仁以千絵君へ 一九九三年三月二〇日
ぼくの事を話すね。僕は仁以千絵君のことがとっても好きで、なんていうか仁以千絵君はすごくきょうみぶかい人だなあって思うけれど、親友は洋平なんだ。もちろん仁以千絵君のことはすごく大切に思ってるよ。だってぼくにだけ心をひらいてくれてるみたいだから。でも、洋平は家族いがいでぼくが自分の一部をあずけられるゆいいつの人なんだ。洋平といると一人でいるよりしぜんなんだ。洋平にたいするそういう気持ちにくらべて、仁以千絵君にたいしては興味と、それとちょっぴり心配があるんだ。だから、洋平と仁以千絵君はぼくにとってまったくべつのものだから、しっとなんてぜんぜんしなくても大丈夫だよ。それからぼくのことが知りたいと言ったよね。ぼくは仁以千絵君とちがって人や友だちとおしゃべりしたり、かかわったり、ときには口を出し合ったりすることが大好きなんだ。おこったり、わらったり、けんかしたりしながら、「自分」を出しきっていくと、自分が世の中の一部になっていることがかんじられて、あたらしい自分や新しい世の中の見方がはっけんできるんだ。それって「世界にさんかする」っていうことのやり方のひとつなんじゃないかな。あ、でも仁以千絵君がわるいっていってるんじゃないんだよ。仁以千絵君には仁以千絵君の考え方があるから。ぼくが一番きらいな事、というよりおそれていることは、だれからも相手にされなくなって、みんなに無視されて、空気みたいになることなんだ。いや、みんなに無視されたら空気よりわるいかもしれない。だって空気はぼくたちの役に立ってるからね。人のはいの中を出たり入ったりしてるから。だれにもそんざいをみとめられず、だれのあたまのなかにもひっかからなくなったら、ぼくは死んじゃうんじゃないかと思うんだ。ぼくがいちばん好きなことは、何だろう?洋平とふざけるのも好きだし、こうやって仁以千絵君の手紙に返事をかくことも好きだし、お父さんとお母さんとディズニーランドみたいな楽しいところへ出かけることも大好きだ。ちなみにぼくはひとりっこなんだ。だから仁以千絵君みたいに兄弟になやまされることはないよ。でも、兄弟がいてよかったことはないの?ぼくは自分にも男の兄弟がいればいいなと思うけれど。だって、なんだか楽しそう。弟がいれば、本をよんでやるし、お兄さんがいれば勉強を教えてもらいたい。この間、お母さんとお父さんに「弟がほしい。コウノトリからもらってきてよ。」って言ったら、二人ともにくすくす笑われたんだ。赤ちゃんってほんとうはどこからやってくるんだろう?
圭太より




