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1月27日

前の話のサブタイトルである日時を変更しました。

 日本にマルファーレンスの戦士達がやって来て数日が過ぎた。光に入ってくる報告は、彼らが体を動かすときに生じる魔力の流れが積極的な協力のおかげで解析が進んでいる事により、新型神威ことブレイヴァーの制作に必要なデータの集まり具合は順調。来年の年末までに数を揃えて戦える体制に間に合わせることが出来る確率は十分高いとの事。


(制限時間ギリギリにはならずに済むというのが現状の見立ての様だが、とにかく完成するまでは油断できないな)


 光は執務室で報告を確認しても、険しい表情を崩す事は無かった。あくまでこれは現状での見立てであり、いざ作ってみたら何らかのトラブルで動かないなんて事は常に起こりうる。本当の意味での完成、つまり量産してマルファーレンスの戦士達が乗り込んで問題なく動く姿を見るまでは油断はできない。


(だが、そんな言葉を現場にかけて要らんプレッシャーを与えても意味がない。むしろその言葉で現場の空気を悪くして、上手く行っていた物を上手く行かなくしてしまってはそれこそ限られた時間を無駄にすることになる。餅は餅屋、専門知識がない人間が現場に入って、現場の邪魔をするなど愚の骨頂。如月司令との連絡は密に取り合う必要があるが、基本的に現場の事は現場に任せるべきだな)


 光はパイロットとしての能力はあるが、機体を制作、修理する技術者としての能力はない。そんな人間が、制作現場に行っても邪魔にしかならない。技術者に機体を動かした感想を伝えて不具合の発見、修正をお願いする行為にしても制作現場ではないところで伝えるべきであって、彼らの庭に押し掛ける理由にはならない。


(なんにせよ、こちらの方面は技術者たちを信じる他ない。こちらはこちらにしか出来ない事で彼らを支え、仕事をやり易い様にするのが仕事だからな。とりあえず、この方面は現状は良しとしておこう)


 新型機の製作関連の報告書を横に避け、新しい報告書を手に取る光。次の報告書は──


(ふむ、靖国神社の再建に関する話か。もはや我々の居る場所は地球ではないし、何の遠慮もする必要は無いな。それに新しい仕事を生むことで活性化が図れるか……完全に破壊されてしまった靖国神社だけではなく、日本にある神社、仏閣の損傷がかなりひどい状況になっているという報告もあったな。それらの修繕も同時に進めさせるか。正しく祭らねば、日本にいらっしゃる八百万の神々も我慢できずに怒りだすだろうしな)


 神がいるかどうかは分からないが、少なくとも古来より日本には不思議な事が良くあった。地球に日本が居て、耐え忍んでいた不遇の時代にも『忍』が動いたわけではないのに、何故か日本国内で暴行を働く人間がどこかへ消えてしまったりするという神隠し事件が何件もあった。そういう連中はたいてい遺体で見つかったのだが、なぜか見つかった場所が日本から遠く離れた場所で発見されたことに加え、死因が分からないという不気味さ。神かどうかは別にしても、この国には何かが居ると考えるべきだ。


(靖国神社の再建と、各地の神社、仏閣の修繕を進めるようにした方が良いだろうな──地球で最後に隕石を止めたあの時。あの光景を見た私には、この国を守護する存在が居るという事を実感している。そんな存在が祭られぬのは間違っている)


 日本人は、例え海外の悪魔であろうが忌み嫌われた存在であろうが、日本を護る存在であるならばそれらを祭って神にしてしまう。そんな事を言ったのは誰だろうか? その影響なのか、日本人は本当の意味で『悪魔』という物を理解していないと評する海外からの話もあったらしいのだが……日本人にとってはそんな事など、些事に過ぎないのかもしれない。


(──復活して、今も共に歩んでいる長門と大和だけではない。あの二隻の復活の時に集まって力を受け渡し、空に上って行った多くの英霊。彼らは正しくあるべき場所に祭られなければ穏やかに眠れまい。ましてや、我々は眠っていた英霊にまで力を借りたのだ、そのせめてもの返礼をせねば筋という物が通らぬではないか)


 光は靖国神社の再建計画を確認した後、不備を見つけられなかったこともあって許可を下した。その後に日本各地にある神社仏閣を、その大小関係なしに修復せよという指示も付け加えた。


(さて次は……ふむ、少々先になるがフリージスティより日本に外遊に来たいという事への許可を求める話か。そうだな、5月にもなれば今のバタバタとした状況も多少は落ち着くだろうし、各国の使節団を一度こちらに受け入れる事も必要となるだろうな。実際に日本の土を踏んだのはこちらの世界の人々のほんの一握りだ。ゆくゆくは観光などの方面も手を伸ばしたいが……そのためにも時期を伺いつつ、この手の外遊なども受け入れていくか。我々は鎖国をしている訳ではないのだから)


 画像などではなく、実際にその国へ出かけて歩き、建造物などの見物によって文化の違いを体験し、そして食事と宿泊を楽しむ。そうしてお互いの考え方などを国民が知る事は大事だ。そう、もう世界は日本から搾取するだけの世界ではない事を日本国民が頭ではなく心で理解しなければならない。それもまた、三カ国の人々との交流、そして結婚の機会を増やす事に繋がってゆく。


(今の時期では何とも言えないが、外遊そのものは許可する方向で進めよう。来ていただくのはもう少し状況が落ち着いてからだな。時期は話し合って決める方向でよいだろう。こちらがとにかく交流を積極的に行う考えがあるという事をまずは理解してもらう形に持って行かねば)


 といった感じの返答用文章を書き上げる。神々の試練を乗り越えてあーよかったよかったお疲れさーんでハッピーエンドなんて事は光の立場では許されない。政治家は50年100年先のことを見据えて動かなければならないという言葉がある。そして今、その先を見据えて動くとなれば、この世界にとっては新参者な日本が他の国々と問題なく交流できる環境を生み出す土台作りを行っておく必要がある。間違っても、一国だけで孤立する様な事になってはならない。


(幸い、各国とも話し合いの門は大きく開いてくれている。その理由が日本人の血や神威がきっかけであったとしても、こちらとしては助かる。後は交流を深めてどういう部分が譲り合えてどういう部分は譲れないのかを知っていく事さえできれば、日本も新参者ではなく、名実共にこの世界の住人となることが出来る)


 もう、地球には戻れないし戻るつもりもない。だからこそ、早くこの世界の一員としてこれから生きていくためにやれる事をやらねばならなかった。それが今、総理大臣という重職にある自分がすべきことなのだと光は強く意識している。たとえ座ったタイミングがたまたま自分であっただけだったとしても、ここまで国民を率いて話を進めてきたからこそ、相応の責任があるのだ。


(これでよし、と。そう遠くないうちにマルファーレンスとフォースハイムからも似たような話は入るだろう。その時の対応も同じように進めればよいな)


 その他いくつかの報告書に目を通し、ひと段落ついたところで光は大きく息を吐き出しながら窓の外を見た。いつも、何度も見てきた街並み。だが、ここは地球ではない。国交樹立のために他国に赴いたのだからそれは分かっている。しかしこうも窓から見える景色は変わらないのでそこに何と言うか言葉にしずらいかみ合わなさを感じている。


(まあ、それも少しの間だろう。人なんて物はたいていの事には慣れるものだ。それにこちらの世界なら、搾取もされぬし奴隷扱いも受けない。国民の皆にやっと笑顔が戻って来たのだ、ひとまずここまでは良しとしていいだろう。だが、これから先もその国民の笑顔を護れなければ、総理大臣として失格だ。そこを忘れてはいけないな)


 インスタントコーヒーを入れて、ミルクを少々垂らしてから口に運ぶ。砂糖は入れない、ミルクの甘さだけで十分だと今は思うからだ。書類関連に目を通して疲れた時は多少入れる時もある……これが光のコーヒーの飲み方である。


(とにかく、だ。このままうまく行かせることが今後の私に課せられた仕事だな。陛下のおっしゃった波に日本を載せたまま今後の発展がスムーズに進むための土台作り。神々の試練に対する答えの出し方と応用。これらの基礎を作り上げる必要があるな……)


 夕焼けに染まった街を眺めながら、背中に背負った物の重みを再確認した光。だが、光はその重責から逃げようとは思わない。逃げるつもりだったのなら……最後に参加した国連で、あんな啖呵を切るような真似はしない。己が責務を全うするために、再確認しただけである。


 こうして、溜まっていた各種報告書を始めとした事務作業に追われた光の一日は終わった。明日はまた別の仕事が彼を待っている。

たまには光のみのお話。

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