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3月23日

 ブレイヴァーに3種類の追加武装案が示されてから暫く後、光は他国の話し合いの場についていた。如月司令も通信越しで参加している。各国代表が集まったのは、マルファーレンス帝国首都の中央宮殿内の会議室。議題に上がるのは当然──


「さらなる新型を生み出したとの報告がありましたが、これは本当のことなのですか? トウドウ殿」


 マルファーレンスのフレグが、疑いと驚きと戸惑いを足して混ぜたと表現すればいいのか、とにかく困惑している表情を浮かべながら光に問いかけた。他の2国の代表であるティアとブリッツも表情の起伏こそフレグと比べれば少ないが内心では同じように困惑していた。


 すでに情報を受け取っていた神威・弐式やブレイヴァーという存在ですら、すでにとてつもない存在であったのにさらにその上が存在するようになったのだという。あまりにも早すぎる強化、進歩の速度に疑いを持ってしまっているのだ。


「新型と言いますか、ブレイヴァーの上から着せる新型の鎧。その鎧に付属している武装という表現が正しいですね。百聞は一見に如かず、まずは動画でご説明します。如月司令、任せる」「了解しました、説明を始めさせていただきます」


 光からバトンを渡された如月司令は、ランサー、バーサーカー、ガントレットの各種フォームを順に動画を交えつつ説明。その説明に、フレグ、ティア、ブリッツが釘付けになっていたのは言うまでもない。


『このように、母体であるブレイヴァーにさらなる装甲と武装を付け足す事で、より活躍できるようになっています。この各種フォームの完成をもって、ブレイヴァーの開発は終了。後はマルファーレンスの皆様に訓練してもらい、乗りやすいフォームを選んで神々の試練に立ち向かってもらう事になるでしょう』


 その言葉と共に説明が終わると、3カ国の代表は皆イスに深く座り直して三者三様のため息を吐く。それからややあって、口を開いたのはフレグであった。


「なんというか、凄まじいものを見せられてしまった。以前見せてもらった物でもすごいと思っていたのだがな、まさか更にこうも上の力を生み出すとは恐れ入ったと言う所だ。だが、確かに我が国ではティア殿のフォースハイム、ブリッツ殿のフリージスティと比べると遠距離攻撃を苦手としている者が多い。その欠点が神々の試練で響かないかというのは気になっていた。が、その解決策をこうも見事に用意してくれるとは」


 空を仰ぎ見るかのように天井を見つめるフレグ。そして再び通信越しで参加している如月司令を見据えるとこう発言した。


「この機体、私にも一機作ってもらえないか?」『──制作すること自体は問題ありません、資材は皆さまの国から大量に頂いておりますので。しかしフレグ殿、まさか貴方も戦いに出ると仰るのでしょうか?』「無論だ、戦士の代表を務めている者が臆していては始まらないではないか」


 フレグの瞳を見て、如月司令は説得を瞬時に諦めた。目が燃えていたのだ。この目には覚えがある……そう、光が鉄を駆ってクリスマスの戦いに出向いた時。そして何より、去年の末に隕石に対して単独出撃していった時にしていた目だったからだ。この目をしている人間には、いくら言葉を重ねても説得は不可能だという事を如月司令は知っている。


『分かりました、ではお時間がある時で良いので一度こちらに来て頂けますでしょうか? 細かい所の調整を行って専用機として仕上げますので』「了解した、必ずそちらに出向く。だから頼むぞ!」


 そんなやり取りを目の前で見せられ、ティアやブリッツの心に火がつかない訳がない。次に発言をしたのはティアだ。


「ブレイヴァーの方は完成したという事で……次は私達が乗る機体を作っていただけるのでしょうか?」『ええ、その予定です。フォースハイムに提供するべく設計している機体名はソーサラー。もちろん仮の名ですので、フォースハイム側で変更して下さっても構いません。このソーサラーの開発のために、そろそろこちらにフォースハイムの皆様の代表をお呼びしたいのですが……』


 如月司令の言葉に、ティアとブリッツの表情が曇る。その二人の表情を見て、フレグが苦笑いを浮かべながら口を開く。


「はっはっは、聞いておりますぞ。なんでも代表である500人の枠を決めるのに揉めておられるとか。無理もありませんな、食事が美味い上に神々の試練に立ち向かうゴーレムの開発に関われるのはこれ以上ない名誉。その名誉を誰もが欲するのは想像に難くありません。我が国でも選考に漏れて悔しがっている者は多数いますよ」


 フレグの言う通りだった。日本皇国からの要請は500人なのだが、フォースハイムはまだ1万人、フリージスティでは3万人からの絞り込みが遅々として進んでいなかった。皆が優秀かつ性格的にも問題無い事を大前提として、能力が高いレベルで競い合う者達ばかりだから、選考は困難を極めている。


 選考内容は日々厳しくなっていくのだが、それでも尚なかなか人数が減らない。もうこうなったら、マルファーレンスのように戦わせて勝者に枠を提供するしかないのではないか、という話になっている。


「皆、異常なほどに奮闘していますからね。日本皇国が提示なさった500人という枠に収めるのは非常に大変ですよ。かといって枠を広げていただくわけには──」


 そうしてちらりと視線を光と如月司令に向けるブリッツ。だが、光や如月司令の返す言葉は……


「申し訳ありませんが、500人の枠を広げる理由は無いんですよ」『ええ、基本的な部分はマルファーレンスの皆様のおかげで完成しています。後はその国の人が動かしやすいように調整、設計を行っていく形となりますので、500名も協力者がいれば十分であると考えております』


 と両者から断られて、がっくりと肩を下ろすブリッツ。枠が増えてくれればそれだけ選考が楽になるので増やしてほしいというのが本音となる。その願いはかなう事は残念ながらない。


『なお、現時点でフリージスティの皆様にお渡しする機体の名前はランチャーという名で呼んでいます。そして特性ですが、ソーサラーは魔法をより高めて放つことが出来るようになる、ランチャーは射撃能力を重視した形となります。そこに追加装甲で必要な物を足していく形で設計を進めています』


 如月司令の言葉に、ティアとブリッツは頷いた。自分の国の特色を生かすように設計してくれている事が分かったので、両者ともに不満はなかった。


「その設計を早く進めて頂く為にも、早く絞り込まなければなりませんね」「如月司令殿、もしこちらが先に500人まで絞り込めば、こちらの機体を先に設計して頂けるのでしょうか?」『はい、もちろんそうなります。早く設計を始めた方が時間に余裕を持つ事が出来ますので』


 ティアの言葉の後に問いかけを投げたブリッツ。その問いかけに対する如月司令の返答を聞いて、ブリッツは自国との通信機を取り出す。


「ああ、私だ。例の選考の進み具合はどうだ? ──遅々として進んでいない? 駄目だ、急がせるんだ。先に絞り込んだ国から如月司令殿は機体設計を始めると仰った。我々の戦う機体を一刻も早く生み出し、そして試練に向けて訓練する時間を一秒でも確保するためには、選考を早く進めて決着させる必要がある! ここでの遅れは致命的だぞ!」


 そんなブリッツの行動を見て、黙っていられないのはティアも同じだ。こちらも通信魔法を起動すると、ブリッツと大差ない事を自国の方に必死で伝える。何せ両者とも、ブレイヴァーの完成形を見て思う所は一緒。次はうちの国の機体を作って欲しい! である。


「如月司令殿、先程のブレイヴァーの動画は我々以外には見せてはならない物のレベルでしょうか? それとも国民に見せても問題ないのでしょうか?」『ああ、先程の動画でしたら機密でもありませんし、近いうちにマルファーレンス帝国の方で皆様が乗る事になる機体はこういう動きが出来ますと編集した後に流そうと思っていましたのですが──』


 フレグの問いかけに、如月司令が返答。そのやり取りを見て、ティアとブリッツがほぼ同時に叫んだ。


「「我が国にも先ほどの動画を流す許可を!」」


 両者狙いは単純、早く絞り込んで研究すればあのような素晴らしい物を作り上げられる。だから少々強引な手を使って枠を決めても「時間をかけるほどこういう素晴らしいゴーレムに乗る機会が失われるのだが良いのか?」と告げれば反発が起きにくくなるのではないか? という事である。


『わ、分かりました。ある程度の編集を行ったのちに両国に流しますので、それでよろしいでしょうか?』


 がっつくどころか丸呑みにされそうな雰囲気に押されながらも、如月司令は何とか返答した。この光景を見て光は内心では苦笑し、表情はポーカーフェイスを貫いた。その後多少の話し合いを行ったのちに解散したのだが……ティアとブリッツが自国に帰った後、選考に関わっている人の尻を叩く事になったのは言うまでもない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「無論だ、戦士の代表を務めている者が奥していては始まらないではないか」 「臆して」では? [一言] 今回は、食いしん坊バンザイ!という話でしたよね(笑) 何と、ポイントを入れ忘れて…
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