4.依存度が高いとこうなっちゃうぞ!
「国光くん、」
急に立ち止まって、文はそっと―――メルヘンな世界に相応しい、清潔感ありまくりの神殿を指差した。
「やっと……辿り着いたかよ…っ」
「なげーんだよクソがッ!」と叫んで、俺は木の枝を放り捨てた。
―――俺たちが何したっていうんだ。これまでの道のりで、数回も野犬に遭遇して、襲われて……!
生き残るため、文が拳銃型の催涙スプレーを撃ち、俺が木の枝というか棒で鼻面をぶん殴るという作業を何度も命がけでやったわ。寿命が絶対縮んだぞこれ……!
あと何かもう経験値的なのが一気に上がった気がする。だけど体力は減ったし手は枝をブンブンしたせいで擦り切れてるし……舐めとけば治るか。
「国光くん、君は原始的な事をする子だね」
「しょーがねーだろ」
「余計汚くなる。……ほら、マキロンと絆創膏」
「お前のポケットどういう構造になってんだよ……」
しかし有難い。俺は渡された文のハンカチを汚すのに少し罪悪感を感じつつ、ちゃっちゃと処置した。
その横であいつは催涙スプレーの缶を取り変えて…お前どこに詰め替え用入れてたんだよ…。
「―――神殿とはいえ、ここから先はもっと危険な生物が出てくるかもしれない。…しかし、君は僕が守る。絶対に国光くんをエロ同人みたいな目には遭わせない」
「普通逆だと思うんだけど!地味にフラグ立てないで欲しいんだけど!!」
「元気いっぱいだな国光くん。さあ、行こうか」
「元気いっぱいで片付けんな!」
男子高校生がエロ同人みたいな目に遭うってどんな展開だよばぁーか!普通女子高生の方が―――…いや、うん、……お互い気を付けて行くか!
―――俺は変な妄想をしそうになった頭をぶんぶん振って、さっき放り投げた枝を拾い上げて神殿にそろそろと近づく。
階段の所で文を退けて背中に隠すように進むと、くすりと後ろで笑う声が…聞こえてんぞコラぁ!――――あ?
「わっ!?」
ばちんっと何かに弾かれて、文は階段から落ちた。…ま、まあ、一段目登っただけだったから、大した怪我は無いが…。
首を傾げた文がもう一度階段を上ろうとすると、再度「ばちん」だ。二度目の尻餅は不味いだろうと思ってその腕を掴む。
「……国光くんしか、行けないのかな…」
「かもな。俺は特になんともねーし」
「……僕は…」
「………」
「………だめ、なのか……」
「…………」
「……………」
「……え……えっと、す、すぐ戻る!お前は木の陰に隠れるなりして待ってろ。な?」
「……じゃあ、国光くん、僕の催涙スプレーを貸すよ」
「いらねー。俺がそれ持ってたらお前はどーすんだよ」
「スタンガンとメリケンサックがある」
「お前は日々何と戦ってんだよ!」
「鞄も持って来ていればトンファーが入っていた」
「だから何なんだよ、お前は何と戦争してんだよ!?」
「…君を守りたくて―――しかし私は女であるから、道具に頼るしかないだろう?」
「おっ、おま……!」
悔しいことにちょっと「きゅん」ときた。……が、何かおかしいだろ、何で俺はお前に守られる事前提なんだ!?……ま、まあ、その前提が今生きてるけどさぁ…!
「これ、スプレーの詰め替えの…あと一つしか無いから、大事に使ってくれたまえ」
「お、おう……いやいやいや!待て、お前はんな近距離用の武器を持つな!俺が持つから!」
「スタンガンかい?」
「メリケンサックで!」
出来るだけ文には強い武器を持っていてもらいたい。
いくら勇気凛凛過ぎてイケメン臭が漂ったって、中高と美術部であんまり外出したがらない女なんだ。多分うちの高校の女子の中でも非力……の、部類に入る筈。
俺だって帰宅部で文の家に入り浸ってるモサっとした男だけど、耐久力とかは俺の方が上、だろ―――……ああそうさ、もう勝つかどうかじゃねーんだよ、「耐えれるか否か」の世界だこのやろー。
「いいか、絶対動くなよ!動く時は野犬とかに襲われてしょうがない時とかにしろっ」
「……うん…」
「お前なあ、いつまでしょげてんだよ……お土産持って帰ってくるから期待して待ってろよ」
「…敵の首かい?」
「そんな土産あるかっ!」
「じゃあ饅頭―――……いや、ふざけないで言おう。」
「あ?」
「君が何事も無く生きて帰ってくれること。それが僕にとって最高の土産だ」
何コレ格好良い……。
―――じゃない!…あーっと、えーっと、……行くか!何も語らずにさっさと進むか!
「返事をしてくれないかっ」
「ぷぴゃあっ!?」
いやあああああああああああ変な声出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
おまっ、ちょ、後ろから急に抱きつくな!ただでさえ変な声上げてのた打ち回りたい所なのに!喉から変な声がぶしゃっと出そうだったのを堪えてたのに!
叱ろうにもおま、……そんな顔すんなよ忠犬ハチ公かお前は!!俺が悪いみたいだろ!何でこういう時だけ察しねーんだよ!
「くにみつ、くん……」
こ、この…忠犬があああああああああああああああああああああああああああ!!!
*
「くっそ……まだ顔熱――いやっ、これは照れじゃない!あの、あれ……リンゴ病的なものにかかってるだけだし!全然赤面してないからね!?病気だからね!」
一人で顔を隠したり擦ったり石像に否定を入れたりと、俺は何をしてるんだろうか。
……どうみても変な人だろうが、こうしてハイな空気を保っとかないと死んじゃうんだよ。怖いしさび……つ、つまんねーからな!
それに今のところ敵は見えないし、こんなところで泣き歩いてたら後が持たないし。…第一、俺が悲鳴でも上げたら、文は何とか中に入ろうとして怪我するだろうし………うう、でも怖い。
「ああもうまだなのかよ武器は……!――――お?」
置いてきた文が心配だし死亡フラグが地味に上がってるような気がするし、もう嫌だ。
―――そんな俺の三十メートルくらい奥に、やたら爽やかな空気が漏れてる扉が……これか?これなのか?
急いで駆け寄って扉に耳を当ててみる。……分厚くて分からん。鍵穴……あれ、鍵穴が無い……ええい、開けてやるっ!
「そいや――!」
俺は扉に体当たり―――するも、元々開いていたのか拍子抜けしてバランスを崩し、傷一つ無い大理石にびったーんした。……つめふぁい……。
「くそ――――……?」
【よくぞ参った、勇者の片割れよ】
「ふぉぉぉぉぉぉ!?」
後ろに仰け反る形で自然と閉まった扉まで後ずさると、俺はどこからともなく響いた声にビビって変な声を出した。こ、これが「女神様」……?
【そなたに、剣を。また会い見える時まで、我が世界を救う為に精進せよ】
い……一方的―――――!!
自己中とかそんなレベルですらねぇ!そりゃ俺らもそれなりの覚悟を決めてたけどもね、もうちょっとこう……謝罪の言葉とか!もっと優しげな労いとか応援とか!そんなのを付け加えてもいいんじゃないですかねぇ!
あとそんな俺の心の声が聞こえたのかは分からんけども!何も俺の足下に剣をブッ刺さなくてもいいじゃん!もっと大事に扱ってあげて!
―――
――――――
――――――――――
「……くそっ、中々引っこ抜けなかった……おいっ、ちゃんと待ってたか!?」
ちょっとゴテゴテしい剣を片手に(何か異様に軽いんだけど)全力疾走で文と別れた場所に戻ってみれば……誰もいない…?
しかもなんか血の匂いがす―――血の匂い!?
「文―――!?」
血痕を辿ると、探していたあいつは案外あっさりと見つかった。
見つかった……が、……木に凭れてる。力の抜けた手には拳銃型の催涙スプレーが落ちてる……え?
「ふ、文……?―――おいっ、文!文!?」
肩を揺さぶる。……反応なし。
首に触れて脈を……でも、もし………無かったら?もし、もし―――……
「文ぃ……!」
――――無理だ。
触れない。事は一刻を争うかもしれないのに。
情けないことに俺の心臓は不規則に荒れ始め、一気に冷水が旋毛から爪先まで駆け落ちて息も出来ない。目が渇いたように痛くて、耳がキンキンした。
思わず、俺まで倒れ込んでしまいそうになった、瞬間。
「ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎり」
文の背後から、野犬の頭を両手に……二足歩行で、狩りとった獲物を運ぶ――――猫?
「あっ、もうだめ…………」
我ながらこの台詞は女々し過ぎるが。
俺にはこれ以上のハプニング、耐えられそうにない……。




