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7/2 断章その1

 

 ぼくはちょっと疲れた中年男になったらしい。

 仕事がうまく行かなかったり、好きで時々会っていた女性に会えなくなったり、そんな感じだ。

 みんな、恋人と別れなければならなくなった時にどうしているのだろうか。

 それには人それぞれの流儀があって、大声で怒鳴り合ったり、なぐり合ったりする豪快なカップルもいる。

 それは極端な例で、ぼく自身はというと女性と喧嘩するのは苦手だ。

 もちろんそんなことをする必要はなくて、話し合って納得して別れていくとか、なんとなく会わなくなるとかでいいと思うのだが、どうもそうはいかない。

 結婚してずっと一緒にいるというのでなければ、そのほかの状態は何になるのだろう?

 いったい何を指して別れるというのか?

 ちょっと疲れた中年男は、いまさらそんなことを考えている。


 コトミに言いたいことはいくつかあったけれど、それは最後まで言わなかった。

 言えなかったというか……そういうことは自分の中で留めておかないほうがいいとアドバイスしてくれる人はいる。

 けれど、ある種の女性に対しては、口に出してしまったらオシマイだという種類の事柄がある。

 それをわざわざ言うくらいだったら、黙って離れていったほうがいいのだ。

 そういう判断をぼくがして、彼女からも特に連絡をしてこないから、ぼくたちは別れたのだろう。

 あるいは、最初からそこまで繋がりがなかったというべきか。


 コトミは、何度かそういう経験があったからなのか、会って楽しいうちは会っていればいいので、お互いに文句を言いはじめるようになったら終わったほうがいいのだという簡単な結論をもっていた。

 まだつき合い始めの時に何度か、警告か呪文みたいにそう言われて、それは軽い冗談なのだろうと思っていた。

 そうではなかったらしい。

 つまり、こういうことを考える前に会いたくなり、会いに行くのが自然なので、それができなくなったのなら、確かに終わっているのだろう。

 ぼくはただ彼女のそういう強さとある種の賢さに対して、やれやれと溜息をついているだけなのだと思う。


 正直に言うと、ぼくはいろいろなことを決して忘れないと思う。ただ慣れていくだけだ。

 毎日のように会っていた時期には言葉もいらなくて、ずっとそこにあるのだと思っていた彼女の髪の匂いや息づかいや仕草が、頭の中でだんだん遠い幻みたいになっていくのに、慣れていく。

 それは影を薄くしながらぼくの一部分になっていく。

 ついでに言ってしまえば、そうやって別れてこなければいけなかった何人かの女性がぼくの中には棲んでいる。

 それが、良くも悪くもいまの自分を形作っている部分はあるだろうと思う。

 女性の場合は、どうなのだろう?

 ぼくのいま現在の見解からいくと、女性は、恋愛の残骸にはあまり興味がないようだ。


 世にもナサケナイ文章を書いているような気がして、ぼくは一休みし、コーヒーをいれて飲む。

 やけ酒は飲まない主義だし、その気力も正直、ない。

 ぼくは、長い月日をかけてコトミとの関係をつくってきた。

 これからは、同じ時間をかけてそれをしまい込んでいくしかないらしい。

 本当は……愛されないくらいなら憎んでほしいとか、傷ついたっていいじゃないかという「濃い」感情もぼくにはあるのだが、それはやはり隠しておかなければいけないようだ。

 コトミに「大人げない」と言われてしまう。最後にそう言われたのだ。


「世にもナサケナイ文章」なので小説にはなりませんでしたw

「夜の鳩、月の熊 〜夢の更新 Phase3〜」第5話は7/2の21時に投稿です

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