【プロローグ】ルミナリア王国
「フィレン……」
王宮にセレスの声が広がる。
「もうこの仕事飽きた!!気分転換にちょっと遊びに行っていい?」
「女王様!職務を放棄しないでください!」
「えー!だってつまらないんだもん!よく分からない紙に判子押すだけの仕事、誰が好き好んでやるのよ!」
「昼になるまでに終わらなかったら、おやつと昼食はなしですよ!!」
「それは絶対やだ~!!」
「じゃあちゃんと業務をこなしてくださいよ!」
「はぁ~い……」
セレスは机に突っ伏しながら、山のように積まれた書類を睨みつけた。
「……ねぇ。この"こうきょう……ひ"ってなんなの?ほんとにいるの?」
「公共事業費ですか?いるに決まってますよ!そのお陰でこの王国が成り立ってるのも当然なんですから。」
「ふーん。」
「じゃあこれは?」
セレスは別の紙をひらひらと振る。
「“騎士団遠征用携帯食料追加申請”……乾燥肉二百袋。多くない?」
「遠征部隊は百人規模です。むしろ少ないくらいですよ」
「えぇ……騎士ってそんなに食べるの?」
「特に第一騎士団は」
「なるほど。脳筋集団め……」
「聞こえていたら団長が泣きますよ」
フィレンは呆れたように眼鏡の位置を直した。
セレスは椅子をぎぃ、と揺らしながら天井を見上げる。
「でもさぁ」
「なんですか?」
「こういうの、フィレンが全部決めればよくない?私いらなくない?」
部屋の空気が少し静かになる。
フィレンはペンを置き、真面目な顔でセレスを見た。
「駄目です」
「即答!?」
「最終的に決めるのは女王です。皆、“あなたが決めた”という事実を信じて動くんです」
「でも実際ほとんどフィレンが説明してるじゃん」
「説明と決断は別です」
セレスは口を尖らせる。
「そうやってむずかしいこと言う……」
「簡単ですよ。もし間違えた時、責任を負うのが女王です。」
その言葉に、セレスは少しだけ黙った。
窓の外では鐘の音が鳴っている。
王都の人々はいつもの日常を過ごしているのだろう。
パンを焼く匂い。 市場の喧騒。 子どもたちの笑い声。
それら全部が、この退屈な書類仕事の先にある。
セレスは小さくため息をついた。
「……女王って、もっとこう……かっこよく剣を振ったり、魔法を撃ったりする仕事だと思ってた」
「それは物語の読みすぎです」
「でも、フィレンも昔そういうことしてたんでしょ?」
フィレンの手がぴたりと止まった。
「……誰から聞いたんです?」
いつもの穏やかな声なのに、妙に冷たかった。
「?」
「早く答えてください。それをどこで聞いたんですか?」
フィレンの目から光がなくなったのがセレスには見えた。
「私はちっちゃい頃からフィレンと一緒にいるのよ?そりゃあフィレンの親戚とかから聞くわよ。」
「はぁ~」
フィレンは大きすぎるため息をした。
「というか、私、数百年ぐらい生きてるけどなんでフィレンは見た目が変わらないの?皺のひとつもないじゃない。」
「私は修道女の中でも最も偉い司祭長ですよ?神のご加護を受けてるんです。」
「なんで司祭長が女王の子守りなんかしてるのよ。」
「子守りされる女王がどこにいるんですか?」
「うぐぅ……」
そのとき、城の庭園の方からドガンと鈍い音がした。
「今度はなによ!?」
「庭の方からしましたけど……」
「反乱軍でも暴れてるの?!」
セレスとフィレンは急いで庭園に向かった。
「……」
「なんでこいつ花壇に頭突っ込んでんのよ!」
セレスは急いで花壇から少女を引き抜く。
「ちょっとあんた!これはフィレンが大切に育てた花よ!」
「女王様!心配するのはそこじゃありません!」




