第三部
どこか幼さを残した顔立ち、長い黒髪がいくらか大人っぽさを演出している。
そういう少女が、教会の入り口に立ったルクを見ていた。
「……あの」
「……」
長いすから立ち上がって、少女はずんずんルクに近づいてきた。ルクも一歩、教会に足を踏み入れる。
彼女はルクを見ていない。その脇をすり抜けて教会を後にしようとしていた。
「フィーズ、っていう人、知ってる?」
ルクは背中越しに声をかけた。少女の足が止まる。
「その人から紹介をもらって、ここに来たんだけども」
少女が振り返る。
「……知ってるんですか。私のこと」
「いや」
背中を向けたまま。教会の中に、独り言を言うように。
「ただ、君の境遇や、気持ちくらいはたぶん、よく分かる。他の人よりはね」
「……!」
「話がしたいんだ。少し、いいかな」
ルクは教会の奥に進んでいった。手前の椅子に荷物を降ろし、腰掛ける。
「……あなたの、名前は?」
「ルク」
「……フィーズさんから、聞いたことあります」
少女は後ろ手に教会の扉を閉めた。
埃っぽい室内が薄暗く閉ざされた。
「君の名前は?」
「アリィです」
「そう」
通路を挟んで隣り合わせ、二人は腰を下ろしていた。田舎の教会、都会のそれにあるような荘厳なステンドグラスもオルガンも無い。教義のために最低限必要な神父の存在すらない。
その空間には、どこか暗い空気をまとった二人がいるだけだ。
「紹介されたって言っても、フィーズから詳しいことは何も聞いてないんだ」
「私もです。ルクさんっていう……私と、同じような人がいるっていうことだけ」
「同じ、か。でもたぶん、君と俺は違う」
ルクは天井を見上げた。
「……ここ、好きなの?」
「……好き、っていうのとは違います」
「というと?」
「人と、会わなくて済むから」
「そっか。やっぱり俺たちは、おんなじかもしれないな」
アリィはルクを覗き込む。
「人と会いたくないから、一人で教会にいる。人と会わなくて済むから、旅を始めた」
「旅をしているっていうのも、聞いてます」
「なら、目的とかは?」
「それも、知ってます」
「そう」
ルクの旅、その目的。
目的と呼べるかどうかさえ、はっきりとしない目的。
「本題に、入ろうか。君は」
「……死期」
唐突に出た単語は、どこまでも暗い響きを伴う。
「人の死ぬ、その瞬間が、見えるんです」




