表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/219

2月8日

 ガレムがやってきてから数日後。光は3か国の代表を日本に呼び出し、日本官邸内で話し合いを行っていた。その議題は……


「宇宙ステーション、ですか?」「それはいったい何なのでしょうか?」「すまないが説明を頼みたい、それだけではどういう物なのかさっぱり分からん」


 光が宇宙ステーションを制作したいので、各国の支援を望むという事であった。光は如月司令とのやり取りで制作した映像をスクリーンに映し出しながら説明を行う。


「要は、宇宙……星々の世界で我ら人間が活動を行える一種の城と考えて下さい。外観はだいたいこのようになります」


 その姿は、地球人なら土星みたいだと表現するだろうか。中央の球状型の施設の周囲に、リングが一つ取り巻く形となっている。


「これを作りたいと皆さまに申し上げた理由ですが、神々の試練への対策の一つとして用いたいのです。星から星々の世界に上がるのには手間がかかりますが、前もってこのような城を建てておくことで、神々の試練に出撃する時にここから出撃する事が可能となります。それだけではなく、損傷による修理や弾薬、燃料の補給を行う場としても使えます。物資は、この星から転移で運べばよいですからね」


 ──地球人ならではの発想というよりは、こちらの世界の人々にとっては完全に想定外の申し出であった。何せ今まで宇宙に出る方法を思いつかなかったのだ。そこに出て戦える可能性が出来てきたかと思っていたら、そんな場所に城を建てるのだという。光の……日本人の考えに、一定の恐怖を3カ国の代表が覚えてしまったのも無理はないだろう。


「その、失礼ながらヒカル殿。これは本当に実現可能な話なのか? 有用性は分かった、確かに戦いの最中にいったん引いて治療を行ったり物資の補給が出来る場があるとないとではその戦における安定性は比べ物にならない。しかし、あの星々の世界に城を建てるなどと……正直に言ってしまうと、とても人の力でできる事ではないと思えてしまうのだが」


 マルファーレンスの代表であるフレグの言葉に、フォースハイム代表のティア、フリージスティ代表のブリッツが頷く。が、そんな困惑の表情を隠しきれなかった3人に対して、光は笑顔で返答した。


「可能です。というよりも、我々が此方の世界にやってくる前に運用していたデータを元にこれらの計画を組み立てています。私達はこのような施設も向こうで作り上げていたんです──最後は各国の締め付けによって凍結する事になりましたが」


 最後の一言は小声になってしまったが、この計画は資材さえあれば十分に実行可能な範疇に収まっている。宇宙に上がる時は、長門に着けた転送装置を使って作業員を直接宇宙に送り込む予定となっている、作業用に特化換装した神威ごと。豊臣秀吉の一夜城よろしく、大部分の部品は地上で作って組み立てるだけで済むようにする。


 あとは長門の転送装置で部品をポンポン転移させ、宇宙で神威を使って組み上げる。スペースシャトルに部品を積んで打ち上げ、メカニカルアームで組み立てるよりも難易度はかなり低くなる。重要部品が組み上がったら、機密のチェックを念入りに行った後に内部を作り上げていく。神威を使った組み立てを7割、その後気密や人工重力、空気などを始めとした生活に必要な物の環境が宇宙ステーション内に整ったら、内部の神威では立ち入れない場所を人が直接作業を行って完成となる。


「とんでもない話ですね……あなた方は魔法がない世界から来たというにも拘らず、まるで魔法のような事を考えて、そして現物を作り上げてしまうのですね」


 光の説明を聞いて、ティアがため息をつく。ティアに限った話ではなく、こちらの世界にいる人達が今回の宇宙ステーション建設の話を聞けば、信じられないか狂人の戯言と受け止める事になるだろうから、彼女の反応はおかしくない。しかし、その一方で……


「確かにとんでもない、とてつもない話です。ですが光殿は出来ない事、極端な無茶な事を言う為に我々を集めたと、私は考えていません。話はとてつもなく大きいですが、その有用性は間違いなく高いのもまた事実。損傷したら地上に戻るまで修理できない、弾が尽きたら補充の為に補充要員を待たないといけない。しかし、この光殿の提案する施設があれば、多少戦場から移動すれば修理が受けられる、弾丸の補充が受けられる。この差は歴然としています。戦場近くに前もって資材や弾薬を貯蔵して置けるというアドバンテージもあり、その有用性は無視できません。私個人としては、この話に乗りますよ」


 フリージスティ代表のブリッツは、前のめりでこの話に乗ってきた。銃器を扱うフリージスティの出身だけあって、補給の大事さを各国代表の中では一番理解していると言えよう。銃は弾丸が無くなってしまえばただの筒になってしまう。鈍器として用いれるという意見はあるかもしれないが、本来の扱いが出来ないのではその能力はがた落ちになっているとみるのが普通だろう。


 そういう事を回避できる、残弾がすぐに補充できる場が在るというのはフリージスティ出身者にとっては生死を分ける重要な拠点だ。故に他の2国の代表よりも前のめりになってこの話に乗って来たのは当然と言える。自分達が乗る機体が、射撃をメインとするとなればなおさらだ。


「確かに、戦えば剣は折れる事もあり得える。むろん予備を持って行く事は当たり前ではあるが、それすらも足りなくなることもあるのが戦いという物。相手が剣や槍を持っていればそれを奪い取るだけで戦い続けられるが、今回の相手は神々の試練……当然そんな剣や槍をこちらに提供してくれるわけもない。ましてや我々が乗るブレイヴァーと言う機体に合わせた武具など、相手が持っているはずもない。それらを補給できる場が在るとなれば、現場で戦う戦士達にとって心強いだろう」


「修理や補給を受ける間、休息が出来るのも大きいですよ。人は戦い続ければ当然ながら疲労します。ある程度は魔法で何とかなりますが、それにも限界があります。多少なりとも一息ついて、軽食を口にできるだけでもだいぶ違うのは言うまでもないことです。そういう場所があるとないとでは、確かに違いが生まれますね」


 ブリッツの言葉を聞いて、フレグやティアの両名も、お互いが宇宙ステーションがあったとすれば……その影響で考えられる有用性を導き出す。3名の話を聞いて、光は頷く。


「まさに、皆様がおっしゃったことこそが建築を提案した理由となります。どんなに強い戦士であっても、常に無傷で、無補給で、休息を取らずに戦い続けることは出来ません。戦士達の補給場であり、休息場であり、治療場なのです。なお、建設のために事前調査で2か月。建設に1年弱の時間が必要であると、こちらの研究者、技術者の試算で分かっています。故に、このタイミングでお話をさせて頂かないと、間に合わなくなるため本日は無理を言って集まって頂いたのです」


 無理をすれば、長門と大和の転送装置をフル回転させて物資を宇宙に送ることは出来る。できるが……転送装置が突如故障したり、不備を起こす可能性は当然無理をさせるだけ高くなる。そんな不安定要素を抱えて戦いたくはない、と光を始めとして、如月司令や技術者、実際に戦う事になる自衛隊の意見も一致している。


「ヒカル殿の言葉はいちいち尤もだな。どんな精強な戦士でも、休息は必要だ。空腹では戦えん。武具がなければ戦力は落ちる。そうなれば、待っているのは成すべき事を成せずに戦死する未来だけだ。ヒカル殿、本当にその城は先ほど言った調査に2か月、築城から1年弱で完成させられるのだな?」


 フレグの言葉に、光は自信を持って頷いた。


「数日くれ、議会を説き伏せる」「こちらも数日ください、何としても説得します」「光殿、先程の映像を映す器具を借りられないか? 映像を見ながらその有用性を説明した方が、説得が早く進むと思うのだ」


 最後のブリッツの言葉に、光は前もって用意しておいた器具を取り出し、使い方を説明する──と言っても、スイッチ一つ押すだけで再生されられるお手軽な物だ。ブリッツも簡単で良いですねと満足している。


「ヒカル殿、こちらにも……」


 と、フレグが言葉を言い切る前に、光は同じものを2つ取り出した。これぐらいの用意は前もってしているのは当然の備えだろう。


「準備が良くて助かります、ではお借りして、さっそく今回伺った話を議会に出します」


 ティアの言葉に、光は「はい、お願いします。この宇宙ステーションの完成には、皆様の協力が絶対に必要となりますので」と口にしながら頭を下げた。


「それでは、今日は失礼する。神々の試練に打ち勝つ手段がまた一つ増やせる有意義な時間だった。またこのような要請をしたいときは遠慮することなく呼び出してほしい」「私もこれで。ヒカル様、私達も神々の試練に打ち勝つ未来が徐々に見えてきた気がします」「それでは私もこれにて。光殿の期待に応えられるように、努力します」


 フレグ、ティア、ブリッツは各自そう言い残して転移による帰国で帰って行った。宇宙ステーションという名の砦は作られるのかは、3国の議会による判断に委ねられた。

初期プロットから大幅変更が続いてる……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ