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申し訳ありませんが、結婚してください  作者: 命知叶


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茶話会 2

これがやりたくて「カハータ公国」にしました‥出来心が抑えられませんでした‥。


居丈高に早口でまくし立てるテルエラに、メリッサはなるほどそういう解釈になるのか、と冷静に考えていた。

正直、庶民の中で暮らし貴族の横暴にもそれなりに対処してきたメリッサにとって、失礼な振る舞いや侮蔑を含んだ態度で接せられても、精神的にそこまでダメージは受けなかった。どちらかと言えば、この後カリーナや作法の先生(見えないところで見ていますよと笑顔で言われている)に叱咤される方がよほど恐ろしい。彼女たちはメリッサのことを思いながらも笑顔でじりじりと詰めてくるので。

というわけで、このようにまくし立てているテルエラを見てもメリッサの心中では(何て言って対応すれば一番叱られないですむだろうか)としか考えていなかった。

こういったメリッサの精神の強さは、イズリーシュをはじめとする東宮の者たちにとっては、予想外ではあるが喜ばしいものだった。


メリッサがうーんと対応に苦慮していると、ばちり、とジェスリア公女が扇子を閉じる音がした。

「‥内憂外患という言葉もございますが‥このままでは内憂の方が大きくなりそうですわね、メリッサ様」

メリッサはびくり、と背を震わせた。将来この帝国を背負うものの配偶者であればこの程度の内憂は振り払えるべきではないか?

ジェスリア公女の言葉からはそのような裏が読めたからだ。メリッサはゴクッと唾を飲み込んだ。


「‥ジェスリア公女殿下、カハータ公国の属国加入についてはご検討進んでおられますでしょうか?」

メリッサは唯一持っているカードを切った。ジェスリア公女が眉を少し上げる。


カハータ公国は歴史も古く、優れた文化も発展している国ではあるが、カハータ鉱石を狙う近隣諸国との折り合いが今はあまりよくない。もともと芸術肌の国民性で軍事力に長けているとは言い難いカハータ公国を、軽く見る国が近隣に二国ほどあるのだ。

現在、カハータ国はアイシュタルカ帝国の同盟国として位置づけられている。同盟国は飽くまで対等、条約など結ぶときも公国単体で結ぶ必要はあるし、軍事行動を起こされた時にはまず自国で抗いながら同盟国への助けを願わなければならない。

だが、そこまで人口が多いわけでもないカハータ公国の軍部は、四分の一が傭兵頼みで国防には向いていない。

そこでこの一年ほど、属国という形でアイシュタルカ帝国傘下に入るのがいいのでは、と二国間で協議をされているのだ。ただ、近年アイシュタルカ帝国はその版図を大きく拡げており、諸外国にも警戒はされている。その上カハータ公国を属国にして貴重な鉱石を自由にできるとなれば、それを嫌がる国家は数多(あまた)出てくるだろう。

そのあたりの折衝をしている、という話を、この茶話会に当たり聞いていたのだった。


ところがジェスリア公女はくるりと向きを変え、まだ近くで踏ん張っているテルエラの方に視線を向けた。

「ところであなた、侯爵令嬢とのことですが、このことについてはどうお考えで?お伺いしたく存じますわ」

ぴたり、とテルエラに視線を定め、形のいい唇を笑顔に形づくる。

唐突に話題を振られたテルエラは、わかりやすく慌てふためいた。

「え?何ですって?‥何のお話でしょう?」

ククッと喉奥で小さくジェスリア公女が笑うのがメリッサにも聞こえた。ジェスリア公女は言葉を区切るようにしてテルエラに話した。


「わがカハータ公国が、アイシュタルカ帝国の、属国傘下に下ることを、あなたはどうお考えになりますか?と、お尋ね申し上げました」

まるで幼児にでも話しているかのようなその口調に、テルエラは怒りで顔を紅潮させた。

‥たかが小国の公女風情が偉そうに。身の程というものを知らないのだわ。

テルエラは頬に手を当ててふん、とばかりに顔を振り上げた。


「カハータ公国側が栄光あるアイシュタルカ帝国の傘下に加われることこそが、栄誉ではございませんこと?きっと、公国の生活水準も上がるのではないでしょうか」

テルエラはそう言ってふっと嗤った。


まずいぞ。

メリッサは思った。

国としての歴史ならアイシュタルカ帝国の成り立ちよりカハータ公国の方が随分古い。その分、文化水準も高く、知識層も厚いのだ。カハータ公国の弱点と言えば人口が少ないこと、そして国民の気質に尚武を特に重んじる者がないことからくる軍事力の弱さでしかない。生活水準、というなら、普段の生活に使われる様々な魔法力適具は多くがカハータで特許を取っているのだ。生活水準をあげてもらっているのは、こちらの方である。


「メリッサ様は、我が公国が属国に下ることをどのようにお考えですか?」

ジェスリアが輝く紅い瞳でメリッサをまっすぐ見つめる。メリッサは、この情報を聞いた時に感じたことをそのまま述べることにした。この、鋭い視線の持ち主である公女は、生半可な答えでは満足しないだろうと思えたからである。


「僭越ながら、公国軍の四分の一を傭兵で賄うというのはやはり国防上得策とは言えません。私としては属国として我が帝国傘下にお入りいただいた方がよいかと思います。‥カハータ鉱石の利用については諸外国の懸念もございますでしょうから、属国加入とは別に議論がなされるのではないかと。無論、この鉱石に関わる産業が貴国の基幹産業でもございますし、ここを一番慎重に考えるべきかと存じます」


つまり、軍事力として帝国を頼ることはしつつも、基幹産業についてはもう少し詰めて自国に有利に取引をしてもいいのでは、とメリッサは言ったのである。

メリッサは王都生まれ王都育ちだ、王都には、帝国傘下の属国出身の自由民も多く住んでいる。彼らは帝国自由民の権利は享受しながらも、心の底では生まれた国への愛国心を忘れてはいない。そして、アイシュタルカ帝国も、属国民の愛国心を抑制するようなことはしていない。

契約を守り、税を納めるのであれば帝国民として遇する。アイシュタルカ帝国の属国への態度はひとえにこれに尽きる。この態度があるからこそ、帝国はその版図を拡げているのだともいえよう。


ジェスリア公女は侍女に扇子を渡し、すいっとメリッサの近くに寄ってきた。その距離の近さにメリッサが驚いていると、メリッサの手を取ってぎゅっと握りしめた。

「そーとうよかばい!うちぁこげな嫁のもらいたかったぁあ~~!」

そう大声で言ってきたジェスリア公女は、握ったメリッサの手をぶんぶんと上下に振った。

「あんた平民やったっちゃろ?そいでなんでこげんかことのようわかると?たいがい勉強ばしたっちゃろねえ!」


かろうじて帝国共通語ではあるが随分とカハータ訛りが強い。テルエラや他の令嬢、侍女たちはぽかんとしている。‥しかし、実はメリッサの義姉の実家はカハータ出身だったので、メリッサは間違いなくジェスリア公女の言いたいことがわかった。

「いえ、時間もいただきましたし素晴らしい講師の先生方も教えてくださいましたので‥」

メリッサの返答を聞いて、ジェスリア公女は目を丸くした。

「あんたうちらの言葉んわかると?なして?」

「あ、あの、義姉の家族がカハータ公国ゆかりの者でして‥」

「いやほんと?ばりうれしか~!ほんなこついい付き合いのできそうたいね!」

「はい、ぜひ末永くよろしくお願い申し上げます」


二人がそう会話を交わしていると、ジェスリア公女の侍女が後ろでンンッと咳払いをして小声で公女を窘めた。

「殿下、内々の会とはいえ公の場です、共通語でお願い致します」

「‥わかっております。‥メリッサ様、有意義な会話をありがとうございました。我が公国と帝国の優秀な大臣、官吏たちがきっと良いように計らってくれることでしょう。‥私個人としても、これから帝国とよい付き合いができることを期待しております」

今までの言葉の勢いが嘘のように、ジェスリア公女は淑やかに述べて一礼した。メリッサも礼を返す。


そしてちら、と公女はテルエラを見た。

「侯爵令嬢などという高位貴族であれば、自国の国際的状況は当然に把握しているかと思っておりましたが‥まあ、どこにでも程度の低いものは一定数おりますものね」

低く、だがよく通る声でそういうと、ほほ、とつつましく笑ってその場を後にした。


少し離れた場所で、テルエラたちを見て小さく笑っている貴族もいる。そもそも、十代を中心に集められているのに、二十歳を過ぎてなおこの場に参加しようと色々画策していたことも、他の貴族たちは知っていた。だからこその嘲笑でもある。

アラゼン侯爵が東宮官長を更迭されたその理由は、詳しく官報でも発表されている。それを、まるでメリッサが言いがかりをつけたような言い方をしていることも、嘲笑の原因であった。


ここに来てようやく、テルエラは自分の置かれている状況を呑み込むことができた。と言っても、あくまで自分の言いようにしか解釈できない、彼女なりの吞み込み方であったが。

「なっ‥帝国の侯爵息女である私にそのような物言いをなさるとは!帝国の作法をご存じないのでしょうね」

そう言い捨てて肩をそびやかし、その場から去ろうとして何故かテルエラは「あっ」と小さく声を上げた。そして腕を押さえながらきょろきょろとあたりを見回す。付き添いの侍女が素早くテルエラの傍に寄り「いかがなさいましたか?」と問いかけた。


「‥何でもないわ。行きましょう!」

そう言って、連れであった三人の令嬢とともに小広間からも去っていってしまった。辞去の挨拶もなく出て行ってしまったことに、他の貴族たちはまたひそひそと話をしているようだ。

メリッサは、特にテルエラ達を貶めようと思っていたわけではなかった。見方もいない代わりに敵もできるだけ作るまい、と臨んだ茶話会であったが、やはりなかなか思うようにはいかない。

気を取り直してお茶を飲んでから、近づいてきて控えている次のグループに話しかけた。


お読みくださってありがとうございます。


ネイティブから離れてかなり経っているので、なんか違う、というところがあっても見逃してください‥。

また、最終話まで投稿完了致しました!このお話を入れて残り五話になります。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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