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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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グリフォン

「いい加減にしてくれ!」

 俺が生徒会室の扉を開けたと同時に、王子のイラだった声が聞こえた。王子にしては珍しい大きな声だった。王子の前にはアンダーソンが、困惑した表情で立っている。

 俺はこっそりとギルバード様に近づいて「どうしたんですか?」とたずねてみた。

「ああ、いつものだ。美少女コンテスト? とかいうのを開催しようとアンダーソンがしつこく言い寄っていて、やりたければ自分でしろと言うと、自分はこういう事には向いていないしで護衛の仕事があるから無理だと、ランバース様が仕事の合間に動いた方が早いだとさ。挙句の果てに候補の一人と話をしてみてくれと言ってきたんだ。下級貴族だけど、とてもいい子でランバース様も会ってみたら彼女の良さがよく分かると。上級貴族の女としか話さないのはランバース様の傲慢だ。なんて言ってこのざまだ。流石のランバも我慢ならなかったんだろうな。忙しいのを分かっているくせに、どうしてランバの邪魔をするような事ばかり言うのか。あげくに暴言まで。ランバの許しさえもらえたら、すぐに護衛の任を解いて不敬罪で捕まえてやるのに……」

 ギルバード様も我慢の限界なのだろう。様子を見ながらも王子の出方を気にしている。王子さえサインを出したらすぐに動くぞと。最近アンダーソンとは別に城から騎士を数人、目立たない位置に待機させている。

 王子はそんなギルバード様を横目で抑え込んでいる。

 あくまで学園でおきた学生同士のいざこざとして、対処するとの方針を変える気はないようだ。

 そういうところは尊敬に値するのだが、これ以上は両者共動けないだろう。

 悪い事をしていると少しも思っていないアンダーソンが謝るはずもなく、王子もこれで引くわけにはいかない。

 仕方がないな。と俺が動こうとした時、ソネット様が二人の元に寄って行った。

「アンダーソン様、ランバース様はお忙しい身です。一貴族にお会いする為だけに時間を割く事は出来ません。護衛の貴方様ならよくお分かりでしょう」

 ソネット様がやんわりと二人の間をあけようと間に入っていく。そんな姿に眉間に皺を寄せたアンダーソンが、突然ソネット様の腕を引っ張る。

「キャッ」

「別に一貴族の為だけにわざわざ会ってくれなんて言ってない。下級貴族とももう少し交流を持つべきだと忠告してやってるんだ。ランバース様は貴方やハワードとか上級貴族の意見ばかり聞きすぎて、視野が狭くなっている。貴方みたいに男同士の話に出しゃばったり高慢ちきな態度をとるのが上級貴族なら、優しく控えめな下級貴族の女の方がより素晴らしい。そういう人にランバース様も出会うべきだと教えて差し上げているのだ。貴方がそんなだからランバース様も人の女が良く見えたりして言い寄ったりするが、所詮は上級貴族の傲慢な女だ。だから下級貴族にも目を広げてだな……」

 ダンッ、ガシャン!

 …………………………。

「それ以上、ナメた口きくな。殺すぞ」

 …………………………。

「……アシュレイ、よくやってくれた。ランバ、もういいだろう? こいつは王族を侮辱した上にソネット様まで傷つけた。学生の領域ですませる話ではありません。騎士を呼びます」

「……ああ、そうしてくれ」

「ランバース様!」


 ――我慢が出来なかった……。

 こんなところで俺の力を見せる気なんてさらさらなかった。けれどこれ以上こいつを放っておく事が出来なかった。

 ソネット様を傷つけ、誰彼構わず口汚くののしり、あろう事がファニーの事まで言い連ねた。

 俺は奴の両腕を後ろにまとめて捻り上げ、そのまま体重を乗せて、うつぶせに倒した。身動きがとれないように、片足で押さえつける。

 その一連の動きを見たギルバード様が、王子を守るように背に庇い承諾を取る。

 王子は驚いたように目を見開きながらも、コクリと頷く。ギルバード様は緊急用の連絡笛で騎士を呼んだ。ソネット様はへたり込んでいる。

「くっ、離せ、ハワード。先輩になんて事しやがる」

「得意の筋肉で払いのけてみろよ」

「いっ、離せ、折れる。ランバース様、ランバース様。俺は貴方の護衛ですよ。大切な部下でしょう。こんな奴にこんな事させていいんですか? 貴方の惚れた女の男なんでしょ。そうだ、俺にこんな事をした罪で投獄しましょう。そうすれば女は貴方のものだ!」

「黙れ!」

「ギャア」

 ボキッ。

 ギルバード様が暴言を止めようとした言葉と、俺が奴の腕を折るのと同時だった。

「ギイ…イイイ…ああ」

「……アシュレイ……」

 のたうち回るアンダーソンを見ながら、ギルバード様が信じられないように俺を見る。

「大げさだな。綺麗に折ってやったから、二か月ぐらいで治るよ。両手両足、折れる骨はまだまだあるぞ。まだ言うなら一つずつ折ってみるか? どの骨が一番早く治るか試してみよう」

 そう言ってアンダーソンのそばに寄ろうとすると、アンダーソンは泣きながら身を丸めて俺から逃れようとする。

「ヒイィィィ」

「戦意喪失、ですかね」

 くるりと振り返るとギルバード様を始め、王子やソネット様、生徒会の生徒が一同に俺を蒼い顔で見つめている。

 まあ、そうなるわな。分かってた事とはいえ、普通は怯えるか。

 騎士達が付いた頃には、アンダーソンは気絶していた。



 ――なんて奴だ……。

 いつものようにアンダーソンが、馬鹿な事を言ってきた。美少女コンテスト? もういい、それは。いい加減諦めろ。無視していると今度は男爵位の令嬢と会ってくれと言ってきた。

 なんなのだ、それは? この忙しい時期に、何故私が会う時間を割かなければいけない?

 アシュレイのお蔭で大分と落ち着いてきたとはいえ、まだまだやるべき事はある。

 それに学園の用事が落ち着くのなら、王子の仕事に取り掛かりたい。私にはお前と違って遊んでいる時間などないのだ。

 どれ程怒鳴ってやろうかと思いながらも、王子としてそういう訳にもいかないと耳を塞いでいたのだが、余りのしつこさと王族を馬鹿にした口調は、我慢の限界を超えた。

「いい加減にしてくれ!」と、いつもより強い口調で言うと、周りがシーンと静まり返ってしまった。当の本人は、何が悪いのか見当もつかないというような顔で私を見ている。

 ギルなど私が怒鳴った勢いで不敬罪とサインを出すのを、今か今かと待っている。穏便に済ませて欲しいと助けを求めるのは無理だ。

 お前が謝らないと収拾がつかないんだよ。とイライラしていると、ミランダが仲裁に入ってくれた。

 そういうところは相変わらず出来た女性だ。ただなんだろう、少し鼻につく。引っ込みがつかなくなった私を、助けてあげると言わんばかりの行動に。

 そんな風に考えているとアンダーソンが突然、ミランダの腕を引っ張った。

 突然の行動に私は止める事も出来ずに、その光景を見つめてしまった。

 アンダーソンは聞くに堪えない罵詈雑言を吐いた。

 ミランダが高慢ちき? 私が女性を知らず、上級貴族の意見ばかり聞いている? 挙句の果てに私が仄かに抱いているロレン嬢への思い。そんなものを全て歪んだ口に乗せていく。

 いやだ、いやだ、いやだ、やめてくれ!

 耳を塞ぎそうになったその時、疾風が私の視界からその男を消してくれた。

 アシュレイがアンダーソンを押さえつけてくれたのだ。

 余りの早業に呆けてしまったが、ギルが罪にとうというので、私は言われるがまま頷いた。

 するとまたしてもアンダーソンが醜い口を開く。

 今度はアシュレイを無実の罪で捕らえて、ロレン嬢を自分のものにしろというのだ。私は訳が分からなくなる。

 私が固まると同時に、ギルが叫ぶ。黙れ! と。

 ボキッ。

 鈍い音と共にアンダーソンの悲鳴が聞こえた。

 アシュレイが綺麗な笑みと共に、アンダーソンから離れる。

「大げさだな。綺麗に折ってやったから二か月ぐらいで治るよ。両手両足。折れる骨はまだまだあるぞ。まだ言うなら一つずつ折ってみるか? どの骨が一番早く治るか試してみよう」

 アンダーソンは先程の強気な態度一変、泣きながら体を丸める。

 自身より一回りも小さいアシュレイから逃れようとするアンダーソンを見ながら、アシュレイは「戦意喪失」と決着をつけた。

 悪魔の微笑とはこういうものをいうのだろうか。私は信じられない光景に蒼ざめながら、動けずにいた。

 私はこんな奴から隙あらばロレン嬢を奪いたいと、本気で思っていたのだろうか。

 分かっていたけれど、分かっていなかった。普段の彼は温厚で優しい人間だから、つい自分の気持ちを優先してしまい、隠し切れなかった。

 諦める。いや、元々望んではいけなかったのだ。彼から彼女を奪う事なんて……。


 ふと、ミランダを見る。まだ床に座ったままだ。

 手を貸そうかと近くによると顔面は蒼白、体はフルフルと震えている。

 そういえば彼女は私と奴の間に入ってくれていたのだ。誰も口が出せないあの空間で間に入るのは、かなりの勇気がいったに違いない。なのに私はその行為を鼻につく、などと思ってしまった。

 その後、奴に腕を引っ張られ怒鳴られた。ただでさえ自身より数倍もでかくて力のある男に、あんな悪意に満ちた言葉を、至近距離で聞いていた彼女の恐怖は相当なものだろう。

 可哀そうな事をした……本当に、申し訳ない。

 それもこれも私を助けようとした結果だ。彼女は王子である私を、婚約者として助けようとしてくれたのだろう。ああ、そうだ。考えれば今までだって、いつだって彼女は婚約者として頑張ってくれていた。私の気付きもしないところで、必死に私を支えようとしてくれていた。

 ……私は、気持ちを向ける相手を……間違っていたのではないだろうか?

 私が本当に見るべき相手は……。

「……ミランダ、手は大丈夫だろうか?」

 私は床に跪き、ミランダの手を取る。弾かれたように私を見たミランダは、驚いたように目を丸くしている。

「……申し訳ございません。大丈夫ですわ」

「こちらこそ申し訳ない事をしたね。赤くなっている。少し冷やした方がいいな」

 私は立ち上がって、生徒会室に残る者に解散の旨を伝える。

 詳しい事は城で行う事にして、ひとまず皆落ち着いた方がいいと判断した。



 数日後、アシュレイは奇妙な二つ名を付けられていた。

〔怒れる風の貴公子〕と。

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