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ドリーム・ファンタジー  作者: ゆうぱむ
第二章 幻
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4.国王との謁見

 この大広間――玉座の間は、よく声が響く。

 立派な装飾の玉座のほかには無駄な家具や置物はなく、むき出しになった大理石の天井や壁に足音や声が直接あたって、よく反響してしまうのだ。

 ソラの「フラスコ画のじいさんだ」という〝つぶやき〟も、思いのほか大広間に響き渡ってしまった。隣りに並んで膝まづいていたウミやダイチだけでなく、壇上のサルマリア国王の耳にも、はっきりと届いてしまった。

 玉座の両側に立っていた長いサーベルを腰につけた守衛の大男たちが「無礼であるぞ」と、ソラをギロリとにらんだ。

「す、すみません……ッ」

 顔を真っ赤にさせるソラ。

 クッ、クッ、クッ、とほかの2人は笑いをこらえた。

 すると国王は、フォッ、フォッ、フォッ、と丸い顔を揺らしながら笑った。

「よい、よい」と守衛をなだめ、

「あの天井画の老人はワシの祖父の肖像画じゃ」

と、フラスコ画に描かれた老人の正体を明かしてくれた。

「ワシと、よく似ておるじゃろ」

と、怒るどころか、逆にフラスコ画の老人と間違えられたことが嬉しいようで、たくわえた白いあごひげを自慢げに触った。

 張り詰めていた大広間の空気が、少しやわらいだ気がした。

 国王はソラたちの顔を上げさせてから、

「祖父のサルマリア一世は、このサルマリア王国を創建した偉大な王なのじゃ……」

と、話し始めた。

「祖父は民や土地を武力で治めるのではなく、平和に統治することを目指し、見事に実現した偉大な真の王なのじゃ。祖父を見本にして、現在ではこのテル=アリアの多くの国が同じように平和的に自分たちの国を治めるようになった。

 祖父は周りの国からも尊敬され、歴史に名を残す賢人なのじゃ。しかし――」

 国王は、ふくよかな表情を少し曇らせた。

「しかし、西のかなたにドゥポンゴールドなる国が、突如現れた。やがて魔王ドゥポンが支配するその邪悪な闇が、我らサルマリアの領土を侵し始めたのじゃ。

 闇に支配された地域の土地はやせ衰え始め、農作物はもちろん、雑草さえ黒く腐ってしまう……そのうえ、その村の民は気が狂ったように凶暴な性格になってしまうようなのじゃ。周辺にたむろするモンスターや、太古より土地や木々などを守護する精霊たちまでもが、山や森を抜ける旅人を襲うようになってしまった……。

 そして、とうとう先日、ワシの愛娘マリアンヌ姫が、さらわれてしまったのじゃ。」

 国王は小太りの体を震わせて、おえつし始めたため、一旦話しが止まった。

 したたか、涙をこらえたあと、今度は激怒しながら話を再開した。

「あのにっくきドゥポンめが!

 娘を盾に我らサルマリアに降伏を迫ったきたのじゃ!

 なんと卑怯な輩じゃ……いまいましい……ッ。きゃつは次の満月の夜までに返事をしないと、我らの領土に攻め込むとぬかすのじゃ。さらにワシの返答しだいでは、魔王ドゥポンはマリアンヌ姫を嫁に迎え、世界中を闇で覆いつくしてやる、とまでぬかしてきよった。

 ――なんという侮辱!

 これ以上の辱めはな、い……ッ、ゴホッ、ゴホッ」

 サルマリア国王は興奮しすぎて、むせてしまった。

 隣りにいた給仕が慌てて初老の背中をさすり、陶器のコップから水を口に含ませた。

 あやうく天に召されるかと思った――とは言わなかったが、ほぉ……と、息を吐き出して気持ちを落ち着けた小太りの王様は、玉座にきちんと座りなおして、今度は哀れむように話し始めた。

 喜怒哀楽、ひきごもごも……全く、忙しいじいさんだ。

「……姫にはフィアンセがいた。彼も姫を救い出すため、討伐隊に参加し、ドゥポンゴールドへ向かったが、帰ってこなかったんじゃ……。

 もう十日もたつ。彼もまた、闇の力にのみこまれてしまったんじゃろう……。

 いたわしいことじゃ。ほんとうに……」

 国王の長話が、一旦途切れたので、ソラは気になっていたことを聞いてみた。

「あのぉ……」と、遠慮がちに切り出す。

 また守衛の大男がギロリとにらむのだ。

「なんじゃ、申してみぃ」

と、国王が発言を許してくれた。

「さっき言っていた〝伝説の勇者〟とはなんですか?」

「あぁ、それはな、祖父のまた祖父のまた祖父の時代より歌い継がれておる詩歌でな」と、国王は姿勢を正して、詩吟を詠むように歌い始めた。

「日沈むかなたより――

 闇せまりきたるとき――

 異なりし世界より――

 3柱の勇者降臨し――

 光で闇打ち消して――

 国と民と精霊を救う――」

 ……本当はもっと長い歌なんじゃがな、と国王は言った。

「〝3柱の勇者〟?」

 聞きなれない単位の言葉に首をかしげるソラ。

「〝3柱の勇者〟って、アタシたちのことじゃない?」

 ウミが勘良く気付いた。

「国と民とナントカを救う、ってなんだか、首尾よくお膳立てされたって感じだな」

 ダイチはおなかをさすって、「それより、ハラ減って倒れそうだぜ」とタイミングよく腹の虫が大広間に鳴り渡る。

「フォッ、フォッ、フォッ。これは気がまわらず、申し訳なかったの」

と国王は言うと、給仕の一人に何か指図した。

「この後客間に食事を用意させますぞ。たらふく食って、明日、ドゥポンゴールドへ旅立っていただきたい」

「国王さま直々のおはからい、誠にありがとうございます」

と、小人族のジフォッグが丁重に感謝の意を述べた。ダイチもホッと胸をなでおろす。

「つきましては」と、今度はジフォッグが国王に尋ねた。

「魔王ドゥポンの魔力を無効化できる〝無常の果実〟なる不可思議な果物のことを耳にいたしました。まずこの無常の果実を入手することが先決と考えておりますれば、その正体、ありか、など情報があれば提供していただきたく思うのですが……」

と、壇上のサルマリア国王に深々とお辞儀をした。

「ワシも聞き及んでおる」と王は深くため息をつき、

「それが全くわからんのじゃ。ワシもバカではないでの……ドゥポンからの脅迫があってから、すぐ部下に無常の果実を探し出すよう命を出しているのじゃが、有力な情報が皆無なのじゃ……。どんな色や形や匂いがするものなのか、どこにあるのか……なにもかもが分からんのじゃ」

 国王は玉座から立ち上がった。

 給仕の手を借りながら壇上から階段を降りてソラたちに近づき、演説を続けた。

「しかし、魔王ドゥポンが示した期限はあと7日じゃ。それを過ぎると、マリアンヌ姫はきゃつのいまわしい黒い魔の手に落ちてしまうのじゃ……。

 貴公たちには無常の果実を探しながら、日の沈む西方のドゥポンゴールドへ急ぎ向かってほしい……ッ。この征西が失敗すれば、この国もこの世界も闇に支配されてしまい、未来永劫にほろびてしまうじゃろう。頼みますぞ、伝説の勇者の方々……ッ」

 さらに国王は力強く言い渡した。

「姫の救出に成功した暁には、報酬はひとり……1000万リアを与える!」

 周りにいた者たちが皆どよめく。

 この世界で1リアは10円に相当するから1000万リアといえば約1億円、ということになる。確かに高額の手当てだ。それほど今回の〝イベント〟はサルマリア王国にとっては国の存亡が懸かった一大事件なのだ。

 だが国王にとっては愛してやまないひとり娘が誘拐されているのだ。そのくらいの金額は彼にとっては安い方なのだろう。

 さらに彼は、「各人、何でもひとつ望みをかなえるゾ……」と付け加えた。

 ソラたちがこの世界に引き込まれる直前にパソコン画面で表示されていたふたつの報酬が今、サルマリア国王から言い渡されて、現実となった。

 そしてこの課題を克服しないかぎり、ソラたちは自分たちの世界に戻ることはできないのだ。

「ほんと……たいへんなことになっちゃったな」

と、ソラはつぶやいた。


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