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ステータス更新

「……騒がしいな。何事だ」


 その場の空気を一変させるような、重厚なバリトンボイスが響いた。  人垣が割れ、奥から現れたのは、白髪交じりの短髪に眼帯をした巨漢――この『銀の羅針盤』を取り仕切るギルドマスター、グスタフだった。  元Aランク冒険者である彼の威圧感に、騒いでいた冒険者たちが一瞬で静まり返る。


「ギ、ギルドマスター……!」 「ルナ、状況を説明しろ」


 グスタフの鋭い視線に、ルナが背筋を伸ばして報告する。  Gランク冒険者レンの帰還。Bランク魔物のソロ討伐報告。そして、『暁の牙』による虚偽報告と傷害の疑惑。  すべてを聞き終えたグスタフは、カウンターに置かれたレッドベアの生首と、青ざめているゲイルたちを交互に見やった。


「なるほど。状況は理解した」


 グスタフはレンの前に立ち、その巨大な手でレンの肩を掴んだ。


「小僧。いや、レンと言ったか。……いい目をしている」 「ありがとうございます」 「だが、ギルドは証拠と数値がすべてだ。魔物が本物でも、お前の実力が伴っていなければ『誰かが倒したものを横取りした』という疑惑は晴れん」


 グスタフは顎でカウンターの横にある大きな水晶板をしゃくった。


「ステータスボードだ。更新しろ。お前の『現在地』を見せてみろ」


 それは、公開処刑にも、英雄の誕生にもなり得る命令だった。  レンは無言で頷き、懐からギルドカードを取り出す。  かつては「固定:Lv1」とだけ書かれた、恥ずかしいカード。  だが今は、確かな重みを感じる。


 レンが水晶板にカードをかざすと、ブゥン……という音と共に、水晶が青白い光を放った。  空中にホログラムのように文字が浮かび上がる。


【氏名】 レン 【年齢】 16 【ランク】 G 【レベル】 2 → 24


 表示された瞬間、周囲から「はあぁ!?」という素っ頓狂な声が上がった。


「レベル24!? 一気に20以上上がったのか!?」 「レベル20代っつったら、もうDランク……いや、Cランクの一歩手前だぞ!」 「レッドベア一匹の経験値を一人占めしたからか……それにしても上がりすぎだろ!」


 レベルアップによる身体能力の向上。レンが感じていた「体が軽い」という感覚は、これだったのだ。  だが、真に注目すべきはそこではなかった。  グスタフの目が、スキル欄の一行に釘付けになる。


【スキル】  『空間固定(Spatial Fix)』 Lv.1   ・座標固定   ・状態固定   ・自動展開シェルター


「『空間固定』……だと?」


 グスタフが驚愕に目を見開く。  かつて「コップを固定する程度」と書かれていたゴミスキルは消滅し、見たこともない文字列に書き換わっていた。


「おい、なんだそのスキル名は」 「聞いたことねえぞ。ユニークスキルの進化か?」


 ざわめく酒場の中で、レンは冷静に自分のステータスを見つめていた。  (……やっぱりだ。スキル詳細が増えている)  実は、表示されている以外にも、レンの目には自分だけに見える詳細ウィンドウが開いていた。そこには『心臓固定』『血液操作』といった、あまりに物騒な派生スキルの可能性が示唆されている。


 (これを全部見せるのはマズいな)


 レンは心の中で判断した。  手の内をすべて晒すのは愚か者のすることだ。特に、こんな注目されている状況では。


「……死にかけたショックで、スキルが少し変質したみたいです」


 レンはさも「自分でもよくわからない」といった顔をして、グスタフに向き直った。


「前の『固定』より、ちょっと範囲が広がったというか。空間に物を置けるようになっただけですよ。便利ですけど、地味なのは変わりません」 「空間に物を置く、だと? ……ふん、とぼけおって」


 グスタフは鼻を鳴らした。歴戦の猛者である彼には、レンが何かを隠していることなどお見通しのようだ。  だが、彼はそれ以上追求しなかった。


「合格だ。文句のつけようがない」


 グスタフはゲイルたちの方へ、ギロリと殺気を含んだ視線を向けた。


「さて、『暁の牙』。Gランク相手にイキがっていたお前らのレベルは、せいぜい15前後だったな?」


 レベル24のレンと、レベル15のゲイル。  もはや実力差は歴然。  ゲイルはガタガタと震え、後ずさりする。


「ち、違うんですマスター! これは何かの間違いで……!」 「見苦しいぞ! これだけの証拠を突きつけられて、まだ言い逃れをする気か!」


 グスタフの一喝が雷のように轟く。


「虚偽報告、および仲間への傷害行為。……相応の『裁き』を受けてもらうぞ」


 その言葉は、彼らの冒険者人生の終わりを告げる死刑宣告だった。  レンは無表情のまま、カードをポケットにしまう。  もう、彼らを見る必要さえない。  なぜなら、彼らはもうレンの視界に入る高さ(レベル)にはいないのだから。

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