表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

【03】賞金稼ぎ

 アリトは目を覚ましたが、すぐ近くのクローリカを警戒して動かずに周囲の様子をうかがっている……ように見える。

 あんな場所で倒れていたにしては、まっとうな警戒心があるらしい。そんな風にクローリカは多少の感心をしたものの、このままお互い様子を探るだけでは何も始まらないのである。


 よって、クローリカはさっさと自分から声を掛けることにした。


「まあ、おはようございます。調子はいかがです? これ、インスタントスープで恐縮ですが飲みますか? ……あっ、自分用に作ったけどまだ一切口を付けていないものなのでどうぞご心配なく」

「…………い、いや。できれば、水をもらえると……」


 たたみかけるクローリカに観念したのか、アリトはゆっくりと上半身を起こした。怪訝そうな顔を見せながらスープの提供を断り、ソファ横のウォーターサーバーにちらりと視線を向ける。

 先程の意識不明者緊急保護法の手続きの際に見たアリトの個人情報には、アレルギーについての記載がなかった。つまり単純に、何らかの薬品混入を疑っているのだろう。


「(まぁ……確かに、いきなりスープを差し出すのは怪しいか。わたしも動揺してんのね)」


 クローリカは流石に反省するも、これ以上警戒されるのは面倒だとも思う。

 この警戒心をどうしたものかと、少しだけ考えたクローリカは、来客用のカップではなくペーパーカップに水を注ぐことにした。用いたペーパーカップはメジャーなメーカーのもので、アリトの目の前で大袋から取り出してやった。これなら、多少は信用度されるだろう。

 寝起きでも持ちやすいようカップホルダーに差し、折りたたみ式のローテーブルに置いてから勧めれば、アリトは簡素な感謝の言葉で受け取った。


 アリトが寝起きの喉を潤したことを確認し、ついでにクローリカも適温より若干冷めたスープをすする。

 お互い一息ついたところで、まだ状況説明すらしていない。クローリカは、さっさと話を進めることにした。

 

「……では、こちらから。ここは五番街四層ヤーソン地区のジャンクショップ・リカステ。わたしはクロー……店番のウサキ・アリカです。あなたが、このアパートメントの階段室一階に倒れていたところを発見しました」

「ああ、その……すまない、手間をかけた。俺は、五番街五層中央トゥーターギルドの賞金稼ぎ(バウンティハンター)のアリト」

「五層? 五層のハンターさんが四層のこんな市街地で倒れていたなんて、いったい何があったんですか」

「………………」

「わぁー、だんまりは悲しいなー。ところで、あなたの保険ってハンターライセンスの有料オプションだったりします? それってこの辺りの病院に対応していないんですよね。医療費を気にせず適当な病院(とこ)に放り込まなかったことを感謝してほしいなー」

「それは……ドウモアリガトウゴザイマス」

「心がこもってなーい!」


 黙られてしまうと埒が明かないので、クローリカは丁寧な態度を投げ捨て大げさに嘆く。

 そんなクローリカに毒気を抜かれた――それか、呆れただけ――アリトは、わざとらしく肩を落としてから口を開いた。


「正直、何があったかは俺もよくわかってない。今は休暇中でなんの依頼も受けていないし、この周辺で深夜にだけ店を開ける良質な酒屋があると聞いたから、偶然ここらへ足を運んだだけなんだ。なのに、恫喝や警告もなしに唐突に背後から攻撃された。咄嗟の反撃で隙を作れたからそのまま逃げて……けど次第に意識が混濁しはじめたので、ちょうど発生した霧に紛れながら手近な建物に身を隠した。だから、本当に俺も何が何やらで……推測でしかないが、周辺の小規模ギャングの抗争に巻き込まれた気がするんだよな」

「えー、昨夜は派手なドンパチがなかったけど……わたしはこのあたりの住民だけどしっかり熟睡できたし。恨みの線は?」

「残念ながら、賞金稼ぎ(ハンター)なぞしていると、恨みの原因なんてものは星の数ほどあるぞ」

「あらまぁー……」


 頭が痛いと言わんばかりに肩を竦めるアリトの表情は、表面上の言葉や態度ほど堪えていないように見える。

 

 なお、そんな風に恨まれやすいハンターの仕事は多岐にわたる。便宜上は“賞金稼ぎ”だなんて呼ばれているが、実態はただの便利屋なのだ。

 

 連合セキュリティが人手不足な時の助っ人、民間人の護衛や用心棒、各地の森林区で野生化している一般動物や魔物――クローリカに遭遇経験はないが、存在するらしい――の駆除など。道案内、人探しや失せ物探しなんてものもあり……実は、私立探偵もハンターのライセンスで行えるという。けっこう適当なものだなと、クローリカはたびたび思う。


 そういった状況を踏まえると、恨まれるのが日常茶飯事ということは、犯罪者絡みが多い連合セキュリティからの依頼をよくこなしているのかもしれない。

 アリトの外見から推測するに、年齢は十代後半あたりに見える。この若さでそれとはもしかしたら、相当な実力者の可能性が出てきた。クローリカは内心でおののく。

 

 なお、日本人は比較的若く見られやすい民族だったと記憶しているが、ラビットホールの感覚でもそれは適用されるのか不明である。

 記憶に欠けがあるクローリカは、そのあたりにまったく自信がないのだ。クローリカ当人がまだ若いので、周囲と齟齬が発生したこともない。


「……災難だったねえ。ちなみに、その酒屋だったら隣の店のことだと思う。でもわかってるとは思うけど、脳卒中だったかもしれないなら飲酒はしばらく避けてよね」

「まぁ…………そうだな。忠告どうも」


 先程見たばかりの対処法を思い出しつつ、ついでに出来るだけ早く病院へ行くようにと付け加える。

 身体つきから察するに、アリトもいい大人だからわかっているだろうが、こればかりはどうも心配である。一時的な安心感は毒になりうるのだ。


「――それはともかく、ひとつ聞きたいんだ。……俺の武器を知らないか? ()()にあったはずなんだが」


 アリトが自らの肩をぽんぽんと叩き、少し鋭くした視線でクローリカを刺す。

 

 楽にさせようと脱がした際に気がついたが、アリトのジャケットの下には、ショルダーホルスターが隠れていたのだ。そこには、使い込まれた銃が収められていた。

 彼がハンターであると知った今では納得だが、銃を見たら怖くなって隠してしまった。とはいえ、最初こそ衝動的だったものの、冷静になって考えたところで、クローリカは隠すことを選ぶだろう。


 「それなら大切に保管してあるし、ちゃんと後で返すよ。いくら人助けだからってこっちは丸腰なんだから、どうぞご了承くださいな!」


 クローリカは虚勢を張って、つとめて明るい笑顔を浮かべる。

 この選択肢でこの先を切り抜けるには、相手が理性的であるという前提が必要になってくるのだ。


 怯えを見せて侮られてしまえば、今までの苦労が水の泡になってしまう危険性がある。

 次はペーパーカップのメーカーではなく、クローリカ本人を信用してもらわなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ