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7月6日

今回はいつもよりエグい部分があります、注意を。

「総理、総理、大変です、一大事です!」


 その日の昼にそんな大声を上げながら、総理官邸に1人の男が息を切らせつつ飛び込んできた。 仕事をしていた人たちは一体何事かと顔を曇らせた。


「何事だ、報告を聞こう!」


 総理、一大事ですと言う言葉が直接聞こえる距離に、たまたま近くにいた光がやってきた男にそう告げた。


「太平洋に空母三隻! 護衛のシールド艦10隻! その傍に付随している駆逐艦多数! 間違いなく日本に航路を向けております!」


 この報告に一気に慌しくなる総理官邸。 今の世界で船の需要はたった一つ、軍の戦力としてのみ必要とされている。戦闘機を運搬することや、巨大なレーザーキャノン、シールド代わりの巨大なミラージュ・フィールドを発生させるシールド専用艦などなど……移動する事が出来る基地としての使い道として、船は使われていた。


 周りが騒がしくなる中、光は内心時が来たと考えていた。KAMUIの初陣相手がやってきたからである。あの西村青年との約束もある。


「慌てる必要はない! 即時殲滅する手段は既にある、皆は普段どおりの仕事をしていればよい」


 その光の声に報告を聞いていた人達は落ち着きをやや取り戻す。


「今日一日だけ緘口令を敷く! 今日一日だけ、外の者に洩らすな!」


 落ち着きをやや取り戻した周囲の人達に光の声が届く。 今までの行動で信頼を寄せられている光の言葉に周りの職員達は頭を下げた。


 ────────────────────────


「如月司令、聞こえているな? そして情報も掴んでいるな?」


 自分の専用執務室に戻った光は、即座に如月司令に連絡を取った。


「当然です、のこのことバカがやってきたようですな」


 全て察しておりますとばかりに、如月司令は光に返答する。


「ならばKAMUIの初陣だ! 派手にやれ!」


「はっ、既に出撃準備は整っております」


 こうなるだろうと見越して、既に如月司令はそこまでの準備を進めていた。


「更に軍事衛星にも50分ほどハッキングを掛けて、KAMUIの能力を今は諸外国に見せないように処置いたします」


 光も同意した。まだKAMUIの存在を見せ付ける時期ではない。見せ付けるのはもう少し先でいいのだから。


「西村君と少しだけ話せないか?」


「大丈夫です、繋ぎましょう」


 光の要請に如月司令は答え、既にKAMUIに乗り込んでいた西村と対話できるようにした。


「西村君、聞こえているかな?」


 出撃命令を下され、闘志を燃やしていた西村 光一は一瞬あっけに取られた。 慌てて敬礼をする。


「こ、これは総理!」


 その姿を見て光は微笑ましい物だとつい笑いそうになるが、伝えねばならぬ事があるために気を引き締め直してから、西村に向かって口を開いた。


「もうそちらも把握しているだろうが、日本に向けて明らかに攻撃の意思を持つ連中がやってきている……」


 西村は光の声に頷く。その西村が頷いた事を確認した後に、光は命令を下す。


「司令からもすでに言われているかもしれないが、総理である自分が命令を下す。 敵兵を1人も生かして帰すな。完膚なきまでに全てを破壊せよ。 KAMUIの情報を現時点では敵国に与えてはならない。君のご両親を奪ったあいつらに情けは無用だ、責任は全て私が取る、君が気に病む必要はない」


 だが、この命令に対して西村は左右に首を振った。


「総理、私めに対しての気遣いは無用です。自らの手を血で汚す覚悟はできています。自らの業として背負っていく覚悟もできています。 ──ですが、ありがとうございます。必ずあいつらを完全に殲滅して参ります」


 その西村の返答に光は頷いた。


「では出撃せよ! 武運を祈る!」


「はい!」


 カタパルトが起動し、KAMUIを出撃させる準備を取る……ついにKAMUIの初陣となる太平洋上戦闘が開始された。 KAMUIに搭載されている重力コントロール能力で、カムイは重力方向を変化させる事により前に落下すると言う状況を作り上げつつブーストを噴かす。 あっという間に光陵重化学からKAMUIの姿は視認できなくなった。


 ────────────────────────


「提督、現時点では異常ありません!」


「うむ、常にレーダーの様子には注意しろ、念のためにな……」


 連合国の船団を預かる彼はそう部下に告げる。 各国の技術者があの日本が開発した防壁を突破するべく数々の予想を立て、幾つかの兵器を生み出した。その兵器を試し撃ちすること、もしその兵器が有効に働いてあのバリアを砕く事が出来たのならば、そのまま日本を占拠しろと命令を受けている。その際好きなだけ日本人を殺しても構わない、と言う指示も下されていた。皆殺しにしなければいい……と。


「提督、まだ日本は先です。この距離じゃどんな武器や兵器も届きませんよ。 それにあの立てこもるしか能がない連中が殆どなあの弱虫日本ですよ? 最初はあのバリアに面食らいましたが、今回はもう、新兵器でつついてやればあの国は簡単に倒れるでしょうよ」


 そう言って参謀は笑う。 確かにそうかもしれない……日本人をどうやって各国のプラントから不当に連れ去ったのか、その方法はいまだ不明だが、あんな小国、武器を大慌てで生産しても限界がある。 我々の船団は新兵器も多数搭載しているし、一網打尽に握りつぶせばいいだろう……。


 もし航空部隊なんかをある程度作れていたとしても此方のレーダーをごまかす真似はできないだろうし、もし近寄ってきても新型ホーミングミサイルであるゲイ・ボルグの餌食になる。 神話の時代を思わせる、撃ったら回避方法はないミサイルで日本の航空兵器など簡単に全滅させられる。


 そう考えて無意識にニヤリと提督であるその男は笑った……のがこの世の最後の姿となった。船のブリッジに直接何かが打ち込まれ、ブリッジにいた人間は全てが一瞬で塵と化したからである。


 ────────────────────────


「ニヤニヤと笑っているそのツラ、もうこれで永久にできねえだろう」


 連合船団の頭でもある提督のブリッジに弾を撃ち込んだのは当然ながらKAMUIに搭乗している西村だった。 重力コントロールにより、僅かに上に落ち続けるという状態にしており、遠くから武装の一つ、マギ・ショルダーカノンでぶち抜いたのだ。


「てめぇらは皆殺しだ。 俺の両親を食い物にしやがった連中と同じ国に生まれた事を後悔しろ……死ぬ順番が早いか遅いか、それだけだ」


 今回のオプションパーツである、マイクロ・グラヴィティーボムを射ち出し、小さいながらも相手を握りつぶすと言う表現が適切という、命中した相手の中央に超重力を集中させてぐちゃっと潰してしまうミサイルを、遠慮なく連合の船団相手に対して大量にばら撒いた。 スクランブルで飛び立ったが故に真っ先にそのミサイルを受ける名誉を得てしまった戦闘機は、一瞬で丸い鉄のスクラップにされた後に爆発して四散した。 その戦闘機だけではなく、ミサイルが命中したあちこちの場所で醜いオブジェがいくつも生み出されていた。


「この程度じゃすまさねえ……」


 すかさず西村は、メインウェポンのマギ・マシンガンにて攻撃を続行する。 慌てて船団のシールド担当船は巨大なミラージュ・フィールドを展開し、後ろの船団を守ろうとした。 だが、数発のマギ・マシンガンから撃ち出された弾を受けたミラージュフィールドはあっけなく過負荷に陥って消失し、消失した所を容赦なくマギ・グレネイドを投げられ、船も船の乗務員も一瞬で地球から消滅する運命を共にした。


 当然連合船団の方も西村が動かしているKAMUIに対して攻撃をしているが、戦闘機とは違い、左右にも動き後退も可能、なおかつシールドを持つKAMUIに有効な一撃を与える事が出来ない。 一方のKAMUIはマギ・マシンガンの弾を船団に対しばら撒けば、小さめの駆逐艦辺りに相当する船はあっけなく沈み、生命反応レーダーから数が減っていくと言う状況である。 既に船団の方はたった一機の機体を前に恐怖していた。 そんな時にオープン回線で西村に連合船団の方から声が届く。


「お、お前は何なんだ!? 我々が何をした!!」


 誰の声かは分からないが、西村はその声に対してボソッと呟いた。


「自分が何をやっているのか、それすらも分からないのか。こんな奴らに……俺の両親は……みんなの親は……日本は……ッ!!!」


 マギ・マシンガンを後ろへと戻し、神威の太刀一式、二式を腰から抜く。


「銃でぶち抜くのはもう止めだ……残りは……残りは全員直接ぶった切ってやる!!」


 蹂躙が始まった。KAMUIが振るう巨大な太刀の前に連合船団の船も、人も、兵器もすべてが等しく斬り裂かれていく。いつしか太刀は紅のまだら色に染まり始め、その輝きは禍々しい色になってゆく。だが西村は最後の1人を斬り捨てるまで止まる事はなかった。


 こうして、連合船団はあっさりと壊滅し生存者も0と言う記録を残すことになった。 世界側はこの被害により、日本攻略の為の準備が遅れに遅れる事になる。 その上文字通りの全滅した理由も日本側が仕掛けたハッキングにより把握することに失敗し、あらゆる記録媒体も破壊されていた為KAMUIの存在、戦闘能力をこの時点では全く知る事が出来なかった。


 ────────────────────────


「総理、確認しました。 敵戦力完全消滅。生存者ゼロ。ミッションコンプリートです」


 如月司令との通話で、光も確認をした。


「西村君に伝えておいてくれ、これからも頼むぞ、と」


 通話を終えて、光は空を見上げる。 これで時間が稼げる、世界は警戒し日本への攻撃を一から組み立て直す事になるだろう。 だがその代わり、あんな20にもなっていない一人の男にあれだけ手を汚させた。 ──報いなければならない。あんな事をさせたのだからそれ以上の幸せを与えなければならない。 それがこの時代の総理大臣の椅子に座る自らの役割だ。


(あと数ヶ月の辛抱だ。 今後も負けられない戦いが続くが、絶対に負けない、負けてなるものか!!)

今回はあまり時間を明けずに投稿できました。

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