第4話 不協和音
1939年、秋。
森の紅葉が終わり、冬の気配が近づくにつれて、村の空気は急速に張り詰めていった。
ソ連からの要求は日に日にエスカレートしていた。「レニングラードの安全を守るため」という名目で、カレリア地峡の領土割譲を迫ってきたのだ。それは、シモたちの住む故郷を明け渡せと言っているに等しかった。
村の集会所では、大人たちが深刻な顔で議論を交わしていた。
「要求を飲むべきだ。相手は大国だぞ、戦争になればひとたまりもない」
「ふざけるな! 先祖代々の土地を、共産主義者どもに渡せるか!」
シモは部屋の隅で、黙って話を聞いていた。
政治の難しいことは分からない。だが、一つだけ分かることがある。
自分の家の畑、父や母と耕したあの土地、そして獣たちが住む美しい森。それを「出て行け」と言われて、はいそうですかと出て行くわけにはいかないということだ。
「シモ、お前はどう思う?」
幼馴染の友人に聞かれ、シモはポツリと言った。
「……自分の庭に泥棒が入ってきたら、追い払う。それだけだ」
その声は小さかったが、不思議な説得力を持っていた。
11月26日、国境付近のマイニラ村で砲撃事件が発生したというニュースが流れた(マイニラの砲撃)。ソ連側はこれを「フィンランド軍からの攻撃」と主張したが、それは明らかな自作自演だった。
しかし、大国にとって真実などどうでもよかった。必要なのは、侵略のための「口実」だけだったのだ。
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