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1月30日

 新しい生活のスタイルが生み出され、世間がいろいろ変わりつつある中、官邸の会議室でも新しい議題が上がっていた。


「学校か……」「はい、特に魔法という全く新しい知識を国民に与えないというのは往々にして困る事になりかねません。さらに、こちらの世界の皆様との学習時間の差も今後どうしていくかを考えねばならないでしょう」


 大臣の一人がこういう言葉を口にするのは当然だろう。今後は日本もこちらの世界の一員なのだから、魔法に関する基礎、そして応用に関する勉強は必須となる。そういった基礎の勉強を広く行わなければ、魔法の有用さと危険性、更にはマギ・サイエンスの更なる発展は見込めない。資源が少ないが故に技術で食ってきた日本は、世界で一番の技術を持つか、世界で唯一無二の技術を持っていなければならないのだ。世界が求める技術とは、そういう物なのだ。


「特に学習期間が問題だな。今までは小学校の6年、中学と高校が3年づつ。そしてよっぽど優秀でない限りは、その先の勉学の時間を与えることが出来ずに世界に労働者として派遣させられていた。しかし、こちらの世界に来たことで我々の寿命は魔力の影響で大幅に伸びているはずだ。勉学に100年を費やしても構わない、そう言える時がやって来ている」


 フルーレ曰く、軍事訓練に100年かけるのは最低ラインだという話を光は聞いている。だからこちらが今後は勉学に100年かけてもおかしい話ではない。それに100年も勉学を積めば、よっぽど不真面目でない限り自分のやりたい事、挑戦してみたい事が見つかるのではないだろうか? それこそ技術者、科学者だけじゃない。音楽家に画家、小説家に映画監督。スポーツ選手にエンターテイメント方面。あらゆる分野に挑戦できる時間を与えてあげられるだろう。


「だから私は、勉学100年計画を打ち出したいと思う。100年という期間を通して、自分の道を見つけてもらうのだ。それこそ、犯罪以外のあらゆる道を、だ。そして、それは学者方面、技術者方面に固定しない。今までは許されなかった音楽や絵、小説の道。スポーツ選手に人を喜ばせるエンターテイメント。あらゆる可能性を発掘して、本人が打ち込めるものを見つけられるようにしたい」


 勉学100年。その言葉を聞いて大臣達は騒めく。あちこちで意見が交わされ、突拍子もなさすぎる……しかし、寿命が延びた今なら不可能ではない……国家再建には勉学は必要……今までの仕組みとは違いすぎて国民が混乱するのでは……などなど、意見交換が活発に行われた。


「もちろん、いきなりこれを導入はしない。混乱を招くだけだからな。しかし、最終的にはそうしたいのだ。皆の意見の中にも出てきたが、国をよくするためにはやはり勉学が必須。そして、これからは今までの考え方が通じない。だからこそ、変えるべき部分は大きくがらりと変えなければ、これから先の世界で我々の子孫が対応できなくなってしまう未来を迎えてしまうのではないだろうか?」


 光の言葉に、各大臣も唸る。光の意見は突拍子もなかったが、そう言うだけの理由は確かにあるからだ。何せ、今まで夢幻とされてきた魔法が当たり前に使われている世界に国ごと移動してきたのだ。転移や神威と言った物も目にしてきている以上、確かに今までのやり方では今後は通用しないだろうという点において、大臣達の意見は一致していた。


「そうですな、確かに今までのやり方では成り立ちませんな……しかし、そうするとまた別の問題が生まれてきます。講師が足りませぬ、特に魔法に関して、一部の者を除いて我々はあまりにも無知すぎます。これは特に魔法に優れているフォースハイム連合国の力を借りるしかありますまい……」


「ですが、フォースハイム連合国だけに頼るとバランスが崩れるでしょうからな。マルファーレンス帝国の戦士の皆さんに来ていただき、戦士のように生きたいと言い出す者達が出てきた時には教官を務めて頂いたり、フリージスティ王国にある独特な技術を学びたいと申し出てくる者が居れば、講師として招く事も考えるべきです」


「それだけではなく、我が国の教師全員が勉強のし直しとなるでしょう。長い計画となるでしょうな……」


 あっちこっちから大臣達が次々と意見を出す。確かにこれは一朝一夕で終わらないのは当然どころか、完全に整うまでにどれだけかかるか分からない大改革だろう。そんな空気を読み取った光は口を開く。


「そうだ、完全にこの教育方法が定着するまでにかかる時間は全く読めない。我々が生きている内に完成する日を見る事は無いかも知れない。しかし、だ。我々は政治家である。政治家は国家の50年、100年先を見据えて今行動する考え方が必要だという事は、ここに集っている皆は分かっている事だろう。たとえ今を生きている国民から理解されなくても、遠い未来の国民が理解してくれればそれでよいのだ。そして、長い時間がかかる事が容易に分かるからこそ、今始めねばならんのだ」


 国家百年の計、という。光が言った事はまさにそれである。


「これは専用のチームを作るべきですな。やるべき事、整えるべき事が山盛りとなります」「特に魔法を教える部門を作り出さねばなりませんからな。本当に目指すべき形での完成を迎えるには、かなりの時間がかかるでしょう」「教育者を教育するという状況になるわけですからな、とにかく地道にやっていく他ありますまい」


 光の言葉に反対意見は出ず、今後どうするか、どう実現に向けて動くかの方向に大臣達の話が動く。彼らも教育関連の新しい形を作る事はやらなきゃいけないと重々承知していたが、勝手に動かすわけにはいかない部分なためにどうするかで悩んでいた。しかし今日、総理である光がやれ、と音頭を取ったのだから動き出す事に躊躇などあるはずもない。


「総理、新しい仕組みの方はこちらで整えますが……各国から講師を招く点は総理にお願いできますか? お忙しい中申し訳ないとは思うのですが、各国の方々と一番顔を合わせているのが総理でして……」


 と、話し合いが進むうちに、大臣の一人が申し訳なさそうに声を上げた。この言葉に光は頷く。


「ああ、そちらは私から各国に頼んでみよう。しかし、私だけが各国の要人に顔を知られているというこの状況も良くないな。今度各国に飛ぶ時に、今後の連絡を取り合う人材を数人連れていく事としようか。いつでも私が話にいけるとは限らんからな……その人材の調整は可能か?」


 光の言葉に、大臣達は「何とか調整します」との言葉を返す。流石に総理大臣である光を事あるごとに各国に派遣するようなことは出来ないのだ、本来なら。しかし、今は光が出向くほかない。他に適役がいないのだから。なので、いないなら作ればいいという話になるのが当然だろう。


「そちらにも仕事を増やして済まないが、頼むぞ」「いえ、総理こそ休める時は休んでおいてください。フルーレ殿からも総理が無理をしていないかを心配する文が届いておりますので」


 フルーレからそんな文が来ているとは知らなかった光。なので首を捻ると大臣たちは皆苦笑する。そしてその大臣の一人が口を開いた。


「総理、私達がまだ地球に居た頃無理をして倒れる寸前までいったことをお忘れですか? そんな無茶をする当人に手紙を送っても意味がないとフルーレ殿は考えられたのでしょうな。まあ、私達も同じ意見ですと申し上げますが。ですので、総理の顔色など始めとした健康をチェックする医療関係者が配備されております」


 これまた完全に初耳な事を聞かされた光。鳥が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべてしまい──その後に光の口からこぼれた言葉は。


「時々人が多いなとは思っていたが……そういう事だったか」


 その後脱力してしまい、椅子に力なく座り込む光。


「フルーレ殿だけではありませんよ? 陛下からもあ奴は無理をすぐにするから見張っておけと大臣全員が呼び出されておりますから。むしろ、総理に無理をさせて倒れるような事になったら、我々は多方面から厳しいお叱りを受けてしまうのですよ。そうならないために、我々でできる仕事は極力我々で行います。総理は総理にしかできない仕事と、いざと言う時の陣頭指揮を執っていただければ十分です」


 と、また別の大臣から言われてしまい、光は何とか「分かった、そうさせてもらう……」と返すのが精いっぱいだった。そんなやり取りも交えつつ、新しい教育の形を作るべく、各方面が奮闘を始めたのはこの後すぐの話。

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