魔法薬と悩み
えーっと・・・、
お久しぶりです。
やっと更新しました。
相変わらず拙い文面で申し訳ないのですが、読んでもらえたら嬉しいです。
(*^^*)
暫くの間、先輩とクロちゃんと私の3人(?)で会話を楽しんだ。
先輩の目標は医療魔法師になる事らしい。
だから衛生保護と言う授業を選択したんだって。
授業内容としては怪我をした生徒や体調不良を訴える生徒の面倒をみたりしているそうです。
実際、何をしているのかと言うと、怪我をした生徒には、癒しの魔法を掛けて傷を治し、体調不良の生徒には症状に合った魔法薬を処方して休ませる。
それは、まさに養護教諭のお仕事です。
「スゴイ」
っと呟いた声が聞こえたらしく、
「偉そうに話したけど、実際は養護教諭の使い走りだよ。」
先輩は照れ笑いをしながら、そんな事を言っていた。
昼休みと6時間目、放課後の1時間が選択授業の基本の活動時間になると言う。
午前中は通常授業、午後からは実践授業になるのが6年生の授業スタイルなんだって。
私達、一年生の授業スタイルは、午前中が一般授業((まさか魔法学舎の授業に語学・数学・社会学などの授業が有るなんて思って無かったから聞いた時にはビックリしたよ、魔法だけ習うのかと思ってた。))、午後からは魔法基本学を教わる。
属性魔法は、火・風・水・土・光の5種類だとか、その5種類には基本系統って言うものがあって、火=攻撃・風=守護・水=癒し・土=生産・光=恵みとなっている。
だからと言って火の属性の魔法師が癒しの魔法が使えないという事は無い 。
基本系統と言うのは得意分野って事だそうです。
火の属性の魔法師が癒しを掛けるよりも、水の属性の魔法師が癒しを掛けた方が効果が高いと言うこと。
まぁ、こういう基本的な事を学ぶのが、魔法基本学なのです。
そんな基礎の基礎を学び習い初めたばかりの一年生の私達との大きな実力の差に呆然とする。
正直、私達一年生が6年になった時に、ここまで実用できる実力を持てる自信は無い。
ほんの数年後の未来の事なのに、今は他人事のように、ただ憧れを持って見ているだけ。
だから素直に感情のままに
「やっぱり先輩はスゴイ!!!です。」
と私は騒ぐ。
先輩は私のテンションに、目を丸くして、ちょっとだけ苦笑いをする。
「大した事じゃ無いよ。
6年になれば皆この位の事は出来るようになるさ。
リタ、もちろん君だってね。」
そう言われても、ねっ・・・私は先輩みたいに優秀な生徒じゃ無いんだよ。
今現在の私の実力は、同じ一年生の中でも劣っている部類だって自覚してる。
入学して、ほぼ1ヶ月が経過し、学舎にも慣れて来た頃に初めての課題が出された。
魔力をコントロールする事。
一定量の魔力放出を10秒間維持させなければいけない。
何故こんな課題が出されるのか?
それは誓いの石に魔力を記憶させなければいけないから…。
突発的に大量の魔力を注ぎ込むと石が割れてしまうそうで、魔力のコントロールが出来ない者は誓いの石に触れることが出来ない。
10秒位なら誰だって出来るでしょ!!って軽く見てた。
実際にやってみると、私は全く出来なかった・・・。
クラスメイト達の半分は、その授業中に出来る様になった、残りの半分だって日々コントロール出来る時間が長くなってきている。
そう、私だけが進歩出来ずに停滞していた。
もぉ、毎日、四苦八苦している。
そんな状況を思いだして知らず知らずの内に溜め息をついていた。
私の様子が変わった事に、先輩が おや? という顔をしたが、直ぐに思い当たり、納得顔をする。
「入学して1ヶ月か、そろそろ誓いの石の儀式が行われる頃だね。」
先輩のその言葉に一段と気分が落ち込んだ。
誓いの石の儀式かぁ…今の私だと…やっぱり無理かな……。
クラスメイトの皆が、儀式を成功させて行くなか、私だけ取り残されている姿が、余りにも鮮明に想像出来て・・・。
はぁーーー…。
再びついた長い溜め息を吐き捨て、めり込んでいく私の様子に、先輩は 参ったなぁ…と頬を掻く。
ポンポンっと軽く背中を叩かれ、振り向くとクロちゃんが一生懸命前足で後ろ脇辺りを叩いていた。
クロちゃんが目線を私の顔に向けたので、視線が絡む。
『ニャ~ニャンニャン、ニャンニャーンウニャ』
クロちゃんの言葉に、先輩はウンウンと頷く。
「ダァーイジョウブだよ。直ぐに魔力のコントロールなんて出来るようになるから!だって」
クロちゃんを指差しながら通訳してくれた。
「ありがとう…ありがとうございます。」
まだ前足でトントンと叩いて来るクロちゃんの心遣いに感謝した。
うちのレンとは大違いだなぁ……なんて思いながら。
「それにしても、先輩もクロちゃんも、私が魔力のコントロールで悩んでるって良く分かりましたね。」
クロちゃんが慰めでサラリと言っていたから、何となくそのままスルーしそうになっていた。
でも気付いたから口に出してみた。
クロちゃんの視線が、スゥーっと先輩に注がれる。
その視線を先輩が嫌そうに・・・いや、所在なげに受け止める。
「皆が一度はぶつかる壁だからな・・・。」
そう言いながら、ハハッと乾いた笑い。
「かく言う私も、一年生のときはコントロール出来なくてボロボロもいいところだったよ。」
先輩はソツ無く課題をこなして行くタイプに見えたから、とても意外だった。
でも、ちょっと投げやりな口調で言っている辺りが本当の事を言っているって思えた。
「あぁ、実は、今もコントロールには余り自信が無いんだよ。」
秘密だよっと小声で語る先輩の様子に、思わず笑ってしまった。
そんな和やかな雰囲気を繰り広げていると、カツカツという音が耳に着いた。
ベッドが並ぶ部屋と処置室の間に付けられているカーテンが揺らぎ、シャッと音を立てて開く。
「あら、起きたのね。」
私を見て話し掛けてきたのは、紺のタイトスカートに白のブラウス、その上から白衣を羽織った20代中頃の女性。
淡いグレーの髪は襟首の辺りで整えられている。
フレームの無い薄い眼鏡を掛けていて、美人だけど近付きがたいキツイ印象の顔立ちを更に際立たせていた。
クールビューティーという形容がピッタリな彼女は、サミー・レイソンという名の養護教諭。
更に近付いてきたサミー教諭は私の額に手を充てて自分の額の温度と比べる。
「う〜ん…熱は落ち着いたみたいね。」
どうやら私は、発熱もしていたらしい。
寝不足だけじゃ無かったんだ…。
サミー教諭は額から手を放すと微笑みを浮かべる。
彼女の笑みは、今までのキツイ印象を劇的に変化させた。
少女の様な柔らかい印象に。
「リタさん、具合はどうかしら?」
自分の状態を省みて、かなり怠さを感じるけど、今のところ良好。
「はい、もう大丈夫そうです。」
答えを返してから、座っていたベッドを降り立つ。
平衡感覚に難を感じたが、気にする程の事でも無いと自分に言い聞かせた。
大丈夫だと示す為に、その場で跳び跳ねたりなど体を動かし…。
・・・後悔。
今は平行感覚がおかしいのに、いきなり動いたから足が縺れて、体がグラリと傾きバランスを崩した。
転びそうになるのを、咄嗟に先輩が支えてくれた。
ちょっと調子に乗りすぎました……。
先輩にお礼のを述べて、大人しくベッドに戻り腰掛けた。
私の診察をした後、サミー教諭の指示を受けた先輩が、スッと処置室の方へと消えていく。
微かにカタ…カタカタ…と音がし、引き出しを開けているのが分かった。
続いてゴト…ゴト…と響き、次第に音の種類が増え、音量も大きくなっていく。
バキッ!……バキバキ!!
バサッ…ゴト…ゴスン!!ゴスン!!ゴスン!!…
ゴリ…ゴリ…ゴリ……。
カタ…カタカタ……。
バキバキ……バキッ!!
こんな音が繰り返されている。
………本当に……何してるの………?
「もぉ~!そんな蒼白な顔しちゃって(笑)!心配しなくて大丈夫よ。」
振りあおぐと、サミー教諭の笑顔があった。
「すっ・凄い音がしてますけど……先輩は何をしているのでしょうか?」
会話のBGMは、ずっと続いているゴリゴリやバキバキなどの音。
何故かなぁ~・・・、
とっても心臓に悪い気がするよ。
「あらぁ~、そんなに気になるの?出来てからのお楽しみにしようかと思ってたんだけどね。まぁ良いわ、教えてあげる!!」
クスクスと含みの有りそうな小悪魔スマイルを振り撒かれる。
クールビューティーな外見からは、想像出来ない。
「とても答えは簡単よ。
魔法薬を作ってもらっているの。」
ビクッ!!と体が反応した。
まっ・・・魔法薬!!!!!?
凶悪な代物だって噂にたかい あの魔法薬!!?
サミー教諭の魔法薬の、効能は抜群に良い。
病気を完全に直せる訳では無いけれど、症状に合わせた的確な調合を行える為、効果が高くなる。
そんなスーパー魔法薬には、とんでもない大きな弱点があった。
それは、味・・・。
半端じゃなく
マ ズ イ !!
只ひたすら
マ ズ イ !!!!
口にしたら、涙が滲み出て、ショックで動けなくなっちゃう、もぉ、薬だか毒だか分からない・・・そんな代物。
まだ一度も口にした事は無いけれど、こんな悪名高い薬、噂だけで十分です!!!!
サァー…っと血の気が引いていく。
ゴリ…ゴリ…ゴリ…ゴト…バキッ…ゴスン…ゴスン…ゴスン…。
まだ終わらない作業の音が脅迫している様に感じ、真っ青になって表情を強張らせた。
私の視線の先には、サミー教諭がいて、じっと様子見をされていた。
浮かべる表情は私とは正反対。
「ふふっ…リタさん、固まってしまったわね。
と言う事は、私の魔法薬の噂を知っているのね。」
ハイ…知っています…。
声に出来ずに胸の内で答える。
ぎこちない笑顔を向けながら………。
サニー教諭が私の頭をサワサワと撫でる。
「貴女用の特別薬よ。もう少しだけ待ってね。」
とっ、特別薬!?
それって…普通より不味いって事!?それとも緩和されているって事!?
一体どっちぃ~!!!
暫くの後、響いていた作業音が止んだ。
ザッ、ザッザッと何かをかき集める様な音の後、先輩がサニー教諭に声を掛ける。
「教諭、準備出来ました。確認をして頂けますか。」
教諭は ハイハイ と呟きながら足取り軽やかに作業室に向かって行く。
コトっという音の後に先輩の声が続く。
「これだけ出来ました。」
「見せてもらうわね。
・・・・・・それぞれの擦り具合は、・・・うん大丈夫ね。・・・合わせは・・・まだ甘いけど、許容範囲よ。次は、もう少し丁寧に合わせをしてちょうだい。」
「はい。申し訳ありません。」
先輩の声のトーンが幾分か下がった。
「さて、肝心の材料は何を使ったのかしら?」
気になった。
私が聞いていても、全く分からないけど、でも気になって仕方がないから、またベッドの上から、そぉーっと降り立つ。
今度は立ち眩みも無い。
カーテンの影から、処置室の様子を覗き見る。
向かって左側に窓があり、養護教諭の机・高さの低い書棚など書類関連の物が纏まっている。
中央に衝立で囲われた空間があり、診療ベッド等診察に必要な諸々。
右側には棚が立ち並び、そこには薬品や薬草等が所狭しと並んでいる。
先輩とサニー教諭は、薬品棚の隙間に置かれた作業台と思わしきテーブルの前にいた。
テーブルの上にはすり鉢の様な物や何だか分からない道具、薬品・薬草が散らばっている。
サニー教諭の手には木製の器があり、中の物を指で確かめた後、ほんの少しだけ口に入れた。
「う〜ん…、ノビルキ草とラッカン茸・風鳥のミイラにアンテ石って所ね。」
「はい。仰る通りです。」
「ノビルキ草は疲労回復、ラッカン茸は精神安定、風鳥のミイラは目眩止め、アンテ石は睡眠促進
良い選択ね。良くできました。後は、月兎の涙を加えて薬の抽出をしてちょうだい。」
サニー教諭が示した物に先輩が疑問を返す。
「月兎の涙ですか?」
「ええそうよ。
月兎の涙には心力増強の効果があるの。
あの子は頑張り過ぎて、心力(魔力)が涸渇しかけているわ。
あそこまで消費してしまったら自然回復だけでは時間がかかり過ぎるの。だから薬でフォローしてあげないといけないのよ。」
先輩は制服のポケットから小さめのノートを取り出して、手早くメモを取っている。
ノートを制服のポケットに戻すと早速動き出した。
奥の棚に向かった為、私の視界から暫し消えた。
例の如く、カタ…カタカタ…と音を立てて、月兎の涙なる物を探している。
カタンという音の後に、先輩が棚奥から戻って来た。
その手には、小さな硝子瓶が握られている。
サニー教諭に硝子瓶を見せ、間違い無いか確認をしてから、ボールの中にほんの数滴投入した。
魔方陣を施してあるテーブルの一角にボールを置く。
先輩の耳にピアスの形で付けられている魔法石が淡い光を発し始めた。
共に魔方陣にも魔力が宿る。
ボールの中の素材を見つめ声をあげた。
「精練抽出!!」
ボールの中の素材が魔力を浴びて丸く一纏まりになり凝縮されていく。
濃い黄色の光に変換され、それが弾けると、ボールの中は黄土色の液体に変化していた。
ふぅ~っと息を着いた先輩はボールをサニー教諭に引き渡しす。
「抽出終了しました。如何でしょうか?」
「成功ね。問題無いわ。」
そう答えると、ボールの中身をカップに移しかえ、私の方に振り返った。
「リタさん、出来上がりましたよ。」
気づいていたんですね、私が覗いていた事に…。
ニッコリ微笑み、魔法薬の入ったカップを掲げあげられた。
手渡された魔法薬の入ったカップを両手で持ち、中身を恨めしそうに見つめる。
黄土色の液体は、見るからに不味そうで口を付ける勇気が湧かない。
うぅ・・・。
困ったなぁ。
目を泳がせると、先輩と教諭の視線とぶつかる。
二人から見られていれば、残念ながら飲んだふり なんて小賢しい真似など出来るわけもなく……。
こんな状態を既に10分以上続けている。
先輩が苦笑を浮かべ、自分の鞄に手を突っ込み、中で何かを探し始めた。
鞄のあちこちを探り、右前にあるポケットの中に目的の物があったようで手を引き出した。
握られた手の中に何かを納めたまま、私の目の前に付き出された。
・・・???・・・。
ニッと笑った先輩が手を開くと、3・4個の小さな塊が膝の上に落ちて来る。
それはカラフルな紙に包まれたキャンディー。
それらから目を放し、先輩を見上げた。
「流石に魔法薬は不味いからね、口直しだよ。」
自分が作った魔法薬を不味いとサラリと評価した。
良いのでしょいか…そんなんで。
けれど好意はしっかり受け取らせて頂きました。
ありがとうございます と礼を述べた後、再びカップに視線を落とす。
何度見ても・・・不味そう。
大きく溜め息を着き、意を決してカップに口を着ける。
煽るようにカップの中身を一気に飲み干した。
・・・・・・!!
魔法薬は未知の味でした。
辛くて、甘くて、苦くて、酸っぱくて、塩辛くて・・・その全ての味が一度に味わえるんです。
味覚が壊れたかもって心配してます、現在進行形で。
おまけに、舌が痺れます。
・・・これ・・・、
本当に魔法薬ですか?
毒薬の間違えでは?
喋ろうかと思ったけど、止めました。
呂律がまわらなさそうだから。
「大丈夫よ。心配いらないわ。良薬は口に苦し っていうでしょう。」
にこやかに言われたけど、良薬は口に苦し・・・良薬かもしれないけど、今のところ、苦し どころの状態じゃ無いです。
「もう一眠りして、目が覚めたら楽になっているわよ。」
ひとまず、信じときます。
魔法薬の効能でしょうか?
ぼぉーっとして来た私は再び眠りの世界に優しく誘われていった。
すっきりした感覚で目が覚めた。
パチって電源の入ったオモチャみたいだ。
体を起こしてみて、体調の変化を実感。
軽く感じる。
まだ多少の怠さが残っているけれど、体が楽になっていた。
あの毒薬もどきの魔法薬が効力を発揮しているみたい。
本当に良薬だった…。
体を起こしたついでに、立ち上がってみる。
床に素足を下ろすと、ひんやりとした石の冷たさが伝わって来た。
気持ちいい…。
隔てられている部屋の境に立ち、ゆっくりとカーテンを引き開ける。
処置室の中も静まりかえっていて、ただ、何かの書き物をする音だけが微かに聞こえてくる。
音の方向を見ると、窓際の机で溜まっている書類の山に取り組んでいるサニー教諭の姿があった。
今のところ、他には誰も居ない。
窓から見える外の様子から、もう夕方になりつつある事が分かる。
サニー教諭の邪魔をしない様にソロリと歩き出す。
薬品棚や作業台のある場所から診療ベッドのある囲いの中。
覗き込める場所は全て確認した。
でも、レンは何処にも居ない。
いつも五月蝿い位まとわりついてきていたのに、こんなに長い間側に居ないなんて…。
本当に珍しい…。
ふぅーっと息を着く。
ほぼ同時に下校を促すチャイムが鳴り響き、今日のカリキュラムが終わった事を知った。
あーぁ…、結局、学舎には来たけれど一日中保健室の住人かぁ…。
あうぅ、意味がないな。
今日は反省点ばかりが目につく。
診察用の丸椅子に腰を下ろし、クルクルと回転した。
椅子のあげる軋んだ音が部屋の中を駆け巡る。
そんなに大きな音では無かったのに、響きあい反響し合う内に、いつの間にか確りとした音に成長していた。
カタリっという音が鳴り、椅子を引き摺る音が続いて聞こえてきた。
多分、筆を置き椅子から立ち上がった音。
結局、サニー教諭の邪魔をしちゃったなぁ。
そう思っていると、仕切りの向こうから、当人が顔を覗かせた。
「顔色が随分良くなったわね。」
穏やかな表情を見せながら教諭は隣の椅子に腰を落ち着けさせた。
「見るかぎりには体調は回復したみたいだけど、実際はどうかしら?」
「はい。見た目通り体調回復しましたって感じです。
すっごく体が楽で軽いんです。」
私の答えにサニー教諭が、ウンウンと頷きを返してきた。
「ちゃんと薬が効いたのね。良かったわ。」
ニコッと笑んでいた顔をキュッと引き締め、サニー教諭は、でもね っと言い始めた。
「リタさん、あまり頑張り過ぎない事。ここ数日ほとんど睡眠を取って無いでしょう!!」
きつい口調で問われ、首を竦める。
実際に言われている通りなんだから何も言えません…。
ハハッ…っと誤魔化し笑いをすると盛大な溜め息を着かれた。
「もっと自分を労りなさい。今回の不調は、寝不足と魔力の使い過ぎによる涸渇から来ているんですよ。」
み、耳が痛い話。
・・・ん?・・・。
「魔力の涸渇?」
サニー教諭が頷く。
「魔力は無限じゃないのよ。ある程度は睡眠によって回復するけど、使い過ぎると涸渇して、体に不調をきたすわ。人によっては生命活動に影響を及ぼす場合もある。授業の始め頃に睡眠と魔力についての授業があったはずよ。」
確かに…。
何度も何度も睡眠を取れと言っていました。
魔法師の一番の義務は、質の良い睡眠を取る事だぁ!!なんて言ってたかな…。
あまりの熱血指導に気持ち引いちゃた感じだったあの授業かぁ…。
ちゃんと聞いていたとは言い難い・・・。
「・・・・・・。」
返せる言葉が見つからず、上目遣いで教諭の様子を伺い見る。
何とも言い難い空気が生まれた。
渋い顔をして右手で額を支えるサニー教諭が、どうしようかと頭を悩ましている。
「貴女には面白くないツマラナイ授業かも知れない。
だけどね、今のこの時期に習う事は、本当に大事な事ばかりなのよ。
今回の事で身に染みて解ってくれたと思うけど、今までに習った事や此れから習う事を確り身に付けないと、また同じ事の繰り返しよ。
次も大丈夫という保証は無いのだから、気をつけなさい。」
「はい。」
小声に成ってしまったがハッキリとした返事を教諭にかえした。
しかし、では、私はどうしたら良いのだろう。
ただガムシャラに頑張るだけでは駄目だった。
頑張れば頑張る程、魔力はコントロールを失っていった気がする…。
何時までも、不発になるか手のひらの上で爆発を引き起こすかの どちらかでは駄目なのに…。
維持が出来ないと、誓いの石に魔力を注げない……。
注げなければ魔法師に成れない。
一人考え込み、出口の見えない思考の迷路をさ迷い始めたが教諭の苦笑する気配に気付き現実に引き戻された。
「反省する事は大切。
悩む事だって大切よ。
でも悩み過ぎるのはお薦め出来ないわ。」
見上げる私の視線を受け止め、サニー教諭はユックリと頭を撫でる。
「行き詰まってしまったのなら、誰かに相談しなさい。
思ってもみなかった答えが帰ってくるかもしれないでしょう。
良い答えを貰えなかったとしても、話した事で気持ちが楽になる事もあるわ。」
教諭の言葉にコクコクと頷きを繰り返す。
でも、何も言葉には出来なかった。
貴女も難儀な子ね っと呟いた教諭は椅子から立ち上がる。
「さて、リタさん、お腹空いたんじゃない?」
ガラリと雰囲気を変えて言って来る。
言われてお腹が刺激されたのか急に空腹を感じた。
素早く反応したお腹が、直ぐにクゥ~っと鳴る。
お腹の音が鳴るのは恥ずかしい…。
聞こえて無いよね?
視線をさ迷わせたが、教諭と目が合ってしまう。
「悪いけど、ご飯になる様な物は無いわよ。」
聞こえていたポイです。
「有るのは果汁飲料とチョットしたおやつだけね。」
そう告げると薬品棚に隠れるように置かれているクールチェスト(魔法石が埋め込まれた箱に常時発動の氷の魔法陣を書き込んだもの。)に向かう。
扉を開けて中の物を取り出す音がしたので、手伝いに歩み寄った。
「手伝います。何をしたら良いですか?」
私の申し出に、ありがとう と返した教諭は2棚前を指差した。
「そこの棚にカップがあるから、2つ取って作業台の上に置いてくれる?」
指差された棚に目を向けると、他の棚よりも幾分か細身の棚があり、その中段辺りに幾つかの木製カップが置かれている。
「はい。」
返事を返し棚に向かう。
カップに手を延ばし取ろうとしている私の視界に仄かに明るい物が入り込んで来た。
ん?何だろう…。
カップを手に持ち、目を仄明るい物に向ける。
そこには一台のカメラが映像再生のまま置き去りにされていた。
立体映像の写真が一定の時間写し出されては、次の映像に変わっていく。
その映像を見て、誰のカメラなのか分かった気がする。
全てが寝相の悪いレンの映像。
これでカラカワレタんだろうな…。
取り敢えず、レンが今いる場所の予測が着いた。
多分、ライン様と一緒ね。
後で迎えに行かなくちゃ。
帰れなくなってるのかもしれない。
レンが迷惑そうに、でも何処か楽しそうな様子が思い浮かぶ。
文句言う割には仲が良いんだよね。
カップを作業台の上に置き、目は再びカメラに向けた。
ちょうど怒った顔のレンの映像が移り変わった所で、次に写された映像はレンの姿では無かった。
明らかに数年前の映像で、この学舎の制服を身に付けた3人の人物。
満面の笑顔で写っているのは、まだ幼いライン。
黄金色の髪が、まだ襟首迄しかなく、チョットはにかみ笑顔で写っているケイト。
そんな二人に挟まれた黒髪と黒い瞳の少年が不服そうな表情で写っている。
その少年の顔を見て、激しい衝撃を受けた。
この映像の中の少年を私は知らない。
でも数年後の成長した姿の奴ならば、知っている・・・いや、忘れられない。
食い入るように見つめる視線の先で、唐突に映像がプツリと途切れた。