第三部:王国再興編 第25話:新たなる光、新たなる脅威――外の神の使徒、来訪
王国中央神殿・聖泉の間。
静寂の中に、祈りの声が響いていた。
「……女神よ、いま再び、貴女の光が地に戻らんことを」
その祈りを捧げるのは――エレーナ・ルクレール。
かつて存在を封じられ、長きにわたって“眠らされていた”本物の聖女。
今は、正統なる“聖女位”の継承者として、王国に再び迎えられていた。
だが、彼女の隣には、もうひとりの“光”がいた。
「……式典用のドレスは、もう少し動きやすいものにしてほしいわね」
クラリス・エルヴェール。
かつて断罪された“悪役令嬢”にして、
真実を暴いた“反逆の証人”。
今や彼女は――“聖女顧問官”として、王国政務において最も信頼される存在の一人だった。
「でも、あなたには似合ってますよ」
「……えぇ、あなたがそう言うなら」
クラリスは、エレーナにだけ見せる穏やかな笑みを浮かべた。
ふたりの間には、もう「奪い奪われる関係」はなかった。
ただ信頼と、静かな絆が存在していた。
だがその平穏は、永遠には続かない。
王国南部国境・アルステン砦。
そこに、一通の“黒い手紙”が届いた。
《神は一つにあらず。
あなたがたの聖女が、真実である証拠を我らに示せ。
さもなくば、偽りの信仰ごと、滅す》
《――外典教会“赤の使徒”代表、ルーヴェ・カルデリア》
報せを受けたクラリスの表情は、一瞬で冷えたものに変わる。
「……来たわね。“外の神”の使徒」
エレーナが不安そうに目を伏せる。
「彼らは……他国で、正規の聖女を“贋作”と決めつけて、襲撃したという噂が……」
「ええ。しかもこの“ルーヴェ”という男、過去に聖女候補選別試験に合格しながら、“神託の矛盾”を理由に追放された存在……」
カインが静かに付け加える。
「つまり、復讐と正義を履き違えた“異端の証明者”だ」
クラリスは、一歩前に出た。
「なら、私たちは“光を奪われた者たち”ではなく――“それを取り戻した者たち”として示すだけよ」
「この国に、真実の聖女がいることを」
王国議会は混乱した。
一度、聖女が偽りだったことを経験したばかりの民衆は、
またしても“神の名”を掲げる存在に揺さぶられ、迷いを抱き始めていた。
だがその中で、エレーナは震える手でマイクを握り――王都広場にて、こう語った。
「私は、奪われて、封じられ、それでも生きました。
この命を通して、誰かの光になれるなら、もう私は恐れません」
「私の隣には、真実を見抜いてくれた人がいます。
そして今も、私を支えてくれる人がいます――」
その視線は、クラリスへと向けられた。
「私はもう、一人ではありません」
その言葉に、広場を埋めた民衆の中から――小さな拍手が、やがて大きな歓声へと変わっていった。
王国は、ふたりの少女の「共にある光」に、もう一度希望を見たのだ。
だがその夜。
アルステン砦の空が――真紅に染まる。
「魔法爆撃……!? 規模が異常だ、これは……!」
外典教会の第一波襲撃。
それは宣戦布告であり、そして――
“神と神を戦わせる”
未曾有の宗教戦争の幕開けだった。




