表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/81

違い

 カラン山の話を一旦保留にした俺は、違和感に気付く。

「あれ、まって。君は前回も俺達が七歳の時に魅了の魔法を奪われたのか? そうすると奴は十六歳のあの時まで使わなかったという事かい?」

(イイエ、ゼンカイハ、ジュウロクサイ。ガクエンニ、ハイッタアトニ、ウバワレタワ)

 そうだよな、あいつは普通に王子と一緒に入学をしていた。

 俺達は一つ下だからまだ入学はしていなかったけれど、取り巻きの一人として名簿を見せられたはずだ。王子の周辺は理解しておくようにと。その中に男爵令嬢がいた。ローズマリーだ。

 王子と同じクラスに男爵令嬢という下級の者がいる事に驚いた記憶がある。

 別に身分差別をしていたわけではないけれど、やはり王子と同じクラスとなると学業のレベルも高かったし、下級の者がついていけるものではなかったから、そこのところは学園も考慮していると思っていたんだ。それなのに一人だけ男爵令嬢がいたから、違和感を感じたのを覚えている。

「じゃあ、黒の魔女は王子と一緒に学園生活を送りながら擦り寄ったのに、ファニーがいるから相手にされないため、白の魔女、君から魅了の魔法を奪って王子を筆頭に、学園中を操っていったわけだ。けれど、どうしてファニー一人をあんな目にあわせたんだ。王子を奪えば、それだけでよかったんじゃないのか?」

 白の魔女に黒の魔女の心理など聞いても分からないだろうと思いながらも、ついたずねてしまう。

 だって、どうしたってファニーがあんな目にあったのは、腑に落ちないから。

 けれど、白の魔女は答えてくれる。黒の魔女の心を推測しながら。

(オモッテイタ、イジョウニ、オウジガ、ファニーヲ、アイシテイタカラ)

「!」

(ヒョウメンジョウハ、イイナリニ、ナッタケレド、フトシタ、ヒョウシニ、ファニーヲ、オモイダス。アナタト、イッショ)

 聞きたくなかった言葉。確かに以前の王子はファニーを大切にしていた。けれど、魔法を跳ね返すほど思っていたなんて……。

(アナタト、チガウトコロハ、カクゴ)

「覚悟?」

(オウジハ、ファニーヲ、ジブンノモノダト、オモッテイタノ。オウジトシテ、クニモ、マモリタイ。コンテイニアルノハ、ジブン)

「俺が言うのもなんだけれど、それは間違っていないんじゃないのかな。王子としての立場なら国を、民を守るのが王族の務めだ。どんなに愛していても伴侶を一番に考えるわけにはいかない。自分があり、伴侶がいる。伴侶は自分のものだという考えは、仕方がない事だ。傲慢なわけではない」

 そう、俺とは立場が違う。一貴族の俺とは背負うものが違い過ぎるんだ。それを傲慢と一言で言うわけにはいかない。

(ソウネ。ナニゴトモ、ナケレバ、ソレデ、ヨカッタ。ケレド、クロノマジョニ、ネラワレタイジョウ、ソレデハ、ダメダッタノ。ジブンガ、イチバンダイジ、ダッタ、ニンゲンハ、ウゴケナイ。アナタノヨウニ、ジブンヨリモ、ファニーガ、ダイジナヒトダカラ、サイゴノ、サイゴニ、マホウヲ、ヤブルコトガ、デキタノ)

「……そんないいものじゃないよ。俺だって自分が大事だ」

 そう、俺だって動けなかった。ファニーが微笑んでくれるまで。最後に俺を見てくれたから、そうしてやっと俺は動けたんだ。ファニーが見てくれなかったら、俺はあの時も動けたがどうか分からない。

 今でも自信がない。それほど体の戒めは強力だった。握りこんだ手には爪の跡が残り、唇を噛み締め、血を滴らせても動けない。そんな強い力が解けたのもファニーの笑顔のお蔭なんだ。

 けれど、白の魔女は小さく首を降る。

(アナタハ、ジブンガ、ファニーノモノダト、イッタ。ファニーガ、シンダトドウジニ、ジブンモ、シヲエラブヒトハ、アナタダケ。ミリョウノマホウニ、アラガイツヅケ、カラダノ、キノウヲ、テイシサセルホドノ、オモイ。ゼンカイノ、セカイデ、アナタダケガ、イブツ、ダッタ)

 異物って、その言い方はどうかと思うものの、俺は自分でも知らず知らずに抗っていたようだ。

 あの高熱は。何度も何度も体の機能が停止して、息が止まり、死にそうになっていたのは、魅了の魔法を拒んだ結果だったのか。

(トキヲ、モドスニハ、ツヨイオモイガ、ダイジ。アナタノ、オモイガ、ツヨカッタカラ、セイコウ、シタノ)

「俺と王子の違いは分かった。王子の気持ちも。だけど、やっぱりファニーがあれほどの目にあった事には、納得できない」

 再び俺が話を戻すと、白の魔女は痛ましそうに顔を歪ます。

(オウジノ、キモチヲ、ファニーカラ、ハナスタメニ、カノジョヲ、ワルモノニ、シタノ。ゲンメツサセテ、オウジノテデ、チョクセツ、イタメツケル、コトデ、カノジョヘノ、オモイヲ、タチキラセル。アソコマデ、シナケレバ、ナラナイホド、オウジノキモチハ、フカカッタ。ソノナカニハ、オンナノ、シットモ、アッタトオモウ)

 王子の気持ちを離すために、ただそれだけのためにファニーはあそこまでボロボロになったのか。あそこまでしなければならなかったのか。

 俺は新たな怒りが湧き上がるのを、止められなかった。ふざけるな! 何て身勝手で傲慢な考えだ。

 王子の気持ちが深すぎた事も要因の一つなのかもしれないが、そもそもどうして相手の気持ちが自分のものにならないからといって、他者をあそこまでなぶる事ができる? 体を痛めつけて、女性としての尊厳も人格も粉々にして、最後には死までをも笑いものにして、それが許されると思っているのか。

(オチツイテ。ココデ、オコッテモ、シカタガナイ。アナタハ、コンドコソ、ファニーヲ、マモルノ。フタリデ、シアワセニナルノ。ソノタメノ、ヤリナオシヨ)

 俺は白の魔女の言葉にハッとした。二人で幸せに……?

(アナタモ、カノジョモ、クルシンダ。ダカラ、コンドハ、クロノマジョカラ、ニゲテ。テノトドカナイ、トコロデ、シアワセニ、ナッテ)

「……俺達が逃げたとしても、奴は魅了の魔法を使うんだろう。それも今回はもう手にしている。どこで使って来るか、予想できない。違うか?」

(ソウダケド、モウコレイジョウ、アナタタチガ、クルシム、ヒツヨウハ、ナイ。ダカラ、ワタシハ、イマ、ココニイルノ。イッコクモハヤク、ニゲテ、モラウタメ。クロノマジョハ、マダ、トキガ、モドッタコトヲ、シラナイ。ニゲルナラ、イマシカナイ)

 そうか、そういう事か。白の魔女には俺達を守るだけの魔力がない。だから一刻も早く逃げて欲しいと、魅了の魔法を奪われてすぐに俺の夢に現れたんだ。前回ファニーが助けた恩返しか。律義なものだな。けれど、どうしたものか……。

「悪いけど、すぐに答えはみつからない」

 俺がそう言うと(アシュ!)と白の魔女は、今までの温和な声とは別に少し荒げた声を出した。まさか俺がそう言うとは思わなかったのだろう。

「誤解がないように言っておくけど、俺の中でファニーが一番大事なのは変わらない。それは絶対だ。けれど、この国が荒れるのを知っておきながら、自分達だけ逃げるのは違う気がする」

 俺は上級貴族だ。力ある者として、このまま放っておくというわけにはいかない。俺にも貴族としての矜持と責任がある。

(ソンナコト、イッテ、コンカイモ、ツライオモイヲ、シタラ、ドウスルノ? オナジ、ケツマツデハ、トキヲ、モドシタ、イミガナイ)

「分かっている。君は力の半分以上を失っても時を戻してくれた。その恩には報いたい。ファニーを絶対に幸せにする。けれどその過程で少しでも、黒の魔女の思惑を打ち消す事が出来たら、前回の意趣返しにはなるかもしれない。まあ、前回同様、巻き込まれたらそんな事も言っていられないから、逃げる算段を立てながら、抗ってみてもいいかな?」

 俺が口角を上げながらそう言うと、白の魔女は眉間に皺を寄せる。

(アナタハ、マダ、ナナサイノ、カラダヨ。ソレニ、マリョクモ、モッテナイ、ニンゲンニ、ナニガ。デキルノ?)

「それは正直全く分からない。君の言う通り逃げるしかない状況になるかもしれない。けれど、ギリギリまで抗ってみたい。やられっぱなしは性に合わないんだ」

 俺は真っすぐに白の魔女を見ながら、拳には力が入る。

(アナタヲ、エランダノハ、マチガイ、ダッタノカシラ)

「ごめん、失望はさせないよ。本当に無理だと思ったら逃げるから。ファニーを守る事を最優先に動く。約束する」

 俺の顔をじっと見ていた白の魔女はおもむろに、はあ~っと大きな溜息を吐いた。

 せっかくの美貌が、ちょっと残念になった。

(コレイジョウ、ハナシテモ、ムダナヨウネ。ワタシハ、モドルワ)

「明日、会いに行くよ」

 咄嗟に明日の約束をする。

(コナクテイイワヨ。ユメニデルノモ、チカラヲ、ツカウノ。アスハ、イチニチジュウ、ネテイルワ)

「分かった。じゃあ、明後日だ」

(……スキニスレバ)

 あ、とうとう呆れられた。

 そうして白の魔女は、俺の夢から姿を消した。


 俺は寝台の上、体を起こす。一応睡眠はとれていたのか、体の方は問題ない。頭だけ異様に冴えているだけだ。さて、どうする?

 今の今で考えたっていい考えが思い浮かぶわけでもなく、俺はとりあえず朝の日課の鍛練に入るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ