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1月8日 マルファーレンス帝国にて

「ようこそ、ヒカル殿。その鎧、お似合いですぞ」


 マルファーレンス帝国総軍務隊長であるフレグ・カドラスはそう言って光を出迎えた。なお、相手の鎧を褒める事はマルファーレンス帝国における賛辞の一つである。


「フレグ殿の様な貫禄はまだ出せませぬが。本日はよろしくお願いいたします」


 光の纏った鎧は当然新品……フレグの様にそれなりに使い込まれて味が出てきた鎧ではないので、光はそう返答した。フレグはフレグで貫禄があると自慢の鎧を褒められたために機嫌をよくしている。


「いやいや、こちらの伝統を尊重し合わせてくれる行為は実に素晴らしい。我々もそちらに向かう時にはあなた方の鎧と言えるスーツなる服を仕立てなければなりませんな」


 と、そんな滑り出して、友好ムードを漂わせながら話は始まった。


「では、ヒカル殿に来てもらった所で話を始めよう。題はもちろん残り2年を切った我らが王都に落ちてくる神々の試練をどう乗り越えるか、だ。しかし、悔しいが我々には何の対抗手段もない。逃げ出して人命だけは守るのが精いっぱいといった所なのだが……」


 そこで言葉を切ったフレグ……だけでなく、この場に集まったマルファーレンス帝国の重鎮たちが光に目を向ける。その目は期待と祈りが入り混じった色をしている。


「では、こちらが計画している内容を説明いたします。言葉だけではなく、直接目で見ていただいた方が理解しやすいと思いますので、画像を交えつつどのような作戦を立てているのかをご覧いただきます」


 日本皇国が立てた『ヒューマン・トーカー(人の答え)作戦』は、大体このような形となっている。まず、宇宙に上がる機体と地上に残る機体に分ける。宇宙に上がった機体はこちらに迫ってくる隕石を銃撃や近接武器によって細かく砕き、専用のビーム砲撃によって文字通り消し飛ばす。


 地上に残った機体は、宇宙部隊が取りこぼして大気圏に突入してしまった隕石を、地上からこれまた専用に作り上げる予定のマグナムキャノンにて木っ端微塵にする。落ちてくる隕石の位置や速度などは宇宙の部隊と共に上がる専用のスポッター役が地上部隊に落下を知らせると同時にマーキング。地上部隊はマーキングの指示に従ってマグナムキャノンを撃てば命中する。マグナムキャノンは口径を大きく作るので、多少ずれても問題はない。


 また、宇宙には大和を、地上には長門を向かわせる。火力があるのが大和で、砲撃の精密さでは長門が勝るという結果を鑑みての物である。この2隻の援護があれば、宇宙、地上両部隊にとって一定の負担軽減が望めるという計算結果も出ている。


「という形で、我々はやってくる神々の試練に立ち向かおうと考えております。質問は当然あるでしょうから、受け付けます。どうぞ」


 早速手が上がり、光が「どうぞ」と発言を促す。最初の質問はこれだった。


「この宇宙なり地上なり派遣される鋼鉄の戦士達についてだが、我々用の機体の製作と参戦は間に合うのか?」


 この問いに光は頷いてから、一枚の資料を取り出す。


「こちらの予定に大きな後れさえ出なければ、来年の8月ごろに調整を終えた機体がロールアウトする予定になっています。この予定を予定通りに達成するためには、マルファーレンス帝国の皆様を始めとした3国の物資の支援と、研究者と乗り手となる戦士の皆様方の協力が必要となりますが、この点はご容赦願いたい所です。


また、こちらの戦士の皆様の訓練用に調整した鋼鉄の戦士を動かす練習ができるシミュレーション筐体も今年中に完成させます。その筐体で感覚を掴んでいただき、特に成績が優秀な戦士の皆様に実物に乗っていただく形となります。また、そのシミュレーション筐体の方でもデータを取らせていただき、皆様がより動かしやすいように改善を重ねる予定となっております」


 来年か、という呟き。それと事前に訓練が出来るならありがたいという声が上がる。そこで口を開いたのはフレグである。


「うむ、この辺りは実際に日本皇国がこちらに来る前に生きていた地球と言う所で行われた最後の戦いに参戦した戦士達の意見も積極的に聞くようにしている。実際に鋼鉄の戦士に乗って戦えた者からの言葉もあるからな、そちらをヒカル殿にも伝えておこうと思う。


その者曰く『操縦がまだ難しい、もっと簡単に手足のように動かせれば助かるのだが。しかし、この戦士の強さに関しては一切の疑いを持っていない。私では不可能な高威力の遠距離攻撃を可能とし、重い機材だろうが荷物だろうが容易く運ぶことが出来るのは実に素晴らしい。操縦さえ容易くできるようになるのであれば、神々の試練に立ち向かえるという実感がより強く湧くだろう』と言っていたな。先日光殿が直接鋼鉄の戦士に乗ってこの国にやって来てくれたことで、そういった搭乗経験がある戦士達の声に重みが増している」


 フレグの言葉に、マルファーレンスの重鎮たちが頷く。光が実物を見せたことにより、地球にやってきて共に戦った搭乗経験のある戦士達への質問をする人は確実に増え続けている。乗った感想だけではなく、神々の試練に立ち向かえるのか。勝ち目を見いだせるのか、などの質問が多い。


「次は私が。支援物資が欲しいとの事でしたが、それは日本皇国がこちらに来る前に要求した物と同じでよろしいのでしょうか? それとも何か他の物資を欲していますか?」


 支援物資についての質問に光は──


「現状では、以前皆様に頂いた物資と同じものを要求する事になると思います。後は研究が進めば何か他の物を要求する事になる可能性はありますが、現状ではその辺りはまだ何とも言えません。特に乗り込むことになる戦士の皆さんの操縦しやすさを求めた結果必要となった場合は、申し訳ありませんが都合をつけていただきたいと申し上げておきます」


 現状ではあるが、新しい資材が欲しいとは言われていない。まあさすがにこちらにやって来てまだわずか数日、新しい物を試すにしても時間が足りなすぎる。だから、光は将来は要求する可能性があると言っておく他ない。だがあくまでこれは神々の試練に立ち向かうための必要経費。少々厳しくても将来を見据えて飲んでもらう所は飲んでもらう他ない。


「ふむ、操作がしやすくするためだったり、神々の試練に立ち向かいやすくするためのより良い盾と矛を生み出すためにさらなる素材を必要とする可能性は確かにありますな。その時は遠慮なく申し出ていただきたい、神々の試練を乗り越えることが出来たならば、それは間違いなく我々にとって新しい時代への幕開けとなりますので」


 光へ質問したマルファーレンスの幹部はそう言って頭を下げた。光も「その時はよろしくお願いします」と返答を返しておく。


「この鋼鉄の戦士なのだが……神々の試練の時のみの貸与となると考えるべきなのかどうなのか、を伺いたい」


 この質問に、光は首を振る。


「いえ、人型をしているという事で、何らかの事故や問題が起きた時に柔軟に対応できる側面がありますので……これらはある程度の条件を付けますが、マルファーレンス帝国の戦士の皆様用に調整した機体はそちらに出向させることとなります。条件ですが、争いに機体を用いないようにするという点だけは外れる事は無いと思って頂きたい。あくまで作るのは神々の試練に立ち向かう為と、地震などの自然災害発生時に素早く救援に向かえるようにするため。人同士を争わせ、殺させるための存在ではありません」


 光が行った返答に、さらなる質問が飛んだ。


「すまない、さらに質問なのだが。闘技場で1対1で戦わせるなどの条件で用いる事も禁止となるのか?」


 投げかけられた質問に光はしばし目を閉じ……目を開けた後に返答を始める。


「そうですね、あくまで勝負を行いたいというだけであるならば禁止とは致しません。ですが、乗り込んだ戦士が死ぬような事になっては困ります。一定のダメージ、人ならば致命傷を負ったと判断されるレベルまで行ったら強制停止し、停止した方が負けであるなどの一定のルールを作り、それに則って行うのであれば容認できるかと」


 戦士に戦うな、というのは無理がある。なので、妥協点を光は提案した。要はボクシングやプロレスの様に一定のルールを作って死者をできるだけ出さない様にする。むろんそれでも死者が出てしまうときはあるのだが、何も設定しないよりは遥かにいいはずである。


「ええ、こちらとしても闘技場で戦うのはお互いの強さを磨き合う為であって命を奪う為ではありませんからな。死者が出ない領域を設定するのはこちらとしても異論はありません」


 光の提案に反対意見は出なかった。その他いくつかの細かい話し合いを挟み、言葉だけではなくお互いが正式な形で文章を残し条約を締結、ここに正式な形で日本皇国とマルファーレンス帝国の同盟、協力体制が成立した。何時の時代でも、重要な物は筆記形式で残すのである。


「さて、話もまとまりました所で晩餐会へと移りましょう。光殿もたくさん食べて飲んで、これからの戦いに備えて英気を養って頂きたい」


 フレグの言葉に皆が頷き、場を移す。晩餐会会場に到着し、ここでガリウスとフルーレが合流。いくつかの挨拶の言葉を交えた後に晩餐会が始まった。

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