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白き死神の挽歌(エレジー) ——極寒のコッラ、五〇五の墓標  作者: beens
第4章 砕かれた顎、不滅の魂

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第20話 静寂の帰還

 3月13日。

 ユヴァスキュラの陸軍病院。

 

 消毒液の匂い。白い天井。

 シモはゆっくりと目を開けた。

 激痛が全身を走る。顔の左側が熱く、重い。喋ることはできない。

 

 ベッドの脇に、医師と看護師が立っていた。

「気がついたか、ヘイヘ伍長」

 医師が驚きの表情で見下ろしている。

「君が生きているのは奇跡だ。……いや、君の精神力がそうさせたんだろう」

 シモは視線だけで問いかけた。

 戦況は? 仲間は?

 

 医師は静かに頷き、窓の外を指差した。

「終わったよ。今日、モスクワで講和条約が結ばれた」

 

 終わった。

 その言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。

 

「我々は負けなかった。独立は守られたんだ」

 

 シモの目から、一筋の涙が伝い落ちた。

 カレリアの土地の多くは奪われた。故郷のラウトヤルヴィも、ソ連領となってしまった。もう、あの家には帰れない。

 だが、フィンランドという国は残った。

 家族も、仲間も、彼が盾となって守り抜いたのだ。

 

 窓の外では、春の日差しが雪を溶かし始めていた。

 100日間に及ぶ冬戦争。

 500人以上の敵を葬り、「白い死神」と恐れられた男の戦争は、この静かなベッドの上で、ひっそりと幕を閉じた。

 

 彼はもう、二度と誰かに銃を向けることはないだろう。

 英雄としての伝説を残し、シモ・ヘイヘは一人の人間に戻っていく。

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