021 再生
翌朝、いつも通り学校へ向かう。ネット上では有名人となってしまったが、あくまでもFPSゲーム界での話。特段、日常生活に変化はない。
テレビとか雑誌の取材とか来るかな、なんて思っていたが、そんなに世のなか甘くないらしい。
「おはよ。」
「おはよー…ふわぁぁぁん…。」
俊の大きなあくびとご対面。昨日はいろいろと大変だったのだろう。察するにあまりある。
「彼女には許してもらえたの?」
朝っぱらからとんでもない話題を放り込んでしまったと後悔したが、時すでに遅し。まあ、正直気になっている。俊は亜美のことを、連絡なしでなんと2時間も待たせてしまったのだ。しかも屋外。関係のない俺ですら申し訳ない気持ちになる。
「しっかり怒られました…あ、あと、チョコレートパフェをおごりました…2つ…。」
どうやら許してはもらえたらしい。チョコレートパフェで済んだのは、御の字というところか。というよりも、結構へこんでいる様子なので、あまり触れない方が良さそうだ。
「そっか…。あ、そうだ、動画の方、どんな感じなん?」
こっちも気になっていたことなので、話題を転換する。
「…なんと600万回こえましたー!ありがたやー。」
なんか拝まれてしまった。それよりも衝撃的な数字。確かシュンカンゲームズの最高記録は300万回だった。単純計算で倍。
「600万回っ!?あ…ごめん、朝っぱらからうるさかった。」
あまりの衝撃に大きな声が出てしまった。近所迷惑。
「いや、良いけどさ。すごくない?あ、収益化はしてないからね。そこは残念。チャリンチャリンはしなかった。」
「あ、そなのか。まあ、仕方ないよね。」
動画の配信は許可されても、さすがに収益化、要するに商用利用は許してもらえなかったよう。収益化できなかったとしても、シュンカンゲームズの宣伝にはなっているので、結果オーライではある。
「そうそう、昨日さ…。」
昨日のことを話そうとして、ふと気づいた。
「ん?どしたん?」
「あ、いや。あのさ、動画のコメント欄ってどんな感じ?」
そういえば大会のとき、冗談込みでギャラリーからチートを疑う声が出ていた。ありえないとは思うのだが、その声が大きくなって、運営として調査したい、ということではないのだろうか。まあ、不正ができないことは運営が一番よく知っていると思うのだが、かたちだけでも調査というのはあり得ること。
―――一応、調査しましたよ、っていう事実は欲しいだろうし。
企業の社会的責任やコンプライアンスが重視される昨今、予防線を張ることは企業のイメージ戦略として重要なこと。これ問題じゃない?という声が小さいうちに調査なりをしておいて、もし大きくなったら迅速にこういう対応をしましたよ、と発表する。これがダメージの少ない対応だと思う。問題が大きくなってから対応を始めたのでは、追及する側と同じペースで歩みを進めることとなる。当然ながら対応は後手に回らざるを得なくなる。これは避けたいところ。
「コメント欄?うーん…ダイキ先生ヤバすぎるって声がほとんどだし…あ、大樹のカウンターが『Dカウンター』って呼ばれてるぐらいかな?」
「あ、そなの。いや、チート疑われているかと思った。」
「ああ、そういう声もあるけど、冗談って感じだよ。そもそも筐体だって向こうが用意してるし、がんがん撮影されている状態でチートなんてできないし。」
「確かに。」
「まあ、火のないところから煙がたっちゃうのがネット世界だからね…。なんか言われたん?」
シュンカンゲームズ、実はシミュレーションゲーム運営会社のステルスマーケティング説がネット上で囁かれていたりする。もちろんそんなことはないわけで、俊は純粋に好きなゲームの実況をしているだけ。再生回数を気にはしているが、基本的に楽しめるかどうかが大きな基準としてある。ちなみにそのステマ説、根拠としてはゲームがうますぎるから、らしい。
というように、当事者からすると何がどうしてそうなった!?と思うようなことが起きたりもする。その根拠をもとにされると、俺もステマ説を疑われているのだろうか。まあ、俺は実況者ではないので、さすがにそれはないか。
「いや、昨日、運営さんから電話があってさ、ちょっと本社に来てくれませんか?だって。」
「運営って、インテグラル?」
「うん。」
「ふーん。謎だね。もしかしてチートした?」
そんなことストレートに聞かれると、潔白でも焦ってしまう。
「し、してないって!」
「あはは、冗談。冗談。…しかし、本当に何だろう。」
まあ、ここで話していても結論は出ない。おそらく書類とやらが今日中に届くと思うので、それを見てからのお楽しみ。




