その1 思いもよらない夏休みの旅
その1 思いもよらない夏休みの旅
投稿致します。読んで頂けると嬉しいです。
「はい、お客様ですと、減塩を意識したメニューが大切です……」
「……80歳でお一人ぐらしのお客様なら介護保険を申請してみては……」
美和は次々とかかってくる電話に、丁寧に、そしてスムーズに相談業務をこなしていく。
「はぁ!お疲れ〜やっと終わったよ。健康相談の電話対応もずっとしゃべってると疲れるよねぇ。もう!今日は残業しちゃったし」
「美和、お疲れ〜明日から遅い夏休みでしょ。
誕生日祝いの旅行だっけ?」
「そう、友達と。31歳のお祝いを兼ねてね」
「そか。じゃあ楽しんでね〜」
(疲れた……)
美和は足早に帰路につく。
以前の美和は、主任看護師として大学病院に勤務していた。
婚約してた彼氏を職場の20代の子に寝取られ、彼女は妊娠。
(若い子にハマりやがって!)
美和は馬鹿馬鹿しくて、直ぐに婚約解消。
彼女と同じ職場もとっとと辞めた。
(主任で皆からの信頼も厚かった私が突然辞めた事で、職場は急に仕事がハードモードになり、彼女は皆から大分嫌味を言われたみたい。ちょっとはスッキリしたよ)
そして今の健康相談コールセンターに就職した。
(基本在宅だけど、週2回の出勤の時はやっぱり疲れるなぁ)
それでも人間関係に疲れ切った美和には、人と直接関わることが少ないありがたい職場だった。
(やっと仕事が終わったぁ。明日からは夏休み!
2泊3日の京都、大阪旅行。メインは推し活の旅だもんね。もう思いっきり、ストレス発散するんだから〜)
美和は徐々にテンションが上がってきた。
(あ、優からラインが何件もきてる)
明日から共に推し活旅する友人からだった。
「ごめん……美和。彼氏からインフルエンザ移った」
「夕方から熱が出て今39度」
「美和と京都で着物買って、大阪で推し活を楽しむはずがぁぁ」
「本当にごめんなさい。私の分まで、推し活してきて!ごほごほ」
「体が大事だよ。しっかり治してね。また今度行こう」
美和は優のラインに返信するとがっくりうなだれた。
(うわぁ、この不幸続きの人生!まったくもう!)
仕事の疲れが一瞬で吹き飛んだ。が、テンションはだだ下がりになってしまった。
(どうしよう、京都で優と推しのカラーの着物選んで推し活に参戦!とかめっちゃ予定してたのに……
もう京都では観光して、普通に推し活だけで帰ろうか。うわぁもう行くのもしんどくなってきたよ〜)
一時間程茫然としていただろうか。
美和は、はたと思いついた。
(そうだ!無理かもしれないけど、チケットは2人分あるし、SNSで同行者募集してみようか。人気グループだし誰か一緒に参戦してくれるかも!)
美和は早速SNSで推し活参戦同行の募集を投稿する。
要項は、
※自分は東京から行くこと。
※前日は京都で観光していること。
を書いた。
(さあ、どうだ。希望者はくるか)
投稿してしばらくすると通知が何件か届いた。
「どれどれ……」
SNSを見てみると人気グループだけあり、10件程参戦希望の連絡があった。皆当日大阪からの参戦希望。
しかし1人だけ、
「東京から一緒に新幹線で同行希望。可能ならご一緒に京都観光もいかがでしょうか。当方、天子と言います」
という人がいた。
(この言葉遣い、あまり若い子じゃなさそうね)
美和は、仕事モードの時は大丈夫だが、基本人見知りで人と直ぐ打ち解けるコミュ力はない。
本来なら当然大阪からの同行の人を選ぶのだが……
不思議な事に、なぜか天子という人を選んでしまった。
明日のお互いの服装と待ち合わせ場所など、連絡を取り合ったが……
(初めての人と、東京から一緒に新幹線に乗り、京都観光まで!
ビジネスホテルは、シングル二部屋しか予約できなかったから部屋は別々だけど。
初対面で一緒に一泊して、大阪で推し活かぁ。
なんで私、こんなハードル高いほう選んだかな?
でも今日は疲れたよ。もう何でもいいや……)
美和はベッドに横になった途端、爆睡し始めた。
次の日、待ち合わせの場所に行ってみると、ピンクの格子柄の着物に、黒髪前髪ぱっつんの長い髪を下ろして、眼鏡をかけた年齢不詳の可愛い系女子が待っていた。
隣にはチェックシャツにバンダナをつけた、昔の秋葉系ファッションをしたおじいちゃんが立っている。
「美和とはお前……じゃない、美和さんとはあなたですか?私は天子じゃ、じゃない天子ですう」
「あ、はい。私が美和です。よろしくお願いします」
「よろしくなのじゃ、じゃないよろしくお願いします」
(単衣の可愛らしいピンクの格子柄にバラ柄の兵児帯を今流行りのパタパタ結びにして、茶色のブーツに合わせた格好は、なかなかコアな着物好きとみた。いいよ!天子ちゃん)
「天子さんのお着物コーデ、とても可愛いです!
それ、『菊千代モダン』のですよね」
「そうなのじゃ、じゃないそうなの〜昨日初めてお店に行ったから、記念に買っちゃった!」
「素敵です!私もお着物大好きなんです。着てくれば良かったなぁ」
美和が残念がっていると、隣にいた秋葉系のおじいちゃんが話し始めた。
「うん、やはり眼鏡っ娘は良きだのう……
ところで美和さん、天子は私と一緒に育ったので、ちょっと年寄りくさい話し方をしてしまう。また、最近ド田舎から都会に出てきたので世の中の常識に疎い。ご迷惑かもしれませんが、よろしく頼みます。私はちょっと秋葉原に諸用がありますので、これで……」
「平松の宮、またな!」
天子はそう言っておじいちゃんと別れた。
(平松の宮?ユーザーネームかしら)
遠くに見える平松の宮へ、ずっと手を振っている天子に美和は声をかけた。
「さあ、行きましょう天子さん」
「そうじゃな、美和さん」
そう言って、天子はにっこりと笑顔になった。
一瞬、美和には何だか天子がキラキラと光っているように見えた。
(あれっ?)
美和が目をこすってもう一度天子を見ると、もう光は見えなかった。
(変だなぁ、疲れてるからかな?いやいや、気持ちを切り替えて行かなきゃ)
美和は天子を連れて駅の中を進んで行った。
◆
天子と別れた平松の宮は、ウキウキで秋葉原への電車に乗っていた。
(こっちは久しぶりじゃな!えっと〜まずはメイドカフェのあいちゃんに会ってぇ)
いかに店を効率よく巡るかAIに聞いている時急に嫌な予感がして、リュックの中を確認した。
「しまったぁ!天子様に財布を渡し忘れたぁ」
ちょっと周りが引くくらいの声で叫んでいた。
次回の投稿は、9月19日(土) 7時です。
よろしくお願い致します。
このお話は「早死して転生したアラフィフですが、異世界の江戸では人生愉快痛快です!
のスピンオフになります。




