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2月4日

 先日大臣達から言われたことを踏まえ、仕事の合間に今までより多くの休憩を取る事にした光。常にコーヒーだと芸がないので、今日は緑茶を飲みながら休息を取っていた。それでも仕事は地球に居た時よりは少ないので、十分今日やるべき仕事は今日中に終わらせることが出来る。


(まだまだやる事は多いとはいえ……こういう時間が多く持てるようになったのは良い事だな。おかげで今後の日本と世界の事を落ち着いて考えることが出来る)


 休息を取りながら、光はある物に目を通していた。フルーレを通じて渡されたこの付近における天候の調査報告書である。フルーレ曰く、日本と限りなく近い環境であるとの事であったが──


(四季の移り変わりは大差ないとみてよさそうだな。4月には桜が咲き、8月には向日葵が太陽に顔を向け、12月には雪化粧、と。環境庁からの報告で、富士山頂上付近には雪が降っているとの事だし……)


 ただ、大きく地球に居た時の日本と決定的に違う点として、台風が存在しないという点が挙げられる。この場所の平均雨量は6、7、8月が特に多く、9、10月はかなり少ないと記録にはある。他の月はだいたい似たり寄ったりらしく、今日の東京は雪が舞っている。


(今後はどうなるか分からないが、台風がなくても降水量は安定しているのであれば、水不足の問題はまず起きないか。まあ海水を真水に変える技術ならいくつもあるから、この辺はあまり心配はしていなかったが……むしろ台風がないから、農業や住宅への被害が出にくいのはありがたいな)


 調査報告書を机の上に置いて閉じた後に一息ついて、再び緑茶を口にする光。


(それでも今後のデータ取りの為に、気象衛星の打ち上げを各国に許可してもらう必要があるな。あと、出来れば宇宙基地も作りたい所だ。神々の試練を受ける時の補給基地として運用し、過剰な防衛設備をつけなければ多分認められると思うが……それでも、こちらの世界の人達からしてみれば荒唐無稽な話に映るだろうから、本当にできるのか? という疑問に対処できるように計画は十分に練らなければならないが)


 移動は長門や大和に乗って行い、資材も当然積んでゆく。ステーションの製作は地上で大部分を作ってしまい、宇宙ではプラモデルの様に組み立てれば良いだけにしてしまえばいい。外装が出来て空調を整え、中で人が活動できるようになったら技術者たちに仕上げをしてもらえばそれで完成となるはず。そう光はイメージを形成する。


(もちろん専門の技術者たちと話をせねばならないが、宇宙での作業には神威が使えるからな。人類が地球で初めて宇宙ステーションを作った時よりは作業の難易度は下がっているだろう。ステーション内の人工重力も魔法を併用すれば、難易度は下がってくる)


 難易度が下がると言っても、難しい作業に変わりはない。だが、それでも神々の試練の事を考えれば、補給と修理、パイロットの休息場として宇宙ステーションは欲しい。長門や大和には転移装置が積んであるとはいえ、二隻に頼りっぱなしというのはよろしくない。


(後でこれを如月司令と話し合ってみるとするか。もっとも、如月司令はすでに手を打っている可能性もあるが……そうだったとしたらそれで良い。それだけ早く物事を進めることが出来るのだからな)


 ひとまずメールで、如月司令に気象衛星と宇宙ステーションの件を伝えておく。メールを書き終えると、光は少し身震いをした。暖房はちゃんと効かせているはずなのだが、それでも寒いと体が感じたのだ。それで外を見てみると……


「ありゃりゃ、これは大雪だな……」


 先ほどまでとは違って、雪の降ってくる量が明らかに増えていた。見る見るうちに積もってゆく雪を見て、交通関連に支障が出そうだと光はつい頭を抱える。


(状況によっては自衛隊員が駆る神威に出向いてもらって、問題の対処に当たってもらう事になるかもしれないな)


 各方面から要請が入ったのであれば、すぐに自衛隊員と神威を向かわせるように前もって光は指示を飛ばしておく。指示を飛ばした後、椅子に座りこんだところで執務室のドアをノックする音が光の耳に入ってきた。


「どうぞ」「失礼しやす」


 許可を出した光の言葉に応じて、ドアを開けて入って来たのは……マルファーレンス帝国出身で、地球に居た時は隊長を務めていたガレムであった。


「ヒカルの大将、お久しぶりでさ」「おお、ガレム殿ではないか。久しいな。急な訪問だが、どうしたのだ?」


 ガレムの登場に、光も席を立って出迎える。こうして両者が顔をしっかりと合わせるのは久しぶりだが、共に戦った戦友故に、挨拶に固い部分はない。もちろん公式の場であったのであれば話は別だが。


「あー、その、ちっと情けねえ話になるんですがね。ヒカルの大将、日本皇国が観光客を受け入れられる時期は何時ごろになりやすか? 大将だから教えるんですがね、うちの上が国民から早く日本皇国に遊びに行けるように動いてくれってせっつかれてるって話があるんでさ」


 ガレムの言葉に、光は少々渋い顔を浮かべる。


「うーむ、しかしだな。そうなると当然入国の場所や通貨のレートを始めとした部分を整えなきゃいけない。マルファーレンス帝国と、我々日本が使っている通貨は当然異なる。だからそちらの通貨……そう言えばまだ単位を知らないな。とにかくそちらの通貨とこちらの紙幣のレートなどを決めなければ通貨を両替できないから買い物も出来んし、休むべき場所で休むことが出来なくなる。そうなれば当然混乱が起きるぞ。ここら辺の調整を行う為の話が、現状では全くできていないのだ」


 光の言葉に、ガレムも右手を顔に当てて天を仰いだ。


「あー、そうでしたなぁ。ちなみにこちらの通貨単位ですがね、カゼムと言いやす。カゼムはあっしらの国だけじゃなくフォースハイムやフリージスティとも共通した通貨となっておりやすから、こちらの金との話し合いはあっしらの国だけでは不十分という事になりますな」


 ガレムの言葉を聞いて、光は出来るだけ近いうちに3国の首脳とこの通貨のやり取りについて話し合わねばならないなと脳内メモに予定を追加する。今はまだ物資の支援という形で動いているためにお金のやり取りは一切なかったが、今後はそういう訳にはいかない。


「カゼムと言うのか。なんにせよ、出来るだけ早くその辺の調整もしなければならんな。他にも、まだ私達も国民も、この新しい世界に馴染む事と知らなければならない事が多すぎて大忙しという側面もある。今の状態でこちらに来られても、観光を案内するだけの余力が此方にはないぞ? 法の整備も追いついていないし、まだまだ受け入れまでには時間がかかってしまうのは間違いない」


 ヒカルの言葉に、ガレムは頷くばかりである。


「話を伺えば、確かにその通りだと思う所ばかりですなぁ。以前ヒカルの大将と一緒に行ったあのオンセンという奴も──」「今は休業して再開のためにあれこれやるべき事をやっている最中だな。当然だが、泊まりには行けんぞ?」


 ガレムの問いかけに対する光の返答で、ガレムはがっくりと肩を落とす。


「あそこが行けねえんですかい……予想はしておりやしたが、こうしてはっきりと言われてしまうとなかなかショックが大きいですなぁ……大将、何とかこっちは大将から聞いた話を交えて我慢するように伝えておきますわ。大将の方も、出来る範囲で良いんで何とかしてほしいと──」「ガレム、貴方が何故ここに居るのですか?」


 と、ガレムの話に割り込むような形で登場したのは……フルーレ。ドアを開けて入って来たのは間違いないが、なぜ彼女がここに? と光は内心で首を傾げた。


「ヒカル様、大変申し訳ありません。ノックをしたのですが、ガレムの大声でかき消されていたようで……ガレム、帰りますよ? 今日本の皆様はとてつもなく忙しいのです。そこに余計な仕事をさらに増やすような真似をしないでください。そもそも遊びに来たいと言っているのは主に国民というより、あなた方兵士達でしょう? 日本の食事に胃袋を掴まれてしまって……全く」


 フルーレの言葉に、光はやや冷たい視線をガレムに送り……光とフルーレの視線に当てられたガレムは冷や汗と共に後ずさる。


「姐さん、これは仕方がないんでさ……兵士もそうですがね、その家族からも結構突き上げが……」


 必死の言い訳をするガレムであったが、フルーレはそんなガレムの意見をバッサリと切り捨てる。


「話になりません。貴方も将の身分に籍を置く者であれば、それぐらい自分一人の才覚で抑えなさい。そもそも、神々の試練が迫っているこの時に、遊びたいとは何事ですか! さらにはお忙しいヒカル様にこのようなご迷惑をかけるという体たらく! 帰ったらその心身共に叩き直しますよ」


 フルーレの言葉に冷や汗を増やして立ちすくむガレム。ここに決着はついた。


「ガレムの声は外にも聞こえておりましたが……今はそんな要望よりも神々の試練に打ち勝つための策を練り上げる事を最優先してください。その戦いに勝ってから、交流を深めるための話を積極的に進めて頂ければと思います。慌ただしくて申し訳ありませんが、本日はこれにて失礼いたします」


 そう言い残し、大の男であるガレムを文字通り引きずる形で出ていくフルーレ。なお、ガレムが光の所にやってこれたのは、戦友と話す事で気分転換になるのではないか、と周囲が考えたためである。その後フルーレがすっ飛んできた事で失敗したという認識になってしまったようだが……

別枠の原稿作業が、なんとか7割強は終わったかなーと言う所。

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