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仁以千絵へ                         二〇〇五年九月二〇日

僕も時々女の子って大変だなって思う。男よりもいい子でいろって要求されているから。でも大方の女の子は女の子としての自分の役回りを拒絶するよりも、自分の役回りを拒絶する女の子に非難を浴びせるんだ。「自分も女の癖に」って感じで。やっぱり社会ってどちらかというと男性優位な気がするけれど、それってお互いがお互いの役回りに従順に埋没するように牽制し合う女性自身のせいでもあるよね。それを変えていこうとする同じ女性には冷たい。女の人は男の足引っ張らないけれど、同じ女性の足は引っ張ってあわよくば引きずりおろそうとするんだから。男の人よりもきれいな言葉遣い、態度の良さ、気遣いなんかを強いられている女性たちは、自分の意志を通したり、人を引っ張ったり、上に立ったりする力を握ることがただでさえやりにくいはずなのに。それとも力のない可愛がられる存在になるのが女性のステイタスなのかな。これは女性が本来持つ性質のせいなのか、社会のせいなのかは、永遠の謎だね。

 今日は授業が一コマしかなかった。教室に行くとぴたりと閉じられた引き戸に「本日講師急病の為休講」と貼り紙がしてあり、コミュニケーション英語の授業が急遽中止になってしまったことが伝えられた。可愛い彼女に電話をしても今日は授業と弁当屋のバイトで僕と会う時間が取れないと言われた。差し当たって課題も何もないし、僕はアルバイトもしていないから時間がぽっかりと空いてしまったんだ。サークルは写真部に入っているんだけれど、その日は活動がなかった。別に、写真部の部室に勝手に入ってカメラを持ち出して、その辺でシャッターを切って遊んでいても構わなかったのだけれども、それは気乗りしなかった。キャンパスの中央広場に横付けに並ぶ、擦り切れた庇の付いたコンビニや文具店、日用品店などの売店に沿いながら、足を放り出すようにしてぶらぶら歩いて、どうやって時間を過ごそうかと思案したんだが、何かしなくちゃ時間がもったいないと思う一方で、こんなにも何もすることのない時間が珍しくて、妙に貴重に感じて、だから「何もすることのない時間」を「何もすることのない時間」のままにしたくなったんだ。季節が夏から秋に変わり始めて肌に触れる空気の質感が変わって来ている時だった。通学のために使っている自転車の置き場へ行って、お気に入りの自転車のスタンドを思い切り蹴り上げた。脈絡なく並ぶ綿毛のようなコバルトブルーの空に浮いた雲の下をつやつや光る赤色のクロスバイクで駆け抜けた。学校から自分のアパートの方角へ向かい、アパートを囲む白いブロック塀の前を通り過ぎ、そのまま真っ直ぐ進んで、車が行き交う十字路も真っ直ぐ突き進み隣町まで来て、視界の上の方で弧を描いている紅色に商店街の名前が白抜きで描かれているアーケードをくぐり、そのまま商店街の通りを人の間を縫うようにして突き抜けた。そして、水の流れのゆっくりした、その懐の深さに安心するような広い河の前まで来たんだ。僕は土手の上に自転車を放り出し、青い匂いのする草の上に仰向けに寝転がった。モノクロのミッキーのイラストの入ったインディゴ色の薄いトレーナーを通して背中と首筋がチクチクするのを感じたけれど広大で落ちてくるんじゃないかと心配になるくらいの包まれそうな空を見上げるのは気持ちが良かった。水の流れるささやかな音を聞きながら携帯の画面を見ることすらしないで、腕時計を外して自転車のかごに放り込み、時間も忘れて空想や思い出に浸ったり、自分自身を見つめ直したりしたけれど、意味のないことだとすぐに悟り、頭を空っぽにしてただヒコーキ雲の尾を見つめていた。走り去っていくように慌ただしい生活にちょっと区切りを入れて休憩出来た気がした。でもずーっと走ったままで、一息入れて楽をする事を知らない方が人生は豊かになるのかな?わからない。君は河原に行かないでね。僕もめったに行かないし。物思いに耽る時は、散歩しながら考えすぎない程度にしてね。

                                      圭太



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