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君が好き過ぎて終わらないRPG  作者: ものもらい
1.そんな選択
3/44

3.使えないヒーロー、ヒロインに成り下がる




ちょっと周囲の目が痛いが、俺と文は初日の夜以来同じ部屋で寝泊まり…あ、でも着替える時は別室とかなんだけども。……同居してたし幼馴染だったから感覚麻痺してきてんだよな……。


―――まあとりあえず、そんな感じでずっと一緒に過ごしている俺たちはまず、図書館で一日を過ごしてばかりいた(あ、文字とかは問題なく読めた)。

王様に「一緒に飯食おうぜ!」って誘われたがそんな気にはなれなかったので適当に断った。

二人で図書館から借りてきた本を読み漁りながらサンドイッチを喰うというマナー違反を犯した結果、得た物は落胆させる物ばかりだ。



―――まず、この世界は剣と魔法の世界である。

そして過去に遡れば遡るほど、具体的な歴史は書かれていない。神話だの伝説だので済まされている。

文が読んでいた地理的なことに関する本もファンタジーすぎるようで、俺らがいた世界の地理用語(リアス式なんとかとかツンドラなんとか…云々)は無い。しかし果物や食べ物――「深い知識がなくても誰でも知ってる用語」はこの世界にもあって、俺たち以前の「異世界人」の足跡を感じた。


ちなみに、俺たちの敵だという魔族のことについては、「悪徳の輩」だの何だのと蔑む文字ばっかりだ。

しょうがないので神話を読めば、太古の昔にはたくさんの神を纏める「主神様リーダー」が居たのにどっかに消えたせいでこの世界は不安定になりましたよ、という始まりばかりだ。


他の神話を読むも――まとめ役を失った神様たちの大半は、男神が美少年とか美少女追いかけたりとか女神がビッ…あ、愛に生きてたりとかしてて、使いもんになってないような話ばっかだ。……ギリシャ神話に似ていると思う。


でもはっきり違う点は――人間の期待というか希望が「運命の女神」様に集中していることか。

……けどまあ、その運命の女神様にしたって、かつての主神様に嫌がらせをされてその能力は「不安定」にさせられたらしい。

それでも人間は運命の女神様に救いやら慈悲やらを乞うのだとか。



―――女神は一人の人間の命を一本の糸とし、太く細く、長く短く、良質か粗雑かでその糸こと人間の運命を作る。

人間なんて腐るほどいる訳だから、必然と機械的作業(いや、雑な作業か?)になる―――それを、妊婦さんとかが一生懸命祈りをあげ、適当に糸を紡ぐ女神の耳に上手いこと聞き入れて貰おうとするが、聞き入れて貰えるのは本当に少ないらしい。


聞き入れて貰えても女神自身「不安定」な力なわけだから、意図的に紡いだ糸――例えば幸福な人生であれば、致命的なまでに病弱だったり。

勇者に相応しいかも分からん力を持っていても悲惨であるとか短命だったりと、手を尽くしても失敗に終わり、両極端なことばかりだ。



―――だからこそ、「勇者」は異世界からの人間が好ましい。

余所の神様が練った、"出来るだけ良い糸"(…俺、平凡人生だったんだけど…)をパクって、添加物を加えまくって頑張ってサポートする。

余所の「不安定でない」神様の糸だから、この世界の人間と違ってバランスは良い。しかし一人きりだと発狂してしまうから、二人制にしておいたとかなんとか。



安定した二人の勇者を纏めちゃうと存在感が出るのか、ただ単に余所の子だからか女神も注意が行きやすい。(この世界の人間だと他の糸たちに埋没してしまうか解け合ってしまうんだろうな)


また、女神が意図せず作り上げた運命を変更できるのも勇者だ。

繁栄と衰退、戦争と平和、喜劇と悲劇の縦糸横糸のドロドロ不安定でぐちゃぐちゃ運命タペストリーに元々組み込まれていなかったイレギュラーだからこそ、らしい。



―――そんなわけで女神は異世界人おれたちを呼びだし、ゲームでよくあるような「平和を望む」女神の意思でこんな危険極まりないことをするはめに……。


だったら余計、俺とかじゃなくて宮野とかそこらのリア充グループ呼べよ……帰宅部(俺)と美術部(文)の組み合わせとか最悪過ぎんだろ……。


しかも添加物を加えられまくった俺達でも、女神の力が不安定過ぎて危険な運命に抗いきれずに飲み込まれてぽっくり死ぬこともあるし、先代魔王の時みたく「勇者が敗れて死亡」とか、生存率低いみたいだし……。




「……先代が負けたのだから、今回は女神も力を入れてくれるかもしれない」



―――そう、俺を気遣って前向きな事を呟く文。


「大丈夫」とは言ってくれなかった(ていうか俺が言わなきゃいけないんだ)けど、「君と一緒なら怖くない」と言ってくれた。―――それが、一番勇気を貰える。


文はきっと「最悪、一緒に骨を埋めてもかまわない」っていう意味で呟いたんだろうけど、俺はそんなつもりはない。俺は絶対戻って、文の誕生日を祝いに水族館に行って、……は、初めてのデートとか、そういうことを、したい―――いや、するんだ。



その為にはまず、今から行われる「禊」なるものをクリアしないといけない。……いいぜ、来いよ。冷水でも炎でも塩でもどんと来いや!




―――と身構えていた俺に、王様と例の訛りが酷過ぎる魔法使いと騎士数名は、大変のんびりした顔で「あそこの門くぐってねー」とだけ。……え、くぐるだけでいいの?そんだけなの?


「国光くん、これ……折ってもいいものかな」


脱力した俺の隣で、文は重たくてずるずるした白い法衣をうざったそうに弄っていた。

「好きにしろ」と言いたいがもしかしたら何かあるかもしれないし…「我慢しろ」と言うと、俺は文の手―――は、難易度が高すぎたから腕を掴んだ。



「恐れず、ただ前を見て―――奥に、天より授かった武具がございます」


深々と頭を下げたのは婆さんの巫女だ。


すぐ近くにいる王様よりも威厳を感じる巫女さんにビビりつつ、俺は水晶かなんかでキラキラした門をくぐる―――目を瞑って。


……体に変化はない。どうしよう。目を開く―――ん?



「く、国光くん、此処……!」

「ああ―――森…だな」



さっきまで祭事用の地下室に居たのに、気付けばぽわわんとした光が浮いてたり見たことない花が咲いてる、超メルヘンな世界。


思わず固まって辺りを窺う俺に対し、文は興味津々でこのメルヘンな世界の植物に手を伸ばす。雑草を引っこ抜くように植物を引き抜くと、細い根に指を這わせ、青々とした葉っぱをぶちっと千切った……ってぇぇぇぇぇええええ!!大丈夫なのそんなことして!?


「ふむ、現実か」


葉っぱの匂いを嗅いだ後、文は「どうもありがとう」とお礼を言って植物の根っこを土に被せてやった。

次に手を伸ばしたのはぽよぽよ浮いてる明りだ。「おい、待てっ」と止めようと走る俺を無視して触れたあいつはカチン!と歯が噛み合うような威嚇音(?)にビビって手をひっこめた。


「大丈夫か、」


よ、と続けようとしたら、文は法衣を脱ぎ捨てると漁師が網でも投げるように明りを捕まえた―――捕まえた!?捕まえられるの!?


点滅しているそれに怯えていると、文は「そこの蔓、引っこ抜いてきてくれ」と頼む―――ええええええええええ!?


「こ、これでいいかよ!」


ビビりながら引っこ抜いた蔓を渡すと、法衣は光ってな―――あれ、左手に……蝙蝠?


「これが明りの正体だ」


そう言って細い蔓を蝙蝠の腹に巻きつけた文が手を離すと、蝙蝠は慌てて上昇する…が、蔓のせいで逃げれない。

「放さんかいゴラァ」と言うかのようにカチンカチン歯を鳴らす蝙蝠のリードをしっかり手に巻きつけると、文は葉っぱの付いた法衣を片手に先へ進む。



(……なんていうか……逞しい……)


アウトドアなんて嫌いとか言ってたくせに、なんだこの手慣れた感じは。


対する俺はあたふたしてあいつの指示に従っただけだし…今なんてあいつの後ろに付き従ってるだけだし……情けなさ過ぎて涙が出てきたわ。


そしたら文は「怖いのかい、国光くん」と、ほっぺにキ――――スってなんでだああああああああああ!!!



「おっまぁぁぁぁ……!なん、なんなの!?なんなのよ!」

「国光くんの元気な声が聞きたかった」

「だからってほっぺに……します!?しちゃいますねえ!?」

「赤ん坊のほっぺみたいだな国光くん」

「うるせーよ!」



くそっ、地味に俺が気にしてる事をちくしょー!


苛立ちを足下の石にぶつけたら、石は草の茂みを越えて―――あ、なんか…野犬……的な……メルヘンな世界をぶち壊すような薄汚い野犬(多分)さんがコブ作ってらっしゃる…!


「に、にににに逃げるぞ!」

「国光くん、しかし逃げるにも…この先でいいのかな?」

「なんか道っぽいじゃん!お前も通ろうと思ってたんだろ!」

「あの時は引き返せる余裕があったから―――国光くん!伏せるか前後どちらかに側転!」

「マットも無い所で側転出来るかー!」


掌に小石が食い込むだろ!…と文に土下座するような伏せ方をすると、ぐおっと風が。次いでタン、と着地音がして、身体を起こすと涎が出てる野犬閣下がこっちを見てるぅぅぅぅ!!


「文!に、逃げんぞ!狂犬病になったらお終いだ!」

「無理だ。野犬の足には負ける」

「やってみなきゃ分かんねーだろ!?ほら、手ぇ引っ張ってやるから―――」


「今此処で倒す。……国光くんは、僕が守る」



やだ……イケメ……じゃない!女がなに勇ましいこと言ってんの!?


お前武道習うどころか中学高校と運動部でも無かったくせに!美術部で賞貰うしか出来ない癖に何言ってんの!!



俺は蝙蝠のリードを引き寄せる文に内心色々ツッコむ。そしていやーな唸り声に視線を向けると、野犬様は勇ましい宣言をしたばかりの文に狙いをつけ―――飛びかかった!


「文―――!」


前述の通り俺も帰宅部。平均ちょい上男子だ。……だけどなあ、平均ちょい上男子にだってなあ……!


「そぉいっ!」

「むっ」


体当たりするように文を押し倒すと、野犬この野郎は二度目の空振りを喰らう。


ドヤ顔したくても出来ない緊張感に俺が唇を震わせてると、文が、


「君に決めた!」


―――と、手繰り寄せていた……蝙蝠ぃぃぃぃぃぃ!!こ、蝙蝠が生贄にぃぃぃぃぃ!!「ぴぎぃ」とか鳴いてる!赤いケチャップ的なのが野犬の口からダラダラ漏れてるぅぅぅぅ!!


「退いて、国光くん」


ドン引きの俺を背に隠し、文は制服の胸ポケットから……ピストル?



「覚悟っ」


やけに古い言葉と共に、文は玩具のようなピストルを撃つ。


すると舌と涎をだらだら流していた野犬は「キャン」と鳴いて身悶え……あ、催涙スプレーの拳銃型か!


話には聞いてたけど怖いなコレ……何でそんなもの持ってるんだとか何で制服のポケットに膨らみもせずに入ってたんだろうとか色々突っ込みたいが、ま、まあ、女子高生は危険も多いし、持ってて普通だよな!ポケットは無限大の可能性を秘めてんだよな!



文は拳銃型催涙スプレーを胸ポケットに戻すと、近くの拳よりか小さい石を、振り上げて。


「がっ」


野犬の!鼻にぃぃぃぃ!!!鬼畜!そりゃ助かる為には仕方ないけど酷過ぎる!動物愛護団体に見られたらブチ切られること間違いなしのことしやがった!



「これで大丈夫だ国光くん。先を急ごう」

「え……う、うん…」

「心配しなくても大丈夫。僕が君の騎士になろう」

「普通逆じゃない!?」



そう噛みついたが、現状頼りになるのはこいつしかいない。


………べ、別にいいし。今だけは騎士様ごっこやってればいいし!


だけど奥にあるとか言う武器みっけたら、立場逆転してやるからな、ばぁーか!










―――そう、決意を胸に、文に手を握られて進むこの道の、影から。


「ぎりぎりぎりぎり」


……と、俺達二人の様子を窺う奴がいたなんて、知らなかった。









補足:


勇者さんは余所の世界の一般人から選出してるので、神様総出でサポートします。

と言っても、英雄クラスの人とあんま変わらない手順を踏むんですが。


まず神殿に詣でて神様(たとえば伝令の神様だとして)に祈りを捧げる→勇者の場合一発で神様サポート「加護」がもらえます。(この場合だと加速とか)


あとはもし英雄クラスのひとと殺し合いをした場合、運命の女神の「操作」によって勇者の勝率が上がるくらいだったり……な、地味な詰みゲーです。


しかも運命の女神の力が悪い意味で不安定なときに、「最悪」な運命が勇者に降りかかると、流石に死にます。

リンク作品である「魔女様、勇者を拾う」で主人公××が冒頭で死にかけてたのもそれ。


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