6月25日
色々出歩いていた為に溜まっていた政務を行なう光の所に、静かに一人の男がやってきた。
「沢渡大佐、来てくれたか。 では報告を聞こう」
『忍』に光は一つの任務を与えていた。それは二月から今までの国民の状況調査。これから先を考える為にきちんと調査をしておく事が必要だった。当然光は自らも動いてはいたが、総理大臣という肩書きが邪魔して本音を察することは難しかった。
「はい、では報告をさせていただきます」
沢渡は自分と部下を使い、日本全国を走り回り話術を駆使してあらゆる場所に居る日本国民に本音を喋べらせていた。もちろんそこには強制や脅しなどはなく、普段の談笑のように話を調節しながら、その中にいくつかの本音をぽろぽろっと洩らさせるやり方だ。
「まず、巨大ロボットのKAMUIに対しては半信半疑という感じのようです」
技術者、マニアなどにはものすごく受けているが、その反面本当に使い物になるのかどうかという点はまだ実際に戦闘などを行なっていない為、否定的な意見も数多くあった。
「それは仕方が無いだろうな、だがその力を国民の目に見せる時はそう遠くないが、な」
如月工場長からも量産型KAMUIの生産は好調であり、オプションも幾つか試作が出来上がっていると報告を受けた。此方は近い内にその性能を実践で発表することになるだろう……と光は考える。
「まだ動かぬ物ゆえ、KAMUI関連は疑いの目を持たれる事は現時点ではやむを得ぬ事」
沢渡の持って来たKAMUI関連の報告をそう光は纏める。
「それでは次です。 異世界から訪れた未来の同胞、特に耳が大きいフォースハイム連合国、獣耳を持つフリージスティ王国の人々を見た反応ですが……こちらは大きな問題はない、と見て宜しいでしょう」
実際エルフに近いフォースハイムの耳はファンタジーの題材とした使われてきたこともあり、問題なく受け入れられた。 それから獣耳のフリージスティは特に男性からの支持が非常に大きかった。異世界から来た人達の目的の一つに結婚し子供を作る事があると広まるや否や、「猫耳猫耳!」「きつねきつね!」「うさうさだろ!」「最近は狸も捨てがたい!」などと論議されていることも多く、拒絶するようなムードは少ない。
「そこは日本人の特徴も上手く働いているな。我々は昔から、良いものは良いと認め、自分達の文化や考えに取り入れていく風潮があった。 それゆえ、世界の神すらもわが国にやってきて多少姿を変えつつも定着したからな」
一番良い例が七福神であろう。七福神の中に本来の日本の神様はなんと一人しか居ないのだ。その一人は誰か? 興味がでたら調べてみると面白いかもしれない。
「それに、姿形が多少違えど、これから長く長く付き合ってゆく大事な同胞となる。その第一歩が自然に近い形で上手く行っているのはとても良いことだ」
ちなみにこの流れの裏には、フルーレ達の尽力もある。 魔法部隊員は空き時間を利用して日本人と遊んだり談笑をしたりといった地道な努力を重ね、自分達は良き隣人であるという信用を少しずつ確立していたのだ。 もっとも、食に魅せられた為に、半ば頼まなくても動いていた隊員が多かったのも事実ではあるが。
「今では我々も協力して任務に当たることもあります」
沢渡はそう光に報告する。 完全な事後承諾なのだが……
「彼らとならば問題はない、口の堅さも信用が置けるからな」
光はそれを認めた。 『忍』は隠密部隊ゆえ、その辺の付き合い方にミスはないだろうという信用込みである。その見込みが違ったのなら自分のミスだと光は考えている。
「経済は完全に全ての外国人を排除できた為に、安心して商売や取引が出来るようになり、確実に改善してきております」
治外法権に半ばなっていた状況からようやく解放され、商売に精を出す人も増えていた。万引きなどは当たり前で、その上外国人というだけで日本の警察に逮捕する権利はなかったのだ。 さすがに傷害や放火、殺人ともなれば別だったが、軽犯罪を取り締まる事がほぼ出来なかった為に、ひどく荒れている地域も多かった。 あまりに度が過ぎた犯罪を繰り返す外国人は『忍』の手に掛かっていたりするが。
「日本人は奴隷、半ば植民地なのだから物を多少奪っても問題ないという認識を持つ輩が非常に多かったからな……ようやく日本に巣食う癌細胞を掃除できたか」
結界が張られた当時は、もちろん外国人が多数日本にいた。 だが結界を張られた後にもそれ以前のように盗みなどの日本人に対しての妨害、攻撃行為を働いた者達は現時点で殆ど生存していない。大半が海に飛ばされたからだ……陸地三割海七割なのだからそうなるのが自然である。何処に隠れていようが、日本人に対し悪意を持った行動をすればはじき出されるのだから対策が取れず消え去った。
「私もこの腕を押さえるのに苦労しましたからな……殺してやりたいという心境に陥ったことなど数え切れません」
正直な心境を沢渡も吐露する。 耐えかねる振る舞いをする者は多かった。 即刻首を撥ねてやりたいと拳を握り手から出血したことも多い。
「念のために我々も念入りに調査を繰り返しましたが、間違いなく現時点では外国人は日本から一人も残さず消え去っております」
各国の大使館と言う名の日本にあった監視塔は、今は既に全て取り壊されている。 開いた更地の有効活用する為の案は幾つかが検討されている。記念の塔なんかを作るよりも、そこに生きる人のために役に立つものを、ということで小型の食料生産プラントが作られることもある。大部分を地下に作れば良いので、地上の面積はそこそこあればいいからだ。
「それからこれはやや余計なことかもしれませんが、一つだけ多くの人が残念がっている事と言えば、彗星ラバーズの訪れを最後に見る事が出来ない事でしょうか」
彗星ラバーズとは、700年ほど昔から地球のそばに来るようになった彗星であり、今年の終わり頃に地球の近くへ訪れると予想されていたのだが、それからしばらく後に来年の2日未明ごろに地球に近づくと予想が修正されていた。
「そうか、あの彗星の見納めが出来なくなってしまったが……そればかりは不運であったと考えてもらうしかないな……さすがに彗星相手にはなにもできん」
沢渡も苦笑いを浮かべている。 まあこれはどうしようもない部分なので沢渡も深くは考えていなかった。
「彗星の件はどうしようもないから除外するが、全体を総合すると、国民のみんなは現時点では極端な不満は特に無く、各々の仕事に汗を流しているということで良いのか?」
「はい。 少なくとも今までの苦渋に満ちた状況を改善することに成功し、脅える状態から脱した今は皆の表情は明るい物になった、と言って宜しいでしょう」
沢渡の報告に光は頷き、沢渡に下がってよしと告げる。 沢渡は会釈をした後に静かに消え去った。 それを確認してから、机に山積みとなっている書類と格闘を再開した。
(4ヶ月でこれだけ状況が動いたか。 切っ掛けこそ自らの力ではないが、そこから立ち上ってきた人の意思は、間違いなく日本人そのものから出ている。残りは6ヶ月、それまでに影の支援をしてくれた六か国に特殊なシールドシステムを送り、後は日本に攻撃を性懲りもなく仕掛けてくる気配を見せる世界相手に、今まで濡れ衣で日本が負ってきた傷の痛み、苦しみを思い知らせる)
手は書類作業を行ないながら更に思考を続ける光。
(十二月に日本が消えれば、今世界を動かしているシステムの八割がゆっくりと停止し、残り二割もその後に動かなくなる。だが、そんなことは知ったことか……自らのやってきた罪は支払ってもらわなければならない。死ななくていい人を殺し、喰らい、その屍の上に築いた栄華。 その恨みは深いぞ)
青く燃え上がる怒りの炎を心の奥底に煌々と燃やしながら、今後の対策を練る光であった。
アンケート多数により更新をお届けしました。
もっと早く書ければよいのですが、申し訳ないです。




