧感がまったく別の次元なのだ。


 この変化はすぐに檻の中の囚われの捕虜達にも伝播していた。


 突然、鉄格子を強力に牽引していた象の動きが止まったのだから。


 止まるはずのない荷象車が足をとめて静止したのだ。


 鉄格子の檻の中はざわめきだっていた。


 赤さびた鉄格子を握り確かめる者や傷つき顔だけをあげる者、檻の中のつくし達は何事かと僅かな期待と希望が入り混じった眼差しで前衛集団を傍観する。


「何者だ? 怜悧そうなカラスを従えたあの黒ジャージの青年は?」


 負傷している脇腹を抱えてほのかは『ズキズキ』とした鈍痛に耐えつつ怪訝な眼差しで前衛集団を見ていた。


 他の囚われの者も皆、ほのかと等しい表情なのだ……たった一人を除いて。


 その一人であるつくしは驚愕と困惑を織り込まれた複雑な表情で茫然と青年を見つめる。


「ど、どうしたのですか、つくし殿」


 諦観していた先ほどと打って変わった奇矯すぎるつくしの変化にほのかは戸惑っていた。つくしは酸欠の熱帯魚のように口をパクパクさせていた。


「……つくし殿」


 心配そうにつくしを覗き込むほのか。


「……う、うそじゃ、」


 その言葉は心の底から紡がれた驚きだった。


 つくしの瞳に写っている真実がつくしには理解ができないことなのだから。そんな夢見心地な願望が具現化するようなことが発生するはずがない。


 つくしはそう考えてしまったのだ。


 血色の悪いつぶらなくちびるから真意がわからない言葉が出てしまうほどに。


「しっかりしなさい、つくし殿」


 腰のあたりまである黒髪がバサリと揺らしてしまうほどにわななく。

そしてつくしは妙な笑い声をあげてその場でバタンと腰を抜かしてしまった。


 つくしの身を案ずるほのかの言葉も耳に入らないほどにつくしの心臓は破裂しそうなほどバクバクと高鳴った。


 その刹那……つくしの瞳から大粒の涙がはらりと落涙する……その涙は今までの悲観した涙とはまったく異なるものだ。そして口元にうかべた笑みが更に輝きをます。


「ダーリンなのじゃぁぁぁ!」


 その小さな体躯からは想像もできないほどの地響きが起きそうな大声量がつくしから発せられる。


 その声にゆうきは反応した。


「今は……魂……取り込め……ゆうき」


 耳元で囁くカラス。


「パルラ・ミルカ・パレール」


 俺、恥ずかしながら両乳首を真顔で押さえる(変身ポーズらしい……もう、俺には尊厳の欠片も許されないのですね(涙))……某魔法少女変身の如くファクターから授かった『魂・覚醒の呪言』呟く。


 羞恥を晒す恥ずかしさを超越するほどの激痛が全身を走りぬける。


 遠くなる意識の中で心に急速な憎しみが膨れ上がってくる。


……虚無の果てに膨れ上がった憎しみ……この魂・大飛丸の感情だろう……孤独と孤高が乱立している感覚だ。


 ――大飛丸、その無念はらしてやる、だから俺に力を貸せ――


 蒸発しそうな意識を心の中で奮激させて必死に奥底に沈んでいる魂に訴える。


 やがて大飛丸の魂と繋がれた。


 それは記憶だろうか、生きたまま生皮が矧がされる痛みや目玉を抉られた痛みが……激しい情動が全身を駆け巡る。


――その痛みと憎しみ、忘れるな――


 その声は静寂な俺の心の中ではじけた。


 ドクン……時間が止まったような感覚がぱっとひろがる。


 全身の気脈が開化したように漆黒の気炎にも似た瘴気が身体から溢れだす。


「ふーふー……」


 急激に唾液が蒸発してカサカサになる口腔内。


 のどに痛みが走って呼吸が上手くできない。


 肺も焼けるように苦しい。


 そしてまた意識が飛んだ。


 しかし、耐性が出来つつあるのか俺は前回ほどの意識の沈下はない。


 次の刹那……視界がまた開ける。


 俺は一体の執行人の首元を引き千切り、鎧武者と対峙して睨みあっていた。


 

「また……意識が……のみ込まれていたか……」


 耳元で囁くカラス……俺の回りには屈強の執行人の無残な肉片が転がっている。


 何をどうすればこんなB級ホラ―映画の現場が作れるだーっ!?


 ――放て――


 俺の意識の中で誰かが叫ぶ。


 とても抑揚のない声だ。


 その声が脳裏に響くと俺の身体の自由が再び奪われる。


 まるで浄瑠璃人形のように俺の意志に反して身体が動く。


 もう一つの意思に反応するように歪んだ空間から五つの巨大な勾玉が現れる。


 その勾玉は邪悪なものを払うと言われるラピスラズリを構成するソーダライトの輝きが備わっていた。


 勾玉は獲物を定めたように大気を引き裂く音を奏でると渦巻くようにして無表情な鎧武者を取り込み。ミキサーのようにその鎧武者の肉体を切り刻んでいく。


 その威力は凄まじい。


 俺の肩に止まって傍観を装い決め込んでいたカラスも感嘆して「クククッ」と声を漏らすほどだ。


「ダーリン……なのか……?」


 か細いながらも驚きを含んだつくしの声が大きな象の真後ろにある鉄格子の中から聞こえる。


 つくしの声のおかげだろうかそれとも大飛丸の心遣いか。


 俺の身体が束縛から開放されたように自由を取り戻した。

古山道を塞ぐように膝を曲げて動かなくなった象……その巨体の後ろの檻へ俺は駆けだしていく。


 象を乗り越えると大きいながらも赤い錆色が目立つ鉄格子が視界に飛び込んできた。


 俺はその檻の中につくしの姿を確認した。

そして檻の中でも六体の囚われのお姫様たちが驚きの表情を浮かべている。


「よっ、むか……」


 安堵の言葉を吐こうとした刹那、俺の胸に激痛が走るような気がしたぞーっ。


 キリ差し込められる痛みかな? 切っ先鋭い業物が俺の広背筋から突き上げられるように的確に心臓を貫く。


 刃の切っ先は心臓と大胸筋を貫通して右乳房の横から飛び出しているぞーっ。


 ひいぃーっ!


 口から吐血した俺は手でそれを拭った。


 切っ先は返されるように抜かれると熱をおびた鮮やかな朱色の鮮血がブシュー! と勢いよく舞い上がる。


 おびただしい鮮血が噴き出た右胸を確認するように手で押さえると……松田優作風に『な、なんじこりぁぁぁぁーっ!』と言いたくなったが――ここはその衝動を抑えた(あれっ、い、痛くない……)。


 痛覚から何の刺激も伝わってこない……まさしく、今の俺の姿は客観的には死期が迫る余命幾ばくもない状態に見えるだろう(あっ、つくしが滂沱の涙を流しながらこちらをみているぞぉーっ!)俺は右胸を押さえながら後方に向きなおす。


 そこには当世具足がはげ落ちて、フランケンシュタインのように、身体中、縫い合わされた女性の姿があった。


 生前はさぞかし綺麗だっただろう女性が血で滴った切っ先を構えて攻勢に転じている。


「残酷……バルケッタ……やり口……」


 むすっと嫌悪するようにカラスが呟く。

檻の中では驚き泣きわめくつくしが「ダーリン!」と悲愴な叫び声を連呼している。


 ――痛みが感じないどころか、もう傷も塞がっている(どれだけ新陳代謝がはやいねん!)――


 「それが……ファクター様……加護……代物に与えられた加護」


 俺の心を察したのだろう。


 多少、浮世離れした身体に困惑する俺にカラスが目を眇めて呆れたように呟いた。


「はやく……そいつ……排除……」


 俺は大きく頷くと鎧武者と再び対峙する。


 俺はこぶしをにぎりしめて加速姿勢にはいり土を蹴り上る。


 砂埃をあげて、風をきるように加速して一気に鎧武者との間合いを詰める。


 その速度は光陰矢のごとし、某モビルスーツの三倍はあるのでは? と思える程だ!


 鎧武者の僅かに眇められた眼がものがたっていた。


 予想を越えて一気に間合いが詰る。


 腕をふりあげるレスポンスが遅れて振りかざされた業物の初撃のスピードが鈍る。


 振り抜かれる業物の軌道を回避するが僅かに俺の頬をかすった……鋭いながらも反応に遅れた袈裟切りの一撃を掻い潜り女鎧武者の懐深くに踏み込む。


 勢いに任せてはなった右腕が女鎧武者の膨らみの残る胸に突きささる。


 『ぐしゃり』と気持ち悪い感触と返り血が浴びた。

だが、ひるまない。肉を掻き分けてえぐるように脈打つことを忘れた心臓を掴む。


 そしてピカリッと煌くプラズマが古山道でうねりをあげて女鎧武者をのみ込む。


 プラズマを構成する高エネルギー加電粒子が鎧武者を本当の安住の死にいざなう。


――青年よ……ありがとう――


 一瞬だった。


 永久とも感じられる苦痛から解放された魂の声。


 クリスタルのように澄んだ女性の安らかな声が俺の脳裏に響いた。

とても、申し訳なさそうに……そして感謝の気持ちが色濃く感じられる響きが。


 崩れ落ちる鎧武者は人形のように少し微笑んでいた……生きる事と殺す事……監獄島では二律背反している事をやっと心が理解したようだった。


 そして俺は、炭化して崩れ落ちる女性の骸をただ茫然と眺める事しか出来なかった。

 


いかがでしたか?

楽しんでいただけましたら嬉しいです(☆∀☆)

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