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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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 城に着くと、またもや王子の私室に案内された。

 警備体制どうなってんの? いくらガキだからといって、国のトップの部屋にホイホイと迎えるなんて甘すぎないか? そりゃあ、扉の前には護衛兵が二名、王子の普段の護衛騎士が一名、側近が一名、侍女が二人と待機はしているが……うん、ごめんなさい。警備はしっかりされていました。

「やあ、アシュレイ。よく来たね」

 抱きつかんばかりに目の前に現れた王子に、右手を胸に添え頭を軽く下げ、紳士の挨拶をする。

「お久しぶりでございます。ランバ様、ギルバード様」

 たたらを踏んでいる王子を横目に、ギルバード様が握手を求めてきたので、素直に返す。

「ランバと違って俺は君とは対等なのだから、呼び捨てでかまわない」

「いえいえ、一つとはいえ年上なのだから、礼儀は重んじるべきですよ」

「仕方がないな。俺は君のそういうところが気に入ってしまったのだから」

 ギルバード様が苦笑する横で、王子がむくれたように口を突き出す。幼いなあ。だけどこういうところが女心をくすぐるのかもしれない。

「なんか私より仲良くなっていないかい、二人とも?」

「やくな。それよりアシュレイに話したい事があって呼んだのだろう」

 そうだった。と顔を輝かす王子に、どうしても憎めない俺がいる。この人は素直過ぎるんだ。だから前回も俺は彼に逆らえなかった。ファニーを奪う事も、行動を窘める事も。

「もうすぐ私の九歳の誕生日会が開かれる。夜会は大人達のものだが、昼には軽く子供達だけの催しも行われる。茶会とそんなには変わらないが、大人が乱入しないだけ自由に出来る。良かったらアシュレイも来てくれないか?」

「喜んで」

「あ、えっと、良かったら婚約者も連れて来て」

 それが本音か。

 ファニーにもう一度会いたいのだろうな。それが恋心からなのかどうかは分からないが。

「もちろんです。ランバ様の婚約者であられるソネット公爵令嬢にお会いできるのを楽しみにしています」

 俺が満面の笑みで返すと、王子は「あっ」と声を発して苦笑した。

 忘れていたのだろうな。先日もそれを注意したのにな。

「では、改めて二人に招待状を送るね」

「はい、ありがとうございます」

 俺と王子の会話が一段落したのを見定めて、ギルバード様がお茶を出してくれる。

 本当に良くできた人だ。マジで八歳児か? 俺は前回の記憶もあるので七歳プラス十六で、合計二十三歳? ハハハハハ~だ。

「ところでアシュレイは、体を鍛えているのかい?」

 突然のギルバード様の言葉にちょっとビックリした。

 確かに鍛えている事を隠してはしていないが、所詮七歳児の体だ。城に来るときは正装もしているので、体の線は見えていないと思うが、どこで気付いたのだろうか? 調べられたか?

「はい、時間があれば鍛錬をするようにしておりますが、何か?」

「ああ、変な意味ではないよ。ハワード家の事も理解しているし。ただこの先ランバが成長するにつれ、護衛を兼ねてもらうのもいいかと思って」

 なるほど。裏の軍事力であるハワード家の事を理解した上で、俺が鍛練している事を推測し、王子が気に入っている俺が将来、王子の取り巻きになる可能性の中、護衛も任せられたらと考えたのだろう。

「ありがたいお申し出ではございますが、それは辞退させていただきます」

 ペコリと頭を下げると、ギルバード様は不思議な顔をする。

「何故?」

 悪意はなさそうだが、腑に落ちないと言わんばかりの表情でたずねてくる姿は、やはりまだ八歳児といったところか。

「私ではランバ様が学園に通う頃に、一年のブランクが出来てしまいます。最初の一年というのは大きなもので、ランバ様に取り入りたい者が押し寄せてくる中、私を待ってもらって護衛が不在というわけにはいきません。仮に騎士を付けたとなると、その一年で他の生徒が委縮してしまう可能性があります。それは本来、ランバ様においてもギルバード様においても望ましくないものになるのでは? ですから私ではなく護衛になりえる同学年の方をお選びになる方が良いかと。確か現在騎士団団長の次男が八歳ではなかったでしょうか?」

「……なるほどね」

 ギルバード様は顎に手を置き、考え込む。

 前回でも王子の護衛は、そいつに任せた。脳筋の馬鹿だが図体だけはデカかったので、人を排除するには充分だった。

 俺では見た目が柔和過ぎて、男子生徒はともかく女子生徒を排除するのに大変だった。

 ギルバード様の人を寄せ付けない美しすぎる絶対零度の眼差しでどうにかなったが、護衛では些か力不足だろう。

 それに何より今回俺の護衛対象は、ファニー一択なのだ。王子を守る気は微塵もない。

「流石アシュレイだな。良く考えている。分かった。それならば護衛は同学年から探すとしよう。学園に入る前にはある程度、実力も分かるだろう」

 そういえばそうだ。いくら幼い時から鍛えていたとしても、この年齢ならばまだ王子を守れるほどの実力が付くかどうかは分からない。いくらハワード家の事があるとしても、俺が使い物にならなかったらどうするつもりだったのだろう?

「何故、こんなにも早く私に声かけを?」

 俺は素朴にたずねてみる事にした。

「ランバが君を気に入っているからね。どうせそばに置くなら気の合った者の方が良いだろう。それに君は頭もいいし、努力家なようだ。将来有望なのは目に見えている。俺もランバのそばにいる以上、脳筋の力馬鹿より意見を交わせる君がいい」

 あ、一応騎士団団長の次男も候補にはあがっていたのだろう。が、ギルバード様が嫌だったんだな。それで俺に目を付けたと。すまんが、頑張ってくれ。としか言いようがないな。

「護衛の任には付けませんが、一年後入学した際には、後輩としておそばに寄らせていただきますよ」

 俺がニコリと笑うと、ギルバード様も笑う。

「そこは友人でいいよ」

「……やっぱり二人の仲がいい」

 あ、王子が本気で拗ねた。しょうがないでしょ。ギルバード様との会話は軽快なんだから。お互い理解が早いから話しやすいんだ。相手八歳児だけれどね。


(ドウイウツモリ?)

「ルミ、俺の夢に来てくれたのか?」

 その夜、寝付いたと同時にルミが夢の中に現れた。女性の姿なので〔ルミ〕と呼ぶのはなんだがおかしな感じだが、白い魔女と呼ぶのもしっくりこないので、本人が聞き流してくれているのならいいかと〔ルミ〕呼びを続ける。

 そして少しは回復してきているのか、言葉も聞き取りやすくなった。

(アノマッドン、トカイウ男、近ヅケタラ、動キニククナルワヨ)

「そうだろうね」

 若干二十歳で近衛隊隊長まで上り詰めた男だ。軽い感じに見せてはいるが、かなり鋭くきれる男だ。

 彼に師事を受ければ強くはなれるが、いらぬ腹まで探られるだろう。

「分かってはいるけれど、俺が強くなるためには最高の師匠なんだよね」

 俺がマッドンから手を引く気はないと話すと、ルミは溜息を吐いた。

(ドコマデ、話スツモリ?)

 前回の事を全て話すのかと、疑うルミに心配ないと俺は笑う。

「自分から話す気はないよ。とりあえず俺はいざという時、ファニーを連れて逃げれるように強くなるだけだ。逃走資金も用意しておく。ルミ、君が黒の魔女に襲われた時、奴は前回と同じ女性の姿をとっていたかい?」

 逃げる前提で行動はとるつもりだと話し、俺は聞きたい事をルミに聞く。

(エエ、以前ヨリ幼クハ、アッタケレド、間違イナク同一人物ダッタワ)

「そうか、それならば奴はまた、地方男爵の令嬢として現れるだろう。それならば動向は調べやすい。彼女の周辺に人を送ってみる」

 黒の魔女の居場所や動向を探る為には、一か所に居住してくれていると把握しやすい。

 俺が懸念していたのは、前回と違う姿でどこにいるかも分からないという状況だった。

 そうなるとお手上げだ。いつどこから誰に魅了の魔法を使って来るか分からないとなると、戦う事も出来ず逃げ遅れてしまう可能性もある。そうではないと知って、俺はひとまず安堵した。

(危険ダワ。バレタラ、貴方ノ事モ、知ラレテシマウ)

 ルミが心配した声で言う。

「君が猫の姿になっている事も知られているの?」

(イイエ、ソレハナイト思ウ)

「だったら大丈夫だよ。我がハワード家はそういう事に慣れた家だからね。裏の軍事力と言われているだけに、情報力にもたけている。もし我が家の事が漏れたとしても、情報の一環だとでも言うさ。問題はこちらの情報がどれだけ漏れているか、いつ何時魅了の魔法を使うかの二点だよね」

 俺はルミの不安を吹き飛ばすように明るく続ける。

 確かに俺が動いているのが相手の耳に入るのは少々痛いが、王子と学園に通う予定の子息令嬢を調べているとでも言えば、まずは疑われないだろう。前回においてもそういう情報は集められていた。

 正直、ルミの存在と時戻りの魔法さえ気付かれなければ、大丈夫だと思う。

(ソウネ)

 ルミもとりあえずは納得してくれたようだ。

「だったら今は今後に備えて動くのみだ。やれるだけの事はやるよ。得た情報はその都度伝えるから、夢の中にちょくちょく来てね」

 どうしても猫のルミに話しかけるのは、ファニーの前ではやりにくいし込み入った話も出来ないから、こんな風に夢の中に入ってくれた方がいい。とこれからの約束を促すと、ルミは溜息を吐いてコクリと頷く。

(ソウシナイト、気付イタラ、黒ノ魔女ト戦ッテイル、何テ事ニ、ナリカネナイワネ。私ハ貴方ノ監視ヲ、スル事ニスルワ)

「酷いなあ」

 ルミの中でどんどん俺がどうしようもない子になっていくようで、俺はつい苦笑してしまう。

(アラ、本当ノ事ヨ。貴方ハファニーノ事トナルト、先行キ考エナイ、性格ミタイダカラ。私ハ貴方モ守リタイノヨ)

 ルミの言葉に、俺の暴走を止める役目も果たしてくれようとしている事を知り、素直に感謝する。

「……うん、ありがとう。無茶はしないようにするよ。それと一つ聞きたかったんだけれど、君は前回意識だけはファニーの傍にあったんだよね。じゃあ、知っているかな? ファニーの断罪後、王族や俺達の両親なども魅了の魔法にかかっていたのかどうか」

 俺はもう一つ聞きたかった事を聞いてみる。

 確か俺の両親は、俺がファニーを断罪した事を知って苦い顔をしていたはずだから、かかっていなかったのではないかと思う。けれど他の者は? 学園外の者はどうだったのだろうか? あの時は意識が朦朧として周りの様子が見えていなかったが、今思えば確か処刑場も刑を執行する者以外、観客は学生達だけだったのではないか? 俺はその時の事を知りたかった。

(王族モ貴族モ、一人ノ令嬢ニ構ッテハ、イラレナカッタノ)

「どういう意味?」

 一人の令嬢に構ってはいられないって……それで、彼女は処刑されてしまったというのに、それはどういう事だ?

(戦争ガ、オキヨウトシテイタ)

「は?」

(ゴルフォネ、ト戦争ガ開始サレヨウトシテイタノ。ダカラ大人達ハ皆ソチラニ、集中シテイタ)

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