相性というものがありまして4
その翌日、雪吹は黒の服にショートパンツを履いて、腰に大きいストールを巻いていた。灯真は革のコートを脱いで長袖の服になっていて、昨日と同じく手袋をはいている。
「行ってくる、2人はお手伝い頑張って。」
雪吹はそう言うと灯真を連れて外へ出た。
雪吹は昨日、老夫婦と交渉していた。その結果、10日間泊めてもらい旅立つときに保存食を分けてもらい、その代わりに村の仕事を手伝うことになった。
桜花と桐島が村の中で、雪吹と灯真は村の外だ。灯真は魚獲り、雪吹は動物の狩りに同行する。桜花と桐島は荷物を届けたり野菜を売ったりした。
そうして何事もなく、7日目の夜を迎えた。
三人が寝たことを確認した雪吹は静かに起き上がり、手帳を開いた。それはこの世界の文字と、自分たちの世界の文字が書かれている。この村に来てから、雪吹は文字の勉強をしていた。昼間は村の人に教わり、毎晩皆が寝た後にこっそりと復習するのが日課になっていた。
「起きてたの。」
起こしてしまったのか、桐島が目をこすりながら言う。
「あ、うん。」
桐島は起き上がると、外していた眼鏡をかけて布団の上に座った。そして、外を眺めながら話し始める。
「三食宿付きなんて、本当に有り難いよね。雪吹さんは狩りの腕が良くて、どこかで護衛の仕事をしていたんじゃないかって言われてるんだってね。すごいよ、ほんとに。」
雪吹は手帳を閉じて、桐島の方を向いて言う。
「この力を存分に使ってるだけなんだけどね。」
桐島は、それでもすごいよ、と微笑みかける。
「今更だけど、雪吹さんとゆっくり話したことはなかったかもね。」
「そうだね、今夜はゆっくり話そうか。」
そうして二人は話し始めた。雪吹は狩りの話をして、桐島が桜花との腕時計の話をする。和やかな雰囲気で時間が過ぎ、いつの間にか、空が僅かに明るくなってきた。
「ここの人は朝が早いなぁ、こんな時間から起きるんだね…。」
桐島が呑気にそういうと、雪吹の表情が曇る。
「ここの人たちは完全に明るくならないと活動しないよ、いつもそうだ。」
そう言って外を見渡す。
「ねぇ桐島、なんでそう思った?」
桐島は雪吹の雰囲気が変わって戸惑う。
「物音がするから。」
「どっちから」
「えっと、外…。」
「外のどっち!」
「あ、誰か叫んでるみたい。」
「どこで!」
まくしたてるように雪吹が言うと、桐島が困った表情をした。
「もういい。自力でやるから。」
「え、あ、ちょっと。」
雪吹は窓の外から飛び出した。
イメージして念じ、両足にブーツを作りだす。そのまま全身を強化するため、身軽で速くて力強くなるよう念じる。これが意外と効果的だということは、ここ数日の狩りで検証済みだ。
屋根を足蹴にして村中を飛び回ると、見覚えのある集団を見つけた。
「あの時の山賊か。」
山賊は民家に押し入ったり村民を襲ったりしているようだ。
雪吹は逃げようとして転んだ女性の前に立ち、能力で形成した真っ赤な剣を突き出して言う。
「やめなさい、山に帰れ。帰らないなら全員始末する。」
山賊たちは小馬鹿にしたように笑う。
「その武器はハッタリかいお嬢さん。」
「口だけは一人前だな。」
「一人で?できるものならどーぞどーぞ。」
雪吹は手始めに、一番近い山賊に近づいて剣を刺した。
「それじゃあ、遠慮なくいくよ。覚悟しな。」
雪吹は近くに居る順番に斬っていく。何の躊躇もなく、ただ次の行動を考える。
山賊もやられてばかりではいられないと、一斉に襲いかかってきた。