6月22日
ようやく一話更新。
「あ、総理、此方にいらっしゃっていましたか」
「ああ、今日は時間も取れているからな、『鉄』の戦闘訓練を積んでおかなくてはならん」
光はある程度の時間が取れた時には光陵重化学に出向き、VRにて自分の専用機『鉄』を用いての戦闘訓練を行なっている。 ちなみに鉄本体の完成率は現時点では9%と言ったところか。KAMUIの量産機体、KAMUI弐式は基本ベースが70%ほど完成し、細かい詰めの作業を残すのみとなっている。
「そうそう、総理、申し訳ありませんが少々お時間を頂きたいのです」
「ん? 如月工場長、何か問題でも起こっているのか?」
普段なら『訓練頑張ってください』と言ってすぐに作業に戻る工場長が光を呼び止めた。
「いえ、伝えておく事があるのと、KAMUIの専用パイロットの紹介をさせていただきたいのです」
「そういうことなら構わない。 そのパイロットは何処に居る?」
左右を見渡すが、それらしき人物は見えない。
「申し訳ありません、そろそろ……おい、西村! 早く来い!」
「うっせー! 作業が終わんなかったんだよ!」
「バカモン! いいから早く来い!」
工場長の声に半ば焼けくそ気味に返答した声。 年のころは17歳ぐらいだろうか? と光の目には映った。その少年と青年の境目に居る男は走ってこちらに近寄ってきた。
「西村 光一! 呼び出しに応じて参上しました! おや……いえ司令、呼び出された理由はなんでしょうか!?」
「少しは落ち着け。 今回はKAMUIに乗り込むお前が会っておかねばならん方にお前の面を通しておく為に来て貰ったのだ」
おやっさん、と恐らく言いかけたのであろう少年は、光を見るとうろたえ出した。
「それが此方のか……そ、総理!? 日本の総理である藤堂様がどうしてここに!?」
どうやら工場長の用事の一つはこの男の面通しを、光にしておきたかったと言うことのようだ。
「西村君か。 歳はいくつだね?」
「は、はい! 今年で18になります!」
緊張した面持ちで光に返答する光一。 まあ突然総理大臣の目の前に呼び出されれば無理もない話であろうが。その上光は今まで色々と目立つ事をやってきている総理の為、顔がしっかりと国民にも広まっていた。
「ご両親は?」
「──外で過密労働の末……去りました」
そうか、と光も顔を曇らせた。 外国の度が過ぎた労働で過労になり、死なせてしまった日本人の数は非常に多い……ただのパーツとしか見られてない所も多く、無念にも力尽きていった人数は……光はその人数を思い出し、こぶしを握り締めた。
「すまない。 我らの無力ゆえに……お前のような前途ある若者の親を奪った」
光がそう言い、頭を下げると光一は慌てた。
「とんでもない、頭を上げてください総理! 総理の責任じゃありません! むしろ総理は今こうやって自分に戦える力をくれたんです! あの憎たらしい外の連中に対して、俺の意思で戦える力を!」
そう言って光一はKAMUIを見る。 その横から見える表情には、怒りや憎しみという色に染まっていた。
「そうか。 あいつ等が憎いか」
「当然です! 親を奪い、歴史を曲げて、日本を苦しめているあいつらは憎くてしょうがないです!」
まだ18の子供にこんな表情をさせてしまっている。 表情にこそ出さないが、光も内心では悔しかった。だが、ここはあえて冷静に取り繕う。 表面上だけなのだが。
「その気持ちは私にも良く分かる。 だがな、その気持ちはこの地球に置いて行け。 暴れるチャンス、直接断罪するチャンスは必ずお前に与えよう。 だからこそ、その怒り、憎しみはこっちに置いて行くんだ。その感情に引きずられすぎると、いつしかお前という存在が怒りと憎しみに喰われて、ただの化け物となるからだ」
「しかし……」
光にも分かっている、それはとても難しいことだと言う事を。だが……。
「今はまだ分からなくてもいい。だが、向こうにその憎しみを持ち込んでもお前がお前を不幸にしてしまうだけだ。文句を言いたくなったら私の方にメールでも飛ばせ。聞くだけならいくらでも聞いてやるからな」
光は両手を光一の両肩に置き、そう説得する。
「それに、私もあいつらに怒りを覚えている。 だからこそ専用機持ちの俺達二人が大いに暴れてあいつらを叩きのめして、そしてその後はその怒り、憎しみをここに置いて行こう……未来を喰われない様に、先に進む為にな」
光一は何も言わず、ただ無言で敬礼だけをしていた。如月工場長はそんな光一に「もういい、通常の訓練に戻ってよし」とだけ告げる。 その言葉を受けて頭を下げ、走り去る光一。 だがその途中で一度だけ振り向き、再び光に敬礼を行なった。
「総理、ありがとうございます。 あの西村 光一は特攻を考えている節がありましたから……」
言葉を濁す工場長。
「それは違う。 そこまで追い込んでしまった我々が悪なのだ。それに自分も憎しみに喰われかかったからな……放っては置けない」
光の両親が他界した理由も外国に行ってそこでの過労死である。少なくない憎しみを抱えた経験があるからこそ、それと同じような道を歩いて欲しくはなかった。先に生まれた者には責任がある。あとから生まれた者を導くという大事な仕事が。『先生』と呼ばれることを望むわけではないが、一人の大人として少しでも何かしらの力になりたかった。
「もうひとつ、伝えておきたい事があると言っていなかったかな?」
工場長に光が伝えると、工場長もそうでした、と話し始める。
「今日から鉄のVRに武装が追加されています。 肩から伸びる追加巨大アームで、右側の先端には爪が、左側の先端にはパイルが仕込まれています。 そのアームの大きさで、右側で引っかくことにてずたずたにし、露出したもろい場所にパイルを打ち込むという運用を基本とします。 もう一つはスレイブ・ボムズという自律兵器です。KAMUIに比べるとどうしてもその巨体である為に細かい攻撃がやや苦手な鉄をサポートする為に開発、製作されている新兵器です。 重力コントロールにより重量がどれだけあっても、浮かせる事が出来るという点に着目し、射出することにより鉄のAIノワールのサポートの元、敵対者の近辺まで飛行し、ボムを射出します。 ボムは一つのスレイブに付き3発を携帯させ、敵対者の近辺に到達後に色々な方向、角度から撃ち込みます」
新兵器か、パワーとテクニカル系が一つずつ増えている訳か。
「質問が一つあるが……射出したスレイブは、ボムを射ち切ったらそのまま放棄するのか? それとも特攻させるのか?」
「いいえ、全てを射出したスレイブは、新しく生み出すことに成功したリターンテレポートにより瞬時に鉄に帰還し、再リロードが行われます」
どうやら使い捨てではないらしい……しかし。
「すさまじい兵器だが……私に使いこなせるのかね、工場長」
その一点が不安である。 どんな優秀な兵器でも扱えなければ鉄くずである。
「問題はない、と鉄のAIであるノワールが言っております。 むしろこの兵器はノワールからの注文でもありまして……」
ノワールから? と光は首を傾げるが……。
「そういう事なら、ノワールの方に此方から直接聞いてみよう、それで良いか?」
「ええ、そうしていただけると助かります、申し訳ありません総理」
後の細かい話をいくつか行った後に工場長と別れて、VRシステムにやってきた光。
「ノワール、聞いたぞ。 何でもお前が新しい兵器の設計、装備を意見したと」
こういうことは素早く聞いておくに限る。
「はい、藤堂様なら扱えると私が判断いたしました、早速ですが、追加装備の訓練をVRにて体験していただきます」
VRが起動すると、確かに両肩より伸びている追加のアーム2本、足と背中に羽根のような物がいくつか確認できた。
「この羽根みたいな物が、スレイブ・ボムズか?」
「はい、その認識で正しいです。 まずは使ってみましょう」
そうは言われたが……。
「ロックオンはどうすればいいのだ?」
そう、それを扱う専用のコントロール・システムが確認できない。 追加されたサブアームの方は、メインコントローラーに追加されていたが。
「出てくる的を敵と認識して見つめてください。 それを私が判断し、藤堂様の意思を確認することで射出します」
昔の新しい人類みたいだな、と光は苦笑した。 鉄はああいうスラッとした機体ではなく、重量級の四角っぽい機体であるが。
「とりあえずはやってみよう。 ……こうか?」
目の前に見えている6つの的を認識し、行け! と光は念じてみた。
「攻撃意思を認証」
ノワールとは違う声が流れ、スレイブ・ボムズが起動し次々と飛んでいく。 的は飛び交うスレイブ・バグズにボム部分を撃ちこまれてあっという間に爆発四散して行く。
「お見事です、その感覚で問題ありません。 後は繰り返し使うことで更なる安定をデータとして出す事が出来るでしょう」
ノワールの声が聞こえてくる。
「なるほどな、コレは便利だ」
「はい、ですので追加武装として申請いたしました」
光は素直に感心した。 こういう使いやすく、強力な兵器を考えてくれるノワールはありがたい相棒だ。
「これからも気がついた事は遠慮せずに言って欲しい」
「ありがたいお言葉です、ご期待に応えられるよう此方も努力いたします」
追加アームの方もすぐに使い方を覚え、いくつかの擬似ミッションを行なってこの日の訓練は終わった。 それから、今回の事がきっかけで鉄には初期時には想定されてない兵器がいくつか増えることになっていくのだが……それはもう少し先の話。
遅くなった理由は魔法使いのウェハースを書いた影響です。
あ、ごめん、悪かったから物を投げないで!?




