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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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婚約者

「ミランダ、この書類を頼めるかい?」

「はい、お預かりいたします」

「ああ、手を切らないように気を付けて」

「……はい」

 ――最近ランバース様が優しい。

 以前は生徒会と公務の話しかしなかったのに、最近はこのように一言添えるようになった。

 ハワード様がアンダーソン様を倒してくれた日からだ。


 私はここダンバ国の筆頭公爵家、ソネットの長女として産まれた。

 私には下に弟と妹がそれぞれに二人もいる。それなのに長女というだけで、八歳の年の頃に第一王子の婚約者となり、ほとんどの時間を城で過ごしていた。

 王子様に会う事はほとんどない。王妃教育に一日を費やすのだ。

 たまに王妃様に息抜きも必要だと言われ、お茶を共にする。けれど完璧な王妃様とお茶なんて、鈍い私には失敗をしないよう、緊張しながら微笑みを返すだけで精一杯だ。寛げるはずなんてない。

 朗らかな優しい王妃様は社交界でも人気の的で、私にもとてもよくして下さる。けれど、私とは根本的にあわない。性格が違い過ぎるのだ。

 元来、私は大人しい性格で、社交は大の苦手。家で本を読んでいるのが一番の幸せ。王妃などという職務に一番遠い人間のはずだった。

 ……それなのに選ばれてしまった。いいえ、選ばれたのではない。決まっていたのだ。家格とお父様の力で。

 もしも王子……ランバース様に選ばれていたのなら、頑張る事も苦ではなかったかもしれない……。

 婚約者であるはずのランバース様は、私に全く興味がない。たまに話す内容といったら公務の事だけ。

 それも仕方がない。だって、彼には幼い頃より思い人がいたから。

 すぐに気が付いた。彼女を一途に見るランバース様の眼差しに。

 ファニリアス・ロレン侯爵令嬢。

 ハニーブラウンの柔らかい髪に菫色の瞳。お人形さんかと見間違うほど可愛い方。

 凛とした佇まいに優雅な振る舞い、淑女の鏡のような一つ年下の侯爵令嬢。そんな彼女も婚約者の前では、恋するただの女の子となる。

 コロコロとよく笑い、拗ねたり、恥ずかしがったりと表情豊かなその仕草に、男性だけではなく女性までをも引き付ける。

 その筆頭がランバース様。彼は、彼女が婚約者の腕の中で表情を変えるのを、愛おしそうに羨ましそうに見ている。

 そんな朗らかな彼女だが、意外と私と気が合った。

 私みたいに大人しい女だと退屈だろうと思ったのだが、話してみると本が好きで淡い色合いが好きでお昼寝が好きだと言う。私も同じだと言うと、気が合いますね。と花が綻ぶように笑う。

 休日はたまに婚約者と本を読んで過ごすのだそうだ。

 ……意外だった。

 彼女の婚約者はこの国の三柱の一つ、ハワード公爵家の嫡男だ。

 ハワード家と言えば裏の軍事力といわれるほど、武力に秀でた家柄。そんな家の嫡男なら日々の鍛練に忙しく、婚約者ともまともに過ごせないだろうと思っていた。

 けれど、違った。

 彼は毎日のように、一目だけでも彼女に会いに来るという。どうしても忙しくて会えない時でも毎日花を送ってくれる。それは七歳の頃より一日も欠かした事がないそうだ。

 一度だけ長期にわたり、彼が王都を留守した事があったそうだが、その時も家人が毎日どのような花を渡すかの指示を受けていると、届けに来たそうだ。

 家を空ける短期間でさえも、この処置をとっていたそうだから、徹底している。

 彼女も最初の頃は押し花にしたり、乾燥させて袋に入れたりと、どうにか形に残そうとしていたそうだが、次から次へと送られる花の数に、贈る行為自体を断った事があったそうだ。

 すると彼は「気にしなくていいよ。枯れてしまうものは仕方がない。捨ててくれ。あれは毎日俺がファニーを好きだという気持ちを形にしているだけだから、後に残すような物でもないんだよ。だって、好きは毎日増えていくんだから」とそう言って、自ら古い花を処分したらしい。

「アシュは細やかな気遣いも出来るクセに豪胆なところもあって、見ていて飽きないんですよ」と彼女はクスクスと笑う。

 確かにアシュレイ・ハワード。彼の容姿は、どちらかというと花の似合う貴公子然といった感じだ。

 紺色の髪と瞳は艶やかで、目元は凛々しく薄い口元は意志の強さを表している。

 優しい笑みを崩さないランバース様とは対照的で、普段は少し近寄りがたく感じるが、彼女の隣にいる時は幼さの残る優しい笑みで、ランバース様とはまた違った魅力を醸し出していた。

 武力に秀でた家柄で多く見られる、筋肉に包まれた大柄な体系かと思いきや、見た目は意に反してスラッとしており、ファニリアス様曰く細マッチョというものらしい。

 そんな風格を持ち合わせた凛々しいハワード様は、令嬢方にとってランバース様、ギルバード様と続く人気の的だ。

 かくいう私も彼に見惚れてしまった事が、一度や二度ではない。

 そんな線の細い彼だから、毎日鍛錬しているといわれるよりは、彼女の元に毎日通っているといわれる方が納得できる。

 けれどまさか、休日二人で本を読みふけっているとは思わなかった。意外と甘いものも好きだという。何て可愛らしいのでしょう。

 いつもファニリアス様の隣にいらして、何ものからも守ってらっしゃるのが良く分かる。

 ああ、彼はファニリアス様が大好きなのでしょうね。

 それが良く分かるから、ランバース様の思いは報われない。

 ランバース様は私で我慢するしかない。そう本人からも周囲からも思われているのも、理解が出来た。

 私は第一王子の婚約者として必要最低限の会話をし、侮られないよう態度を引き締め、淑女として王子を支える一人として、毅然と過ごさないといけない。

 愛情など求めては絶対にいけない。

 それは分かっている。良く分かっているけれど、私にはその能力が足りない。

 どうしても緊張してしまう。どうしても毅然とした態度がとられない。どうしても弱い自分が顔を出す。

 何度も何度も令嬢達に嫌味を言われた。言い返せない。意地悪もされた。怒れない。婚約者をやめろと言われた。代わってくれと言いたい。

 愛情もないランバース様と、愛情もない城で、愛情もない貴族の中心になるなんて、どうして私がそんな事をしなければいけないのか。

 分かっている。ソネット公爵家に長女として産まれたから。ただそれだけ……。

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