閑話ー鋼鉄と揺れる脂肪
模擬戦の翌日。
王宮の奥にある静かな研究室に、俺は再び呼び出されていた。
「座れ、カズヤ」
なぜか上半身裸で古い文献を広げていたゼノスは、俺を見ると静かに言った。
「率直に聞く。
貴様は、我々の戦い方をどう思っている?」
俺は椅子に腰を下ろしながら、正直に答えた。
「……正直、狂ってると思います。
重い鎧を着て接近し、パージして筋肉を晒して、ポーズを極限まで決める……
あえて至近距離で全力を解放するなんて、普通じゃない」
ゼノスは小さく笑った。
「その通りだ。我々は極端だ。
だが、この極端さが三百年の研究と実戦の果てに辿り着いた、最も効率的な形なのだ」
彼は机の上の古い魔導書を指で軽く叩いた。
「約三百年前、魔法はまだ遅く弱いものだった。
長い詠唱をし、杖を構え、ようやく小さな火球を飛ばす……
非効率的で、しかも威力もたかが知れていた。
しかし時代は進んだ。
魔力を肉体に直接流して放射する方が、はるかに高出力・高効率であることが発見された。
さらに研究を重ねるうちに、静止した完全なポーズで魔力を一点に集中・爆発させることで、
かつてない破壊力を生み出せるようになった。
だから我々はこう戦う。
重厚な鎧で接近し、至近距離で鎧を捨て、一瞬の全開放で最大火力を叩き込む。
それが現在の魔法戦の完成形だ」
(……要するに、火縄銃から炸裂弾への進化みたいなものか。
前世の知識で言うなら、江戸時代末期、ペリーの黒船が浦賀に来航した時、
幕府はアメリカ艦隊が装備していた「炸裂弾」の存在を知っていたという。
ただの鉄球ではなく、着弾後に爆発する凶悪な兵器。
江戸の街中にあれを撃ち込まれたら一巻の終わりだと、幕府上層部は戦慄したらしい。
この世界の魔法も、同じ道を歩んだんだな……
ただし、その炸裂弾が「自分の肉体」であるところが、決定的に恐ろしい)
俺は自分の腹をそっと撫でながら、ぼそりと言った。
「……僕の魔法は、その進化の方向とは真逆ですね。
脱がずに、動きながら、一点に集中させる。
しかも威力は……かなり高い。
人間相手に使ったら、間違いなく死にますよね」
ゼノスは静かに目を細めた。
「そうだ。貴様の魔法は、ただの殺傷力に特化しているわけではない。
……もっと恐ろしい」
彼は自分の胸に手を当て、実際に俺の光線を受けた場所を軽く撫でた。
「余は昨日、貴様の光線を真正面から受け止めた。
金剛不動を最大限に展開していなければ、胸を貫かれ、心臓を焼き切られていただろう。
……ただの威力ではない。
指向性と収束の異常な精度、そして何より、魔力の『純度』が高い。
余の固定魔力障壁を、一点から抉り込むように侵食してきた。
これは我々の全方位爆発にはない、極めて『殺意』に特化した性質だ」
ゼノスは低く、しかし重い声で続けた。
「我々の魔法は派手だ。
しかし貴様の魔法は、静かで、鋭く、逃げ場がない。
……まさに暗殺者の刃のような魔力だ。
貴様が本気で誰かを殺そうと思えば、恐らくこの国で最も殺しにくい相手である余ですら、容易く屠れるだろう」
その言葉に、俺の背筋が凍った。
ゼノスは静かに微笑んだ。
「だからこそ、貴様は恐れている。
そして余は、そこに興味を持った。
……カズヤ。貴様と共に、静止と流動の両方を研究したい。
一方を否定するのではなく、両方を極める道を探りたい。
どうだ?」
俺は少し考えてから、ゆっくりと頷いた。
「……わかりました。
ただ、一つだけ約束してください。
僕の魔法を、人を殺すためのだけの道具にはしたくない」
ゼノスは静かに、しかし力強く答えた。
「約束しよう。鋼鉄の賢者の名にかけて」




