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少女の過去と旅人

少女は悪魔の後を黙って歩いていた。


地獄の景色は、どこまでも乾いていた。


叫び声だけが遠くから響いてくる。


それでも少女の心は、不思議とそこには向いていなかった。


「……私は、なんでこんなところにいるんだろう」


小さく漏れた言葉に、悪魔は振り返らなかった。


「さあな。だが地獄に来る奴には、それぞれ理由がある」


少女はその言葉を聞きながら、ゆっくりと視線を落とした。


その瞬間、記憶が戻る。



村,小さな村。


そこで少女は生まれた。



最初から、何かが違っていた。


理由は分からない。


ただ、周りの視線だけが冷たかった。



「鬼の子だ」


最初は誰かの冗談だと思った。


でも、それは冗談ではなかった。



子供たちが石を投げる。


笑いながら。


逃げても、追ってくる。



「やめて……」


声は届かない。


むしろ声を出すほど、ひどくなる。


大人たちは見て見ぬふりをした。


いや、時には加わった。


「こんな子がいるから村が悪くなる」


「親も同じだろう」



少女はいつの間にか、“そこにいないもの”として扱われていた。



ある日、一人の子供が来なくなった。


最初は気にしなかった。


でも次第に、ざわめきが広がる。


そして――母親の叫び。

「あなたのせいで、うちの子が死んだ!」


少女は何もしていない。


それでも、世界は少女に“原因”を押し付けた。


そこからだった。


いじめは“恐怖”に変わった。


「近づくな」


「見るな」


「気持ち悪い」


そしていつしか少女は、“鬼の子”と呼ばれるようになった。



ある日。


村に一人の旅人が来た。


その人は、村の誰とも違った。


少女を見ても、逃げなかった。


石も投げなかった。


ただ、静かに見ていた。


「……こんな小さい子が」

旅人はそう呟いた。



少女は初めて、“見られている”と感じた。

「お前、名前は?」


少女は少し戸惑いながら答えた。

「……わからない」


旅人は少し黙ったあと、しゃがんだ。

「じゃあ、ここに少しだけいるか?」


少女は何も答えられなかった。


でも、その日は逃げなかった。


数日が過ぎた。


少女は少しずつ、言葉を話すようになった。


そして初めて思った。

(この人の前では、鬼じゃなくてもいいかもしれない)



しかし、1週間も経たないうちに旅人は倒れた。



突然だった。


熱が出て、動けなくなった。



村の人間は助けなかった。


むしろこう言った。



「やっぱりあの子と関わったからだ」



少女は叫んだ。


「違う!そんなの関係ない!」



でも誰も聞かなかった。




少女は薬を求めて村を回った。


しかし返ってきたのは石と罵声だった。


「鬼の子が来るな!」


「その男も連れて出ていけ!」


少女は初めて、怒りを覚えた。



それでも――少女は何もしなかった。



ただ、旅人の元へ戻った。


「ごめんなさい……」



旅人は弱く笑った。

「お前のせいじゃない」



その言葉だけが、少女の中に残った。



そして旅人は死んだ。



その後。


村は少女をさらに恐れた。



少女が近づくだけで、扉が閉まる。


視線が逸れる。


存在が消える。



そして最後。



少女はその村で、“いらないもの”として処刑された。



記憶が終わる。


少女は地獄の地面に立っていた。



悪魔は何も言わない。


ただ歩いている。



少女は小さく呟く。


「私は……鬼の子じゃない」


その声は、誰にも届かないはずだった。


だがどこかで、旅人の声がした気がした。

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